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【超ショートショート】(212)~願いを報いる白い鳩~☆ASKA『晴天を誉めるなら夕暮れを待て』☆

これはある男の命をかけた戦いである。

男が生まれる前、
母親のお腹の中にいた頃。

陣痛が始まり、
男は〈健康な男児〉として生まれることが、
神様から届けられた
次の人生での指令書に書かれていた。

男は、陣痛の痛みに合わせるように、
坂道を下り歩いていく。

少し長く陣痛が止まった時だった。

坂道の途中に平らな広場に出ると、
不気味な出で立ちの妖怪のような男が、
次の陣痛待ちの男に、
こう話しかけた。

「今から生まれるんですか?旦那!(笑)」

「えぇ、そうですが」

「そりゃあ好都合ってもんだ!ワッハッハ!」

その不気味な出で立ちの妖怪のような男が、
話も適当に、次の陣痛が始まる間際、
男に、魔術師が与えた呪文と、
印を男に面と向かって空に刻んだ。

「これで、旦那も終わりでっせ!(笑)」

男は妖怪のような男に、
その言葉の意味を尋ねようとしたが、
すでに陣痛が再び始まり、
男は、先の坂道を下れと、
強風に背中を押されていた。

結局、その強風と共に、
坂道を転げ落ち、
男は意識を失った。

男が次に目覚めたときは、
すでにこの世だった。
意識は大人であるのに、
言葉を話そうとすると
「バァブー!」になってしまう。

そのため、言葉を話せない、
身体も自由に動けないやり場のない孤独で、
男はいつも怒っていた。
赤ちゃんの姿ではそれが、
よく泣く子というレッテルになった。

男は、この世の、
父と母から名前を授けられた。
「海を渡る」と書いて、
「海渡(かいと)」

海渡は、
3歳になる頃に、
医者からある病気であると診断された。
身体の筋力が発達せず、
歩くこともおそらくできないだろう。
最悪一生寝たきりだろうと言われていた。

海渡には、
生まれる前から、
自分の体力や運動神経に自信があり、
次の世では、アスリートになると、
決めていたのだ。

そんな彼の思いは叶うことはないと思われた。

海渡が、
小学生になる頃、
風邪をこじらせ入院した海渡の病室に、
白い鳩が迷い込んできた。

その白い鳩は、
迷うことなく、逃げることもなく、
まっすぐに海渡の元へ飛んできた。

「どうしたの?ここは病院だから、
鳩さんが入って来たらダメなんだよ!」

と海渡が話すと、白い鳩は、
まるで人間の言葉がわかっているような所で、
うなずいて海渡の話を聞いていた。

「海渡!」

「えっ!?」

「僕だよ!」

「鳩さん?」

「うん!そうだよ!」

「人間の言葉がわかるの?」

「わかるし話せるんだ!(笑)」

「へぇ~(笑)」

その出会いから、
白い鳩は海渡の側にいるようになった。

海渡がある学校の帰り、
とても寂しそうな顔をしていた。

白い鳩は、その様子が気になり、
夜海渡の元を訪れた。

「どうしたの?海渡」

「あのね!今日、学校の宿題が出たんだけど、」

「どんな?」

「将来の夢」

「将来の夢?」

海渡は、自分の身体が一生不自由と
言われていたことを鳩に話した。
そして泣きべそで本当になりたい夢を
海渡が話す。

「僕、メジャーリーガーになりたいんだ!」

白い鳩は、その夢を聞いて、
こう提案した。

「海渡?僕が君の夢を叶えるよ!」

「どうやって?」

「僕はいつもは白い鳩の姿だけど、
こう念じると、ほらっ!
どんな人間にもなれるんだよ!
スゴいだろう!(笑)」

「うん!スゴ~い!」

白い鳩は、
海渡のために、
自ら海を渡りアメリカへ!

そして
メジャーリーガーになる努力を続けた。

白い鳩が海を渡った10年後、
海渡は、高校生になっていた。
そして、
ある日本人メジャーリーガーが、
アメリカで活躍を始めた。

それから、さらに10年が過ぎると、
日本人メジャーリーガーは、
世界一有名野球選手になっていた。
アメリカでのあらゆる賞を受賞し、
日本に凱旋帰国をする。

たくさんの報道陣に囲まれた空港を
脱出し、そのメジャーリーガーは、
ある男の元へと向かった。

「やぁ!海渡!久しぶり!(笑)」

「えっ?」

海渡の目の前に、
海渡も憧れている日本人メジャーリーガーが
立っていた。

「海渡!僕、約束果たしたよ!」

「約束?」

「そうさ!君との約束!(笑)」

「うん?」

日本人メジャーリーガーは、
海渡の目の前で、
突然苦しみ出すと、
煙に囲まれ、
その煙から白い鳩が現れた。

「白い鳩?」

「海渡!まだ僕のことわからないの?」

「うん!ごめん」

白い鳩は、
なぜ海渡が不自由な身体にさせられたのか?
なぜ白い鳩が現れたのかを話した。

「ごめんね。僕は海渡にひどいことをさせたね。」

「何のこと?」

「身体だよ!」

「僕は今は白い鳩だけど、
本当はね、僕は君の前の人生の海渡なんだ!」

「へぇ?」

「前世って話したほうがわかりやすいかな?」

「うん!」

「僕は前世でね。
人に少しひどいことをしたんだ!」

「どんな?」

「あ~、人を切って怪我をさせたんだ!
その怪我をした人は、
その後一生歩くことができなかったんだ。」

「うん」

「海渡が生まれる陣痛の時、
広場で出会った妖怪のような男がいただろう?」

「うん」

「あれが、その人なんだよ!」

「その人?」

「僕が前世で怪我させた人」

「へぇ!でも歩いていたよ!」

「そうだね。
でもそれはこの世の人じゃないからさ。
あの世は身体の不自由はないんだよ!
みんな自由になるんだ!」

「へぇ~」

「海渡が不自由の身体になったのは、
だから、僕のせいなんだ。」

「でも、どうして鳩になったの?」

「それはね、君が陣痛の途中で
魔術に掛けられたって聞いたからだよ!」

「魔術?」

「妖怪のような男が君にしたことが魔術だよ!」

「どうしてそんな?」

「僕への恨みを君になすりつけたんだ!」

「でも・・・」

「その妖怪のような男は、
今頃神様のご命令で地獄へ向かっているよ!」

「地獄?」

「あ~、向こうでお務めをするのだろう、
長い間。」

「なんだか、ちょっと可哀想だね!」

「うん、そうだね!
それもどれも、本当に一番悪いのは、
僕なんだ!それなのに・・・ね」

しばらく、白い鳩が沈黙を続けた。
海渡もそれに付き合い、
白い鳩が話し始めるのを
静かに待った。

「海渡?」

「なんだい?」

「君はメジャーリーガーになりたいんだよね?」

「うん!」

「今もその夢は変わっていないかい?」

「うん!変わってない!
ずっと君に憧れているんだ!
ほら、鳩のままじゃあ、
僕つまらないよ!
早くメジャーリーガーの姿に戻って、
僕の前に見せてよ!
ユニホーム姿を!」

白い鳩は海渡の願いを受け入れ、
日本人メジャーリーガーの姿に戻った。

海渡は、自分のユニホームや野球グッズに
サインを求めた。
白い鳩もそれに応えた。

すべての海渡の願いを叶えると、
白い鳩のメジャーリーガーが大切な話をし始めた。

「海渡?よく聞いてね!
僕、もう帰らなきゃ行けないんだ!」

「帰るってアメリカに?」

「違う!あの世」

「天国?」

「そうさ!」

「でも、どうやって?」

「それはね!見てればわかるよ!」

白い鳩は、日本人メジャーリーガーから、
再び白い鳩の姿に戻った。

そして、こう話した。

「海渡?今日から君が僕になるんだよ!」

「僕?白い鳩?」

「違うよ!日本人メジャーリーガーだよ!
君が君の夢の人になるんだよ!」

「どうして?どうやって?」

「僕はね、君に掛けられた魔術を解くために、
神様と約束をしたんだ!」

「どんな?」

「それはね、身体の不自由な君の代わりに、
海渡がないたいものになって、
その身体を海渡にあげなさいってヤツ」

「へぇ~」

「だから、今日が約束の最後の日なんだ!
あと1時間で天国にいる神様に、
戻りましたって報告しないと、
僕も地獄に行かなきゃ行けなくなるんだ!」

「えっ!」

「だから、海渡?
僕の身体、受け取って!」

その言葉を最後に、
白い鳩の姿も消えた。

海渡は、
あまりに突然のことで、
呆気にとられて、
別れの涙を流す時間もなかった。

海渡は、その後、
強烈な睡眠薬を飲んだように、
朝まで眠り続けた。

翌朝、海渡が起きると、
今までは人に掻いてもらっていた
背中のかゆみを、自分の手を伸ばして掻いている。

でも、海渡は、
まだ自分に何が起きたのか、
気づかずにいた。

朝は母がリビングまで海渡を運び、
食事の介助をする。

海渡の母が海渡の部屋に入ると、
「どちら様ですか?」
なんて言いそうな表情をして、
部屋を歩き回る海渡を見た。

そして、
少しずつ何かを思い出すように、
母の目から涙がこぼれた。

海渡を涙を流す母が抱きしめると、
ようやく海渡も自分に起きたことを感じた。

「お母さん!僕、歩いている?」

「えぇ、歩いているわ!」

海渡は、夕べの白い鳩が話したことを、
思い出していた。

そして、
海渡は、この世の本当の自由を手に入れた
日本人メジャーリーガーとして、
アメリカに向かった。

白い鳩は、
アメリカに渡った時から、
自分の名前を《海渡》にしていた。
人間の姿も仕草も、
何もかも海渡そっくりに作り込んでいた。

そのため、
きのうまで身体が不自由だった男だと
誰も思われなかった。

海を初めて渡った海渡は、
アメリカでの歓迎ぶりに涙を流した。

そして彼は白い鳩に感謝した。

「この世に生きる喜びを教えてくれてありがとう」と。

アメリカでの
海渡の自宅には
時々白い鳩がやってくる。

でも、
会話はできない。

ただ、
海渡の側にいて様子を伺っているだけだった。

唯一、白い鳩が姿を消すときがある。

それは、
海渡の自宅がきれいな夕日に照らされたとき、
白い鳩は、
その後の夜の訪れと共に、
白い星になったように、
星たちに紛れて姿を隠す。

それを海渡は、
星の中から白い鳩を探すのが好きだった。


今日もどこかで、
そんな遊びをひとつの魂が
遊びあっているのだろう。


(制作日 2021.1.1(土))
※この物語はフィクションです。

今日が発売記念日の
ASKA『晴天を誉めるなら夕暮れを待て』

このシングルジャケット写真から、
今日のお話を思い付きました。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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今日が発売記念日の曲
ASKA
『晴天を誉めるなら夕暮れを待て』
作詞作曲 ASKA 編曲 十川ともじ
(1995.1.1発売 シングル)

YouTube
【ASKA Official Channel】
『晴天を誉めるなら夕暮れを待て』
☆Music Video☆
https://m.youtube.com/watch?v=z8GV4ZGCFu8
☆ライブ映像☆
https://m.youtube.com/watch?v=TsjkFJrf2SM

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