#51 家の窓から

夕方になると、近所の空き地に小学生が集まる。今日もガキ大将が下手くそな歌を歌っている。それを聞いている友達たちは、どんな気持ちなのだろうか。黄色い半袖、黒い短パンのメガネ少年は、今日もてんてこまいだ。
さっき、黄色い半袖の少年が、ガキ大将にマンガを取り上げられた。その少年が今、ドブに落ちた。全身をドロドロにさせながら、なんとか家にたどり着いた。
黄色い少年は、数分後に2階の窓から飛び出した。頭に黄色い竹とんぼをつけている。少年は空でニヤニヤしながら財布を開いた。1万円が入っていた。臨時収入だろうか。彼はそのままどこかへ消えてしまった。
私は彼に夢中だ。しかし、私は彼の名前すら知らない。果たして彼の名前を知ることができる日は来るのだろうか。

翌日、仕事が休みだった私は、今日もコーヒーを飲みながら窓の外を眺める。今日は髪の毛ツンツンの少年が、ガキ大将とラジコンで遊んでいる。そのままラジコンはガキ大将のものになってしまった。あいつぁ手がつけられないな、と思っていたが、どうやらあいつの苦手なものは母親らしい。
メガネ少年がやってきた。青いタヌキも一緒だ───タヌキ…?ロボットか…?人間っぽくもあるな…なんかポケットついてるし…。そんなことを思っていた矢先、青タヌキがポケットから特殊なグローブを取り出した。あっ、メガネ少年が昨日空を飛んでいたのは、この青タヌキのポケットから出てきた道具を使っていたのかもしれないな…。
メガネ少年はガキ大将の打ったホームラン級のボールをことごとくキャッチする。青タヌキの動画はすべて、特殊な能力が備わっているのだろう。バッティングではいいところなしだったが、守備ではスーパープレーを連発していた。気づいたら青タヌキがいなくなっていた。
メガネ少年はひとりで家に帰ろうとしていた。彼は今日もドブに落ちた。メガネを無くし、あらゆるものにぶつかりながらなんとか家にたどり着いた。母親に怒られただろうな。そんなことを思いながら、私は今日も眠りにつく。

数週間後、仕事が落ち着いた私は、ひさしぶりに窓の外を眺める。メガネ少年の家に、可愛らしい女の子がやってきた。メガネ少年と女の子が玄関先で話し込んでいる。どうやら彼の名前は「のび太」と言うらしい。漢字はもちろんわからない。そして女の子は「しずか」という名前らしい。可愛らしい名前だ。メガネ少年は女の子と2人で頭に黄色い竹とんぼをつけた。

─────満身創痍なラッキーボーイは、今日も空を飛んでいる。

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