伊坂幸太郎さん『砂漠』
人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである。
ー 本文より
伊坂さんが作り出すキャラクターにはつい感情移入して、小説が終わるのを切なく思ってしまうくらい愛してしまう。
今までにも、『オーデュボンの祈り』のカカシや『チルドレン』の陣内さんとお別れするのが辛くて、小説を読み終えるのをやめようかと思ったくらいだ。
でも、『砂漠』のキャラクターたちはそんなことを許してくれないだろう。
人生で一番、時間とお金と人間関係を贅沢につかって生きていたあのころを抱いて、前を向いて生きていくこと。その切なさと愛おしさを感じるお話だったから。
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冒頭の一文に、私は心から共感する。
どれだけお金や時間があって最高級の贅沢なんて言っても、たかがしれている。終わった後にはどこか虚しさがあって、現実に戻るのが辛くなる。いわば、オアシスだ。
一方で友達や大切な人の時間は、一見すると贅沢に見えない。一緒にいることよりも、どこへ行って何をするかが求められてしまう。
でも、そうだろうか。
ふと思い出す幸せな瞬間は、大切な友達や恋人と、ただただ一緒に過ごした時間ではあるまいか。
人数も、過ごし方も関係なく。ただ、自分が大切だと思える、なぜだか愛してしまう人間と一緒に過ごす時間こそが、ありえないほどの贅沢なのだ。
そういう贅沢は、きっと心を豊かにしてくれる。
学生時代を思い出して、懐かしがるのは構わないが、あの時はよかったな、オアシスだったな、と逃げるようなことは絶対に考えるな。そういう人生を送るなよ。
オアシスは確かに魅力的で、思い出すと引っ張られそうになる。
でも私は、今この砂漠を一緒に歩いてくれる人たちを、愛してやまない。
言葉で、日々に小さな実りを。そんな気持ちで文章を綴っています。