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食べる喜びに満ちたイタリア料理店について

食後の満足度で、食事の性質が決まる。
一般に「コストパフォーマンス」と言われるような「値段に対しての満足度」は逓減する。
千円の食事でこれくらいの満足度だったら、一万円の食事だと比例して増加するかといえば、十倍の満足度はもたらされない。
では何が楽しくて、いくばくか余分の支払いをするのか。
「嬉しい」「楽しい」「めざましい」、あるいは「恐い」、新しい感覚が得られるかもしれない期待に対して支払う。

料理が食材と技術のかけ合わせなのだとして、飲食店が家庭に差をつけられるのは仕入れや組み合わせももちろん、なにより「技術」であって欲しい。シンプルな食材であればあるほど、絶対にかなわないというプロの凄みを感じたい。

塩加減というのがいかに難しいことか、自分で料理しているとわかる。
信頼できるレシピに基づいて「その通りに作る」のは、うまく料理できるようになる第一歩ではあるが、やがて限界があることに気づく。
部屋の湿度や温度、食材そのもののコンディション、その時の気分などによって、仕上がりはものすごくずれる。汎用性が高い「正解」は、実はあってないようなものでもある。

ここの塩加減は、本当に食材の味を引き出すぎりぎり髪の毛一本くらいのところを狙っている。素人がレシピ通りに作っても出せなければ、手癖で塩を振るようでは一生たどりつけない境地にある。

今でもおぼえている。初めて行ったときに、前菜の盛り合わせで出てきた自家製ハムに感動した。自家製ハムに感動したことは、そんなにない。しかも猪や鹿など、食材に目新しさを打ち出したものではない。どこまでも柔らかいようでいて、変にレア過ぎる感じでない。酒を進ませるために塩辛すぎたりもしない。
「ハム自体の塩は弱めなんです。玉ねぎと人参のドレッシングと合わせて初めて味が完成するようにしているから、ドレッシングの塩分をハムから引いて、淡くしてます。一緒に食べて完成するので、ぜひ一緒に食べてみてください」
本当にそのとおりで、ハムだけ食べても十分なのに、ドレッシングと合わせると更にもう一段階、ぴったり噛み合う。

魚介パスタの海老で、またびっくりした。
海老は、もともとポテンシャルが高い食材だから「どうやっても外れにくい」ところがあり(海老がまずいところはよっぽどである)、それだけに驚かされることは珍しい。

ハムも海老も「~~産の」など期待を煽るような枕詞はつけられていない。そういうところで付加価値をつける勝負をしていないのだ。シンプルな味のみに全振りしている。今まで食べてきたハムや海老は何だったのか。知らなかった時に戻れないことに恐さすら感じると同時に、知ったふりをしていた料理や食材について、自分は何にも知らなかった、まだ知る喜びがあるという世界の広がりに嬉しくなってしまう。

しかも、接客がいつも温かい。シェフは「どう?おなかいっぱいになった?」と聞いてくるし(実家の母親か?)、スタッフはチャーミングで料理提供のタイミングやドリンクのサーブの距離感も程よい。
あくまでも敷居は低いのに、志はめちゃくちゃ高い。そのギャップがたまらない。

通い始めたきっかけは枚方のフジマルでスタッフと話し込んで、あちこちの飲食店について情報交換していたら「ここは、きっと好きだと思いますよ!!焼き鳥の大将みたいなシェフが、パァンって肩にタオルかけながら作ってくれる料理がめちゃくちゃ繊細なんです!」とニコニコしながら勧めてくれたこと。
あの時は、初めて行ったのに頼んでないものもちょこちょこ出してくれたり、いろいろ教えてくれてありがとう。

初めて行った頃に在籍していたバリスタは心斎橋のコーヒースタンド「ミルポア」に移った。そちらもたまに覗きに行っている。

COLMATA(コルマータ)
〒541-0045 大阪府大阪市中央区道修町4丁目4−7−12
06-7710-6256
※定休日は日曜日。土曜は営業していて祝日も基本やってる。ただ比較的席数があることからも、たまに貸切がある。確実を期すためには電話を入れておいた方がいい。

淀屋橋からも肥後橋からも遠く、しかも路面ではなく二階である。以前、スタッフが「宝くじ3億当たったらシェフに1億あげるから路面にしてもらいたい!」とニコニコしていて「親には?」と聞いたら「1億あげます」と言っていて、親とシェフの扱い一緒!?と店への愛着に笑った。

予約客がひしめく店ではないけれど、食べたいものがある時などは特に事前に電話を入れるのを勧めたい(時間は特に指定できなくても、絶対行くから!何時頃!くらいでもいい)。
というのも、オーダー時に品切れで「ないんだ…」とガッカリされてしまうと、事前に連絡くれたらできる限り対応したのに!出せたのに…とシェフも悲しくなってしまうらしい。
互いに悪気がない不幸は減った方がいい。

ここまで敢えて「美味しい」という言い方をしなかった。
ぜひ「美味しい」の次にあるフェーズを味わいに行って欲しい。

前菜のハムは好きすぎて、後日「ハムだけください」と頼んだこともある。

オフィシャルのハム断面図はこちら

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