仏さまを描けたらいいなぁと思って…初心者向けの題材を選んで描いてみた
いつだか八ヶ岳の山小屋に泊まった時のこと。
そこのスタッフの沖縄の女の子がとてもアート好きな方でした。
独特の世界観を持っていて、それを絵にするのが上手いんです。
とりわけ目を奪われたのは、小屋の落書き帳に描かれたかわいい仏さまの絵。
かわいいけど、精神性も備えた魅力ある作品になっていました。
あれを見てから、いつか自分も仏様の絵、上手く描いてみたいなぁと思っています。
いつか、ではいけないので、今回ちょっと仏さまの絵を描くことにチャレンジしたいと思います。
用意するのはタブレット、アイペンシル、そして仏教系の展覧会図録3冊。
正直絵心もないし、タブレットでお絵描きもしたことない私。
果たして仏様は描けるのでしょうか?!
ではさっそく、題材選びから。
仏さま、とは言っても様々な媒体があります。
メジャーなのは仏像ですね。続いて仏画。あとはレリーフ(浮き彫り)や繍仏(縫われた仏さま)などがあります。
どれにしても技術力はとっても高いです。
逆に言えば、描く方としてはハードルが上がってしまうもの。
なので、シンプルな線描に向いたものを今回三つ選びました。
それが、懸仏、白描画、そして金銅仏です。
まずは懸仏から行ってみましょう。
懸仏(かけぼとけ)は主に神社の本殿、そこの神様のいる室前の扉に掛けられる仏教工芸品のこと。
神仏習合の前近代、神様の正体は仏さまとされていて、その証明のために内陣前の扉に掛けられたのです。
例えばこんな感じ。
その特徴を一言で言うと、「愛らしい」。
仏さまは通常プロポーションが整っていて、端正なお姿をしたものが多いです。
それ故に絵として再現するには技量の高さが求められます。
でも懸仏は例外。
小さな肩、狭い頭身、そして省略されたお姿は描き写すには最適です。
そしてお顔や体は可愛らしい「ミニドラ」みたい。
愛玩したくなるような親しみやすさと、神様の本当の姿を表すと言う宗教性のギャップに惹かれるものがあります。
懸仏は忘れられた素晴らしい仏教美術の一つです。
神仏分離によってその役目を失い、多くが神社から離散しました。
それでも縁のあった仏教寺院に引き取られたり、好事家によって集められたりして、今も優れた作例を見ることができます。
だいたいは銅製のものが多いのですが、中には木製のものも含まれます。
私が見た感じでは、特に鎌倉時代のものが、シンプルながら特に小ぶりな可愛らしさが出ていて好きです。それ以降は装飾過多かつ大型化してしまうので。
懸仏は背面の板と、本体の仏さまの人形から成ります。中には人形が取れちゃったもの、線描を板に施しただけのものもあります。
懸仏が絵を描くのに適しているな、と思うのはやはり頭身が小さいこと。
これによって、破綻を少なくして仏さまが描けます。
また、ミニマムサイズなので、持物や光背などの細部は表現できません。
例えば一番上の千手観音さま。持物はなく、無数の手がくっつけられています。
10センチそこそこの仏さまなので、精巧に作ってもすぐ壊れてしまうのです。
逆に言えばかんたん作画で済むので、描く方はありがたいもの。
かわいく、シンプルに描きたいなら懸仏がオススメです!
二つ目に紹介するのは、「白描画(はくびょうが)」。
これはなんでしょう?
正解は黒い墨でもってささっと描かれた、イラスト仏教画のこと。
絵を描かれる方は、必ず下書きみたいなものを必ず描きますよね。
これがないといきなり本番で描くハードルが上がり過ぎてしまいます。
白描画はラフスケッチよりは、もっときちっと描かれた絵です。
なので、最初は下書きだったのが、独立した一ジャンルとしてのちに成立しました。
高野山の画僧で白描画をコレクションして回ったマニアもいたほど、人気がありました。
こちらをご覧ください。
非常に動きのある神様を描いた白描画。
丁寧な筆運びながら、破綻なくポージングが描けている点、相当な技量の持ち主によるものですね。
こうして見ると、非常にレベルの高い画僧による、シンプルなイラストレーションこそが白描画ということでしょう。
白描画はこうしたように、躍動感を強調したポーズを描いたものが多いため、菩薩や如来のような動きに乏しい図像よりも、天部(仏様を守護する神様)を描いたものが圧倒的に多いです。
白描画は色彩に頼らず、ただ墨をたくわえた筆の運びによってのみ表現されます。
それだけに、その線描は神がかったように美しいですし、構図にも破綻がありません。
一瞬でも間違えれば駄目になってしまう緊張感こそが、白描画の芸術の奥底にはあります。
白描画を見ると、イラストレーションとしての、いい意味での「俗っぽさ」があるのは不思議です。
それは絵師のプライドがかかったジャンルだからでしょう。
ごまかしの効かない一発勝負だからです。
ですから、書道の「真行草」で言えば真。描くときは、臨書するようにその線を移しとらないといけません。
一見、下絵みたいだから描きやすいかも、と思える白描画ですが、逆に相当な集中力がいるのが実際です。
今回「描きやすい仏教美術ジャンル」に挙げた三つの中では、白描画が一番レベルが高そうです。
最後にご紹介するのは、金銅仏。
その名の通り、金や銅を溶かして造られた仏さまのこと。
前近代を通して造られた続けましたが、実は飛鳥〜奈良時代にかけてが最盛期でした。
日本最古の寺、飛鳥寺におわします飛鳥大仏もまた銅製です。
乾漆技法という特殊な技法が流行ったのが奈良時代、そして平安以降は木造仏が主流になります。
それ以前は大型の仏様を造る技術も技量もなく、代わりに中国の仏像を招聘したり、小型の金銅仏を造っていたのです。
その一例がこちら。
調布・深大寺のお釈迦さまを思わせるお顔立ちの金銅仏。
小ぶりながら衣紋のひだの造形は秀逸で、ぱんぱんと張った仏さまのお顔も力強いです。
金銅仏も懸仏と同じく、大ぶりなものは後世にならないと出現しません。
ただ、懸仏は丸みを帯びた形状になるのに対し、金銅仏は立像が多く、プロポーションも美しいものが多いです。
そうなると金銅仏は頭身の整ったものが多く、くびれを強調した異国風のものもあります。
金銅仏がイラストを描くのに適しているポイント、それは塊としてのまとまりがあることだと思います。
要するに、技術的にはまだ飛鳥や奈良時代ですので未発達な分、仏さまを一つの塊という物質として捉えやすいのです。
ですから、金銅仏を描く際には、衣紋やひだを強調するのも大事ですが、まずは体や頭という大雑把な部位の量感を出していきたいなと思います。
ここからは実践編。
仏様を見るのは好きな私ですが、ちゃんと描くのは初めてな私。
どんな絵が出来たのか、晒すのも恥ずかしいですが、さっそく見ていただきましょう。(申し訳ないです、彩色したらとんでもないことになったので、スケッチに留めておきます)
マイ・ファースト・ブディスト・ペインティング、です。
ホント絵心がなくてすみません。
でも、思いました、仏さまを描くと心が安らぐ!
あの山小屋の沖縄の女の子は、きっとそうやって心の平穏を保っていたんだなぁって。
今までかわかわな女の子の絵が上手くなりたいと思っていた私ですが、仏さまもチャレンジしたいです。
皆さまはどうでしょうか?写仏、とっても魅力的ですぞ。
最後に今回使った図録紹介。
右から金銅仏、懸仏、白描画の本です。
ちなみに全部希少度かなり高め。神保町でも見つけるのは難しいです。
トーハクの展覧会図録だと東寺展が、あとは醍醐寺展あたりに白描画がのっていますのでご参照を。
以上、ここまでご覧いただきありがとうございました。
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