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満足、不満足

歓楽街のチェーン店の居酒屋で二人の男が飲んでいた。片や穏やかに、片や熱を持って話をしている。
正反対の性格をした二人だが、二人は同じ会社の同期で、同じ営業職に就いていた。性格が真逆ではあるが、不思議と二人は歯車のように嚙み合っており、昔からこうして週末には二人で飲み、語るのが決まりのようになっていた。

「だから今の俺らのポジションじゃあ満足に働けねぇだろ!」
「まぁまぁ。とりあえず落ち着きなよ。ほら、一服するか?」

穏やかな性格の男、石島は相方の山橋に煙草を一本差し出す。
山橋はぶつくさ言いながら小さな声で「ありがとよ。」と言って煙草に火をつけた。

「確かに俺たちはいわゆる窓際族だけど、仕事に就けているだけいいじゃないか。世の中には仕事になかなか就けない人だっているんだから。」
「なに言ってるんだ!俺たちも昔はバリバリ第一線で働いてたじゃねぇか!今だって若手なんかよりよっぽどやれるじゃねぇか!」
「まぁ確かに頼りない若手もいるけどさ。後進に道を譲るのも大事だと思うけどね。」

山橋は今日も激しく管を巻いている。それを受け止める石島は穏やかで柔らかい。
二人とも昔は営業のエースとして活躍していたが、紆余曲折あり、二人とも窓際にいる。

「だから俺はまた返り咲くんだ!今のままなんてまっぴらごめんだね!今の場所じゃやれるもんもやれねぇ!」
「山ちゃんならそれもありかもしれないね。前線の方が好きだもんね。」
「石島はどうするんだよ。お前だって能力はあるじゃねぇか。」
「俺は今のポジションでも十分だよ。仕事があって、家族がいて、飯も食えて。これ以上のことはないよ。」
「もっと上を目指せてもか?」
「上は求めてないなぁ。」
「石島らしいな。」

二人は手元にある酒に口をつける。
今二人は岐路に立っていた。
片や今の職場に残るか、片や新たな職場に移るか。
片や現状に満足するか。片や現状に不満を持つか。そういう岐路だった。

「俺は新天地を目指す!そこでまたバリバリやってやるんだ!」
「俺は今の職場に残って後進のサポートかなぁ。」

そうしてその日の飲み会はお開きとなった。
後日山橋は転職活動を始め、なかなか苦労したようだが何とか転職先を見つけられた。だがそこでも山橋は不満を持ちながらその新天地で更に上を目指している。
片や石島は今の職場に残り、窓際族を続けている。仕事はとても充実しているとは言えなかったがそれでも穏やかに仕事をしている。

そんな報告を二人はいつもの居酒屋でしているようだった。

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