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お米をテーマにモノを売ることについて考える(5)~多過ぎて選べません

あっという間に月日は流れ、コロナの感染拡大が収まっていれば今頃、延期したオリンピックをみんなが祝福ムードで準備しているはずでした。残念ながら世界はまだウイルスとの闘い真っ最中です。思い返せば(もうだいぶ遠い記憶ですが)観戦チケットの抽選はほんとに大変でした。競技種目や日程など、選択項目がやたらと多かったからです。

そういえば、テレビを買いに家電量販店に行ったときも似たような感じでした。あふれる商品に疲れてしまい、結局その日は買うのを諦めました。選択肢が多いのは一見良さそうですが、実際は逆のことも多いのです。

たしかに、選択肢があると選ぶ楽しさがあります。しかし選択肢が多過ぎると、人は選ぶのにストレスを感じるようになり、良い結果を生みません。これを米国の心理学者バリー・シュワルツ博士は「選択肢のパラドックス」と言いました。迷って選ぶのが難しくなり、がんばって良いものを選んだとしても、楽しくなくなってしまうのです。

川崎市の関屋精米店に行ったときのことです。なんだか店頭に並ぶコメの種類が少ない。ご主人は五つ星五つ星マイスターの熱心な方なのに、と不思議に思いました。たずねると、
「妻が見た目ごちゃごちゃするから減らせっていうんで、絞ったんですよ」
と頭をかきました。すると接客担当の奥様が、「だってお店、狭いし!」と笑いました。素敵!わたしは心の中で拍手しました。

「お客様のためにいろいろなお米を置きたい」というご主人の気持ちはよくわかります。でもお客様にしてみたら、種類が多過ぎると困るのです。
お客様から「どれがオススメですか?」と聞かれることがありませんか?
その問いにお米屋さんはきっとプロとして、これは~あれは~とすべてのお米について丁寧に説明したくなりますよね。もちろん、たくさんの中から選びたいお客様もいます。でも実は、そうでないお客様も多いのです。

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お客様の「どれがオススメですか?」という問いは言い換えると、「多過ぎて選べません」なのです。品揃えが充実していることは本来、素晴らしいことです。ただ、「美味しいお米を買いたいな」というふわっとした気持ちで来たお客様にはどうでしょう。いくつもの選択肢から決断しなくてはならないとしたら、もはや選ぶ楽しさを通り越して苦痛かもしれません。多ければ多いほどいいとは限らないのです。

「そんなバカな」とお思いの方に例をひとつ。浅草に昭和17年創業という老舗のパン屋さんがあります。予約必須の超人気店ですが、商品は食パンとロールパンの2種類だけ。それなのにお客様は大満足し、喜んでリピーターになります。

品数を多くすることだけが専門店の役割ではありません。商品を厳選して絞る、それも専門店の在り方のひとつです。お客様はストレスなくお買い物ができ、店側は在庫のリスクや手間を減らすことができます。

され、例のオリンピックの観戦チケットですが、我が家は見事に全部外れました。まあ今となっては当選しても困るばかりだったと思いますが。そんなことよりいつの日かまた、世界中のみんなで安全にスポーツ観戦で盛り上がる日が早く来ますように。ではまた次回まで、ごきげんよう。


~たにりり(お米サービスデザイナー・商経アドバイス契約コラムニスト)
「料理がわかるごはんソムリエ」として、お米に携わっている人・毎日お料理する人を応援しています! ◆著書「大人のおむすび学習帳」


※このコラムはお米の専門新聞「 商経アドバイス 」2020年7月13日号に掲載されたものを一部改編して掲載しています。最新号はぜひ購読してお読みください。お米屋さん向けに書いていますが、農家さんなど直販生産者やお米以外のモノを売っている方にも、何かしらのヒントになると思います。よかったらどうぞ続けて読んでくださいね。

※題字とイラスト:ツキシロクミ


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