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2018年10月26日〜11月1日 日記を書く私は日記を書く

2018年10月26日 日記を書く私は日記を書く

 絨毯みたいに脱ぎ捨てられた上着を拾い上げると、その下で腕時計が床に転がっていた。逆さまになっているバッグの中身を元に戻して、雪崩を起こしている本をまた積み上げる。これではまるで泥棒にでも荒らされたようだけれど、すべて一昨日の私が酔っ払って散らかしたのだった。

 ついでに本棚の埃を払ったり、洋服をきれいに仕舞い直したり、片付けが行き過ぎて、気がついたら物を捨て始めていた。不意にいくつかの下着のくたびれた雰囲気が気になって、まとめて捨てた。

 下着屋の店員はショートカットの溌剌としたお姉さんで、親しい子犬のような笑顔でフィッティングルームに入ってきては、私のバストサイズを測った。よく知らなかった自分のバストサイズを聞きながら、先日、僕とジョルジュのジャケット撮影でメイクさんから「ブラジャーのサイズ小さくない?」と言われたことを思い出す。その時も着られることには着られていたので、うやむやに返事をしたのだった。

 お姉さんが正しいサイズのブラジャーを見繕ってくれたので、試しに着けてみるとなんとも快適だった。友達みたいにあれやこれやと選んでくれるので、大量の下着を買って店を出た。手提げの中にぴったりなブラジャーがたくさん入っているのだと思うと、なんだか頼もしい気がした。

 しかしこの掃除も買い物も、全ては試験勉強前の発作みたいなものに過ぎない。今日は滞っていた二週間分の日記をひたすら書く日だった。日記の中に日記を書く行為が登場するのは、現実に引き戻される感じがして、私はあまり得意じゃない。この日記を書いている時間が、現実に存在するのを確認するなんてロマンチックじゃないと思う。それに今夜は日記を書くために、ついに酒の席を断ってしまった。この日記が月曜日でも日曜日でもなく、金曜日から始まるのは、金曜日の夜には必ず面白いことが起こるからだったのに。

 それが酒を断り、肝心の日記には日記を書く行為について書いてしまっている。日が暮れて、夜の間じゅう月は移動し、やがて深い紺色だった窓の外が白んで、朝が来た。自分自身が日記に取り込まれるような、日記を書いている自分を頭上から見下ろしているような、妙な気味の悪さがあった。私生活が日記に影響されている。

2018年10月27日 地下しか泳げない通信

 どんなに楽しいパーティも必ず終わってしまうことを教えてくれたのはRRRだった。大学生の頃、根本敬さんの個展に遊びに行って、そのアフターパーティでそのことを教わった。どんなに素敵な音楽も、素敵な作品も、素敵な人も、時間が来ればその場から散り散りになってしまう。まるで何も惜しくないみたいに。

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