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「食事中はテレビを消しなさい」の本当の意味

義実家で食事が始まると「テレビを消して」と声が掛かる。

そのあとは義父母と私たち夫婦、大人四人の咀嚼音のみが静かに響く…コロナ禍よりも前からずっとここでは黙食がスタンダードだ。

耐えられなくなった私が「美味しいですね〜!!」と会話を始めたりしていたが、10年目ともなるとこの空気にも慣れたものである。まったく窮屈でないかといえば嘘になるけど。


そう、おそらくこの家庭では「食事中はテレビを観てはいけない」「食事は静かに頂く」のが長年のルールだったのだろう。

一方、私の実家では食事中に限らずテレビがずっとついていた。父母ともにテレビ好きだったのか広くない居間にテレビがふたつもあった。

あっちとこっちで同時にテレビをつけるので「音がうるさい」と小競り合いもあったぐらいだ。


では昔からよく言われた「食事のときはテレビを消しなさい」とは、どういう意味だったのだろうか。

テレビを観ながら内容についてあれこれ会話して食事していた家で育った私には、なおのこと不可解に思えるルールだ。いやマナーだから…と言うのではちょっと理不尽な気がする。私は意味のないマナーなら嫌いだ。


先日、いつも私が息抜きに楽しんでいるYouTubeチャンネル【 オモコロチャンネル 】でこんな企画があった。


【脳爆発】5感同時にクイズを出題して全問正解できるのか?/オモコロチャンネル


ルールは簡単なようで複雑。

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感すべてを同時に当てるクイズだ。この一見してアホな企画の結果が思いがけず非常に興味深いものとなった。


このオモコロチャンネルとは「面白いこと」を死ぬ気で追求するWEBライター集団、バーグハンバーグバーグという会社の精鋭で運営されている。

彼らは日々おバカなことばかりやっているが、みな驚くべき語彙の豊富さを持ち、常に機転の効く言動をする。どう考えてもおバカというよりはクレバーな人たちだ。

(芸人さんについても言えるが、人を笑わせるために真摯に馬鹿なことを突き詰める仕事は本当に馬鹿では務まらないと思う)


その彼ら5人全員が“五感同時”でフル稼働を迫られたら…大混乱。つまり、バカになってしまったのである。


口にキムチを入れられ、鼻から脱脂綿で匂いを嗅がされ、クイズを耳で聞きながら目の前のサイコロの目を数え、ブラックボックスの中のものを探る……

こんなふうに五感をフルに攻められたハードな10秒を過ごすと、思っていたよりも脳内メモリに負荷がかかるのだ。


集中する余り無意識に目を閉じたままになってしまったり、そもそもボックスに手を突っ込むことすら忘れてしまった者もいた。

たいてい終わった後には放心状態になり、正解できなかった嗅覚問題の脱脂綿をあらためて嗅がされても「…え??本当なにこれ??」と混乱状態がしばらく続く。
 

余談になるが興味深かったのは、揃って嗅覚が最もお留守になったということ。五感どれをとっても命を守るため瞬時の判断が必要な感覚だが、その中でも優先順位があるのだ。あらためて人の身体とは、なんて合理的なのだろうか。


この結果からわかることは、人間の脳は思った以上にマルチタスクに向いていないということだ。

どれだけテクノロジーが発達して便利になってマルチタスクが可能になっても、人間の方はそこまで進化していない。


ところで私は常日頃とても疲れやすいことに悩んでいた。そんなに何もしていない日であっても、夕方にはぐったり疲れ、なんだか疲れが取れない。気がつけば寝落ちしてしまっていることも多々。

あらためて振り返ってみると、私は仕事でもプライベートでもiPad、そしてスマホのヘビーユーザー。

仕事で画像編集を行いテキストを書き、さあ休憩となればYouTubeやドラマを観たりサブスクの雑誌を読む。

ここで問題だと思ったのは、仕事をしながら音楽を聴いたり、YouTubeを観ながら文章を書いたり…という複数の感覚器官を使ったマルチタスクを頻繁に行なっていたこと。


複数の作業を同時進行することが脳に負担だという話はそこら中で聞くので気をつけるが、こういった感覚器官にマルチタスクをさせることを私たちは日常的に無意識でやってしまっているのではないか。


冒頭のテレビの話に戻ると、テレビやyoutube、Netflixなどの動画配信サービス、つまり映像メディアは視覚と聴覚を同時に使う。そこで食事をとるとなると…そう、味覚と触覚さらには嗅覚も使う。

実は五感すべてフル稼働状態になっているのだ。


たしかに、これでは何を食べているのかよくわからなくなって当然だ。食べている実感もなく食事を重ねるのは不安感があるし、食事を作ってくれた人や食事自体にも失礼…!

頭ごなしに「食事中はテレビを観ない!!」と言われてしまえば理不尽に感じるが、このような具体的な理由があれば子供でも納得できるのではないか。



今後は文章を書く時は音楽を止めたり、なにか作業する時はなるべく複数の感覚を同時に稼働させないように気をつけたいとあらためて感じた。

さらには、ぼーっとなにもしないで感覚を休める時間も必要だ。それは決して無駄な時間ではない。

それぞれの刺激の量も意識したい。なにかやりながら聴くのなら、なるべく情報量の少ないリラクシングミュージックにするとか。食事中にみつめるのは食卓の上の植物にするとか。

私たちの脳は想像以上にマルチタスクが苦手だということを、日々忘れないでいたい。


…でも、ドラマ観ながらごはん食べるのはなかなかやめられんなぁとも思うのでした。


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