ピアノ弾きの神様

病室のベッドの上でこれからの死を待つだけ女の子の囲む泣き崩れるだけの大人達。病室の外では神に祈るだけの者も居れば、ただ時間の経過を楽しむだけの者も居る。

“死神の役割は苦痛だ。
そして、退屈だ。
涙と枯れた声が背中を押す。”

お婆「お願いです。死神様。神様。」

“補足しておくが私は死神ではない。
一般的な見た目をしているが
私は運命の神だ。”

お婆「私を連れて行ってください。孫を助けて」

“でた。死の取引。
そんなものに私は応じない。
運命は変えられないのだ。
私はこの子を殺して、また私も死ぬ。
転生先は毎度、死が近い人々。
何度も何度も同じことの繰り返しだ。”

女の子「神様が見える。」

罪も罰もなくただこの世に生まれて同じように産声を上げ愛を継承していくはずだった女の子は遂に運命の神と目を合わせた。

女の子「ねぇ?神様?」

運命の神「なんだ?」

女の子「天国ってどんな所?」

運命の神「死ぬと思ってるのかい?」

死を受け入れて運命の神に女の子は質問をした。勿論、囲むだけの大人達は女の子の言葉により一層の死への執着が募った。

女の子「聞こえる…。ママ…。」

“夜空をご覧。
みんな見てるよ。
お星様にお月様。
何千年も間に生まれは死んでいく夜空に
僕が連れていくよ。寂しくないさ。”

歌い出した運命の神とピアノの音色は女の子をそっと包み込んだ。また1粒。運命の神は1粒の涙を流してしまった。

“こうも苦しいものは無い。
大人となれば必ず罪を犯す。だが
目の前にいる少女は何も知らずに死ぬのだ。
罪を犯さず、ただ死を待つのだ。
僕はその死を彼女に渡さなければいけない。
苦しいだろ?”

ドッと泣き崩れる大人達。医者は涙を拭い、時計は止まった。
抜け殻と化した女の子は去ったのだ。

女の子「死神様?」

運命の神「違う。」

女の子はピアノを弾く運命の神の横でニコニコと揺れていた。

女の子「綺麗な音だね!」

運命の神「……。」

女の子「楽しい?」

運命の神「楽しそう?」

女の子「ううん。悲しそう。」

運命の神「そっか…。」

“話しかけないで欲しい。
ママやパパに手を振ってて欲しい。
僕が君を殺したんだよ。
もっと憎んでくれ。いっその事、
死神でいいから。”

運命の神「死神だよ、僕は。怖くないの?」

女の子「怖くない。だって死神は涙なんて流さな                  いもん。大きな鎌でみんなを殺して楽し
                そうにするんだって!」

運命の神「パパとママを悲しませてるんだよ。」

女の子「私も悲しませたよ。」

“頼むから神よ。
この子を救ってくれ。
もう僕には無理だ。”

女の子「なんで泣いてるの?」

運命の神「苦しいんだよ……。」

女の子「なんで?」

運命の神「………。」

運命の神はピアノを弾き続けた。徐々に女の子はピアノに吸い込まれて行き、薄く色の無い世界に連れていかれた。
ピアノの音色が止まると運命の神は死ぬ。そして転生をしてまた同じことの繰り返しだ。忘れる事も出来ずに何度も老人を殺して、何度も幼い子供達を殺してきた。愛を誓い合った2人も殺したし、奪った奴も殺した。あの子もこの子もみんな僕が殺した。感情的に殺した時もあるし何も感じずに殺した時もある。

“巷では僕を死神と呼ぶらしい。
好きで生きる力を奪ってるわけじゃない。
運命とは面倒なモノだ。
さぁ。次は僕の番だ。”

女の子は完全に姿を消してしまった。運命の神は楽譜にペンを入れた。また曲の完成だ。苦しみ、悲しみの染み付いた楽譜は色を変えた。



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