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焙煎機の技術的メモ1:焙煎機にとって排気装置はとても重要です。

焙煎機にとって排気装置はとても大切です。

焙煎機は自動車のエンジン(内燃機関)と同じです。
どちらも単体では、その目的を果たすことはできません。

例えばエンジンの周りには吸気装置、排気装置、排気ガス浄化装置、点火装置、始動装置、充電装置、燃料装置、潤滑装置、冷却装置などの付属装置があり、これらがあってはじめてエンジン(この場合、ガソリンエンジンです)として作動します。

同様に焙煎機の周りにも、吸気装置(室内環境、空調など)、排気装置(排気筒、排気トップなど)、排気ガス浄化装置(消煙装置もしくはアフタ・バーナなど)、燃料装置(ガス管、レギュレータ、バーナ、微圧計など)があってはじめて焙煎機として作動します。

焙煎機にとって、特に排気装置は重要で、同じ焙煎機であっても排気装置の形状や構成部品などで焙煎機の性能や癖は大きく変わります。

にもかかわらず、排気装置の設計、設置は、設置する場所の状況や条件に大きな制約を受けることになります。

その制約の中で最善の排気装置を構築できるか否かは、焙煎機メーカーのエンジニアと工事業者の技量によるところが大きいです。

ひな珈琲排気装置全景

写真は当店の排気装置の全景です。

限りなく排気装置の理想に近い形状です。

店内縦1.5メートル、横引きは2メートル、外部の縦は12メートルあり、横引きとの比率は6、そしてセオリー通りトップを屋根上60センチ以上まで上げています。

ちなみにトップは防風、防雨性に優れた「Pトップ」です。

曲げは2カ所のみと、もうこれ以上曲げ箇所を少なくすることはほぼ不可能な数です。

これ、本当に苦労したのです。

壁面には穴が開けられない物件で、3面ガラス張り。その上シャッターがついているという厳しい条件。
しかし奇跡的に1カ所、たったの幅45センチだけシャッターのない部分があり、その部分にある欄間が唯一の排気筒の出口となり得ました。

なのでそこから排気筒を外に出すことありきの焙煎機設置検討となりました。

付記:法律上、排気温度が260℃以下なら「排気筒」、260℃を超えると「煙突」と呼びます。

焙煎機メーカー(大和鉄工所)のエンジニアと施工業者、そして私の3人で幾度も検討を重ねてたどり着いた結論、それが「横引きを斜めに外に出す」です。これにより曲げ箇所を当初の3カ所から2カ所に減らすことが出来ました。
付記:焙煎機をできるだけ壁面に追いやりつつ排気装置を設計する、と言う条件も同時にクリアしました。ただし消煙装置の設置位置は曲げ3カ所の場合よりも手前になってしまい、壁との間にデッドスペースができてしまいましたが、曲げ箇所をひとつ減らすことによって得られるメリットを考えればどうと言うことはありません。

斜めに出すという発想1
斜めに出すという発想2

曲げ箇所が少ないほど排気抵抗が減り、また排気ガス中の固形物が堆積しにくい構造にできます。また、縦が高い方が排気効率的に有利になり、また排気の匂いの拡散にも有効に働くのです。

付記:ちなみに消煙装置をかませてあるので煙は排出されません。

高性能焙煎機に加え、理想に近い排気装置を備えることができたおかげで、全く苦労せずに日々良好な焙煎ができます。

一切の妥協を許さずに、この理想的な焙煎環境を実現してくれた皆さんに日々感謝しながら焙煎しています。

特に焙煎機メーカーは岡山県にあり、すべてリモートでのディスカッションでしたので、先方のご苦労はさぞかし、と今更ながらに思います。

排気装置も含めての焙煎機であり、焙煎システムです。

焙煎機をこれから導入しようと思っている人はぜひこの点をよく勉強してください。

店舗設計デザイナー、内装工事業者の多くは自家焙煎店の設計経験や焙煎機設置のノウハウを持っていません。
当店が依頼した施工業者もそうでした。自家焙煎店の店舗設計は初めてだったからです。
それでも技術力が高いことで定評のある業者だったので依頼しました。当方の期待通り、すぐに焙煎機や自家焙煎店について学習し、クリアしてくれました。

信じがたいことですが、排気装置のことをよく理解していない焙煎機メーカーや販売代理店も存在します。

事実です。その手の話には枚挙に暇がありません。
既に焙煎機を設置している自家焙煎店のオーナーは、以下の点に注意して、ご自身の店の排気装置を点検してみてください。

チェック項目の一例です。

①排気筒のトップは屋根より高いですか?:屋根より低いと、壁面にぶつかる風向きの時に排気が逆流します。強制排気式の焙煎機であっても同じです。

②屋外の排気筒の最下部にエルボ管を使っていませんか?:エルボ管だと排水ができません。また、排気筒の清掃が困難です。
「(ドレン排出用の水抜穴がある)T曲管」が正解です。

③まさかの「Hトップ」や「多翼トップ」が付いていませんか?:Hトップや多翼トップは清掃不能です。いつか詰まります。これつける焙煎機販売業者または施工業者なんて・・・います。
「Pトップ」か「陣笠」が正解です。

④防火ダンパーがついていませんか?:防火ダンパーが作動すると排気ガスが室内に逆流します。ついていたらいつか一酸化中毒で大惨事になります。
そもそも排気筒への防火ダンパーの設置は禁止されています。

参考記事:国土交通省 建設省住指発第二二八号 昭和六三年六月二七日
「燃焼機器等に直結する排気筒に対する安全対策について」https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/sgml/101/81000161/81000161.html

これから自家焙煎店を開こうとしているあなた、ちゃんと勉強はしてくださいね。丸投げはいけません。

施工業者が悪いのではありません、焙煎機販売業者が悪いのでもありません。

キツい言い方ですが、ダメな業者に依頼したあなたが悪いのです。

個人事業主の基本、「全て自己責任」です。

追記:ほとんどの業者はまともです。いろいろと学ぶチャンスです。お仕事の邪魔にならないよう気をつけながら教えてもらって下さい。

サポートは謹んで辞退させて頂きます。お気持ちだけで十分幸せです。