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雨月怪談・繊月「ピヨピヨサンダル」

そのバーでは、雨の日に話が途切れたら怖い話をするというルールがある。

繊月の夜、マスターがお客から聞いたのはこんな話だ。

みっちゃんの足にはいつもヒヨコの柄がついたサンダル。
歩くたびに、ぴよぴよ鳴るからかわいいね。

小学生になったみっちゃんは、もうピヨピヨサンダルははかないよ。
サンダルはもう小さくなって、みっちゃんの足には入らない。
今はヒモのほどけやすい運動靴をはいてるよ。

夕暮れどきの学校帰り。
ランドセルをはずませて走るみっちゃんは、後ろでピヨピヨって音を聞いた。
ふりかえってもだれもいないけどね。

走り出す。

ぴよぴよ。

歩き出す。

ぴよぴよ。

でも、ふりかえるとだ~れもいない。
おかしいね。

また別の雨の降る学校帰り。
また、みっちゃんは音を聞いたよ。

ぴよぴよ、ピシャピシャ。
ぴよぴよ、ピシャピシャ。

みっちゃんは大きなカサと一緒に振り返る。

今度はいたよ。

カサに隠れて足しか見えないけど、そこにはぴよぴよサンダルをはいた小さな足。

「だ~れ?」

ぴよぴよ、バシャバシャ。

見えたのがうれしそうに、サンダルが水たまりで飛びはねた。

「あそぼ」

そう言ったように思えて、追いかけたよ。

でも、みっちゃんは途中で足を止めたの。
ごーごーって、すごい音が聞こえてきたから。
それはいつもはチロチロとしか流れてない溝から聞こえてきていた茶色い水の流れる音だった。
あふれそうないっぱいの水が、ものすごい速さで流れていってる。

なのに、そこにはサンダルが流されもせずに、プカプカ浮かんでるんだ。

「とって」

はだしの足が言ったよ。

「無理だよ」
「とってよ。とってよ、とって、とって、とって、とって、とって、とって!」

声が怖くて、みっちゃんは走り出した。
追いかけてくる声が最後に言ったのは――。

「まえはとってくれたのに」
「でも、それで死んじゃったんだよ」

みっちゃんの悲しい声にはだしの足は消えたよ。
みっちゃんも消えたよ。

ぴよぴよ。ぴよぴよ。

このバーで待つマスターは死者の声が聞こえる。

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