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ヒナドレミのコーヒーブレイク    真夜中のマジックショー

 暗闇の中、私は手探りで 寝室の枕元の電気スタンドを点灯した。窓の向こうで何かが動いた。いや 動いた気がした。私は、正体を確かめるため ベッドから起き出し 足音を立てないようにして その『何か』のいる方へと進んでいった。そしてレースのカーテンの隙間から外を覗く。常夜灯の青白い光の下、そこにはいつもと変わらぬ景色があった。(確かに 何かが動いたのに・・・)私は不思議に思ったが、変な生き物がいるよりは良かった。

 ベッドへと戻ろうとしたが、目がさえてしまって眠れそうもなかった。そこでリビングへ行き、少し硬めのソファーに腰を下ろした。ヒンヤリとした感触が、パジャマの上から伝わってくる。私は身震いをして、掛け時計を見た。ちょうどその時、昔ながらの掛け時計が、『ボーン ボーン』と鳴り 2時を告げた。

 次の瞬間、いきなりテレビがつき、大音量で音楽が鳴り出した。訳が分からなかった。テレビのリモコンは、テーブルの上のトレイの中にあり、私は電源ボタンを押していない。何かが電源ボタンの上に落ちて テレビがついたわけでもない。(今日は何だか、不思議なことばかり起きるわ)少し気味が悪かった。

 テレビでは、『真夜中のマジックショー』をやっているようだった。シルクハットにタキシードのマジシャンが、お決まりのハットトリックを披露していた。そしてまたカードを使用したマジック、さらには、美しい女性が入った箱に短剣を刺していくマジックを始めた。その箱が、顔、胴体、脚の部分に切り離される。
 
 私は、一連のマジックをボーッとして見ていた。次に、切り離された箱が元に戻された。そして美しい女性が立ち上がって、歓声が上がるはずだった。だが、その女性は一向に起き上がらない。(これも台本通りなのかしら?)私の目はテレビに釘付けになった。次の瞬間、テレビの画面はCMに切り替わった。(アクシデント?)私は早く続きを見たかったし、真相を知りたかった。画面が再びマジックショーに戻ると、女性が立ち上がったところだった。だが私は見逃さなかった。(あれはさっきの女性じゃない!!)先ほどの女性とは、何かが違った。ハッキリとは断言できないが、確かに別人に見える。(先ほどの女性に、何か立ち上がれない事態が起きたのかしら?)そう思った。

 私はこのマジックショーを見てしまったことを後悔した。後味が悪かったが、リモコンを手に取り、テレビを消した。

 その後、あの女性がどうなったのかは、私には知る由もない。ただ、無事であることを願うばかりだ。                            
                                完


 

       


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