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【超ショートショート】(45)☆プラネタリウム☆~箱入り主人~

「君が死んでも、僕は生きるよ」

そう話してたあなたが、
今日、事故に遭い、病院に運ばれたと、
お義母さんから電話があった。

どれだけひどい状態かと、
恐る恐る病室へ向かうと、
ただのかすり傷。
少しだけ、転倒したはずみに、
歩道に頭を打ったということで、
検査のために病院に運ばれただけだった。

翌日、頭の検査。

午後、担当医から電話。

(担当医)
「今日、遅くなってもいいので、
ご家族で、病院に来てもらえませんか?」

あまり良くない知らせだと案じ、
詳しいことは、電話では聞かなかった。

夜、
家族が揃ったところで、
担当医が病室にやって来た。

(担当医)
「ご本人は、どんなことも話してほしいと、
言われていますので、
ここでお話ししてもよろしいでしょうか?」

みんな、あなたの様子をうかがい、
あなたが頷くと、みんなが頷いた。

(担当医)
「今日、検査しましたが・・・、
単刀直入に話しますと・・・、
脳に影があり、それが僕らにとって、
あまり良くない場所にあります。
これですと、手術が難しい。」

(お義母さん)
「どこの病院でもですか?」

(担当医)
「はい。どんな名医でも難しいですね。
例えば、手術出来たとしても、
目を覚ましてみたら、
手足が動かないなど、
神経に後遺症が現れるかもしれません。」

(お義父さん)
「手術せず、このまま普通に暮らせますよね?」

(担当医)
「いいえ。
次第に、脳の神経を圧迫して、
身体の自由が効かなくなってきます。
定期的な検査が必要ですが、
この脳の影は、
少しずつ大きくなってきたんだと思います。
今日ご主人の問診をしたら、
脳の影と思われる症状が、
約1年前からあったみたいです。」

(あなた・主人)
「先生、僕はあとどれくらいで、
寝たきりになりますか?
あとどれくらい生きられますか?」

(担当医)
「一般的に、この状況ですと、
あと1年以内に寝たきりに。
それから数ヶ月で・・・。」


先生の話の翌日から、
あなたの闘病生活がスタートした。

1年間、
身体が自由なうちにできることを、
全部やって、
想い出の記録を残すことに、
あなたは一生懸命だった。


あなたの病気がわかって、すぐ、
私はインフルエンザにかかり、
肺炎も併発しているからと入院。

毎日、あなたはお見舞いに来てくれた。
私が入院した月曜日には、
シクラメンの鉢植えを持って来てくれたね。
でも、入院患者のお見舞いとして、
鉢植えは、「根をはる」から、
基本的に不向きなプレゼント。
でもあなたは、

「綺麗だから、
君も好きでこの時期に買って来るから、
今年は君の代わりに
僕が買ってあげたんだよ!(笑)」

「あげたんだよ!」って台詞には、
ちょっと上から目線でムカッときたけど、
照れ屋なあなたが、
嬉しそうに花を買ってくるなんて、
あなたの病気のお陰ね。

火曜日、水曜日、木曜日、
コンビニスイーツを持参。

「君と一緒に食べたい」

残業を切り上げて、
面会時間ギリギリやって来て、
一緒に食べてあげた。

(あなた・主人)
「今日のスイーツ、気に入った?」

(私)
「まあまあ。」

そう返答すると、あなたはいつもガッカリする。
私が好きなコンビニスイーツは、
チョコ入りクレープ。
このスイーツは、
高校生の時に初めて付き合った
10コも年上の人に、
「これ美味しいよ!」
と、勧められて好きになったのを、
あなたは、いつも気にして、
コンビニの新作スイーツが出る度に、
「気に入った?」って訊いてくるね。

金曜日、
「今日は残業が終わらないから、
お見舞いには行けなくなった。
ごめんね。」
と、夕方にあなたからメールがあった。

土曜日、日曜日、
午後の面会時間になると、
一番乗りでお見舞いに来た。

「ねぇ、これ見て!」

スマホに保存された子犬や子猫の動画を、
ずっと見せられた。

「この子、君に似てるよね?
こいつは僕に似てるな!(笑)」

月曜日、退院。
仕事の予定を翌日にずらし、
付き添いのために、休んでくれたあなた。

「もうすぐ家だよ!(笑)」

家に入ると、やたらと嬉しそうに、
部屋のドアを開けるあなた。

「これ、君が気に入った子。
クリスマスプレゼントに買っちゃった。(笑)」

そこには、
私似とあなた似の子猫が、
真新しいケージの中で、
静かにこちらを見つめていた。


あなたが、寝たきりになり、
あとこれくらいの命の時間の宣告も受ける。

あなたは、入退院を繰り返す中で、
特に一人になることをとても嫌がっていた。
病室でも、自宅でも、
私が居なくなることを嫌がっていた。
だから私はあなたに、

「私が入院した時、
よく天井の穴の数を数えたのよ。
毎日穴の数が変わるから、変なのよね(笑)。」

そう話すと、
自宅の天井の穴の数を数え始める。
時々添い寝しに来る2匹の猫に邪魔されて、
何度も最初から数え始めるうちに、
寝息をたてて、猫たちとおやすみ。


担当医から告げられた命の時間の締切の頃、
あなたは意外に元気で、
担当医も診断を間違えたのかと、
その時間を半年も、冗談に伸ばしてくれた。

(あなた・主人)
「あのね、僕と一緒になってくれてありがとう。」

(私)
「何?気持ち悪い、急に(笑)。
変な事言わないで(涙)」

(あなた・主人)
「ごめん。
急に、天井見ていたら、話したくなったんだ。
あの辺の穴を線で結ぶと天使に見えたせいかな?」

(私)
「どこ?」

(あなた・主人)
「あのね、もうコンビニスイーツ、
買って来てあげられないけど、
初恋の人より、僕の選んだスイーツのほうで、
気に入ってくれたのあった?」

(私)
「無い。(笑)」

(あなた・主人)
「あぁ~、まだダメかぁ~!(悔)」

(私)
「嘘だよ!ちゃんとあったよ!(笑)」

(あなた・主人)
「何?」

(私)
「あなたが作ってくれた手作りクレープ。
たくさんイチゴを入れてくれたの、憶えてない?」

(あなた・主人)
「あぁ、憶えてるよ!(笑)
あのイチゴ、
1パック千円の高級イチゴを使ったんだよ。
君には秘密で(笑)」

そんな想い出話をしながら、
一緒に夢の中へ入ってしまう。

それから1週間後、
あなたは、薬で眠らされる前に、
こう話した。

(あなた・主人)
「僕は本当に君に出会えて幸せだった。
でも、あまりに好きになりすぎて、
君が使う箸にまでヤキモチやいた。
いつも箸は君にキスされてうらやましかった。
それから、2匹の猫だけど、
君似と僕似で飼った訳じゃないんだ。
もし僕が居なくなったら、
君が寂しがらないように、
僕らには子供が居ないから、
その子供の代わりに飼ったんだ。
君が僕が居ない後、
泣いてばかり居ないようにってね。
僕は君の笑顔が好きだよ。誰よりも。
だから、仏壇の前でも笑ってほしいんだ。
最後になるかもしれないからね、
僕、君の事愛してるから、
側に居るからね。
あまり僕の事心配しなくていいからね。
本当にお世話してくれてありがとう。
今一番君が好きだよ。(笑)」


煙突から細い白い筋が見える頃、
緑の森から、忙しく歌っている
蝉の声が夏の暑さを思い出させてくれた。


あなたが、
胸に抱ける程の小さな箱入り主人になって帰宅。
2匹の猫たちは、
身体を箱にスリスリ。
どうやら、新入りと勘違いしているみたいだった。

仏壇に、毎日新しい水を用意すると、
あなたと一緒に猫たちも取り合うように飲む。

(私)
「〈君が死んでも、僕は生きるよ〉
そう話していたのに逆になっちゃったね。
今日、あなたのモノを片付けていたら、
これがあったの。
あなたが使ってた香水よ。
仕事をするようになってからは、
もう付けられなくなって、忘れていた香り。
こうして蓋を開けると、あなたの香りがするのね。
こんなに
愛おしい香りになるなんて思わなかったわ。
でも、猫たちに近づけると、逃げるのよ。
あまり好きじゃないみたいなの。
今度は、猫たちのために、
新しい香りを見つけないとね。(笑)
今日もこんなふうに、みんな元気だよ!
あなたは、今日も元気で居ますか?」


(制作日 2021.7.18(日))
※この物語は、フィクションです。

今日は、
ASKAさんの新曲『笑って歩こうよ』カップリング曲、
『プラネタリウム』を参考にお話を書いてみました。

その他、
今日読んだ『プラネタリウム』についての感想で、
戻らない時間を慈しむような、
胸キュンとは違う視点も参考にしました。

また、歌詞に「天井」とありますが、
私自身「天井」と言いますと、
入院した時に眺めていた「天井」を思い出します。
日常生活で「天井」を意識的に見ることは、
あまり無いと思います。
入院すると、暇で、強制的に就寝時間となり、
することもないからと、
よく「天井」の穴の数を数えたものです。


お話を書くなかで、
あと2曲参考にした曲があります。
ASKA『君が家に帰ったときに』
の歌詞に登場する「猫」。
CHAGE&ASKA『今日は・・・こんなに元気です』
これは、タイトルを参考にしました。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲は
①ASKA
『プラネタリウム』
作詞作曲 ASKA
☆収録シングル
『笑って歩こうよ』
(2021.7.14発売)
★『笑って歩こうよ』Music Video★
https://m.youtube.com/watch?v=CQDM28-WiYY

②ASKA
『君が家に帰ったときに』
作詞作曲 飛鳥涼
☆収録アルバム
『ONE』
(1997.3.12発売)

③CHAGE&ASKA
『今日は・・・こんなに元気です』
作詞 青木せい子・飛鳥涼
作曲 CHAGE 編曲 村上啓介
★収録アルバム
『GUYS』
(1992.11.7発売)
★ライブ映像より★
https://m.youtube.com/watch?v=GsV9Wro_YBc

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