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”農の最高傑作を創る!” 第三話  震災~空想農業の破壊と復興~



一話丸々震災のお話です。社会への影響ももちろん大きかったし、僕にとってもそれはそれはとても大きな衝撃だったからです。
地震が起きた時の様子や心情、その後の経過と心境の変化などを書いていきます。
では。

2011年3月11日。
目の前の色んなものがボロボロになり、なくなり、ありとあらゆる生活インフラが壊され、普通だと思っていた便利な生活がなくなりました。常識と思っていたことも時に非常識になり、僕の脳ミソの中もガラガラとシャッフルされました。
シャッフルされた中には、もちろん膨らませ続けていた空想農業もありました。キラキラしていた空想農業は解像度を失って、霞むように消えていきました。数多く経験した失恋の心持ちに似ていて、切なくやるせない気持ちでいっぱいでした。

宮城県でも内陸部に住んでいた僕は、沿岸部の方々と比べれば被害は圧倒的に少なかったわけで、勤めていた会社が休みになったこともあり、片付けもそこそこにとにかくボーッとしていました。
電気や水道がストップして、ガソリン供給もままならない生活の中では、あらゆる活動が制限されてしまいましたので、無気力にほとんど余計な動きをせずに過ごしていたのです。
こんなにまで、あてがわれたエネルギーに頼り切った生活をしていたんだなって思い知らされる経験でした。

さて、二週間くらい経ってからでしたかね。ようやく待ちに待った電気が復旧しました。
すぐさまスマホ充電したり、パソコン点けたり・・・。
一番ドキドキしたのはテレビでした。メディアが途絶えて二週間の浦島太郎状態になっていた僕は、とにかく何が起きたのか映像を見たかったのです。
津波ってお化けの実際の絵を持っていなくて、海の波頭くらいにしか想像できなかったから、ラジオで聴いていた絶叫悲痛の音声には、「なぜ?!」「津波で?!」と疑問しかなかったんです。
ところが、ニュースはすでに破壊された街にどう対応するのかという話題に移っていて、僕が見たかった「何が起きたのか?」の映像はほとんど見れませんでした。

それではということで、YouTubeを見まくりましたよ。スマホと3G、4G回線の普及は、大量の映像を残してくれていました。
ようやく食らいついた映像は、想像をはるかはるか超えていましたね。次々に、食い入るように、ひたすら見まくりました。
エーッ?!そんなぁー?!まさかぁー?!とても信じられなかったです。あまりにも非現実。唖然・・・。呆然・・・。
映像には、田んぼや畑、または何棟も並んだ立派なビニールハウスが、ドス黒い波に次々に吞み込まれていくのもありました。
声も出ませんでした。胸がとっても苦しかったです。
とてつもないドス黒い波のお化けは、僕の現実世界も空想農業も吞み込んでいってしまいました。

悲しい心持の中、時間の経過と共に少しずつ現実世界に追いついていた僕は、復興の一員として生活し始めていました。
それにしても、世の中の動きはスゴかったですね。あんなにコテンパンにやられたのに、また修復してやり直しを始めるんですから。投げ出すことなく、少しずつできることをやっていくんですね。いやー、人ってスゲーなぁ、人類ってスゲーなぁって心の底から思いましたね。

一方で、福島第一原子力発電所の大爆発は、大問題のままでした。宮城県も放射能汚染の地域に入ってしまって、もっとも大事な資源の「土」が汚れてしまいました。僕が心を寄せ始めていた農村の様子は何とも沈んだ状況でした。
(ヒドすぎるしムゴすぎる。クッ・・・)
百姓でもないのに打ちひしがれる僕。
ところが、周りのお百姓さんたちは違いました。全然違いました。前進するんですよね。海水が入ってもトマトだったら育つとか、表土を剥いで来年は作付けするとか、コツコツと、一歩一歩と進むんですよ。
(エッ?進むの?!本気で?!!)
横で見ていた僕は、本当に信じられませんでした。あのドス黒い波に吞まれても、放射能のシャワーを浴びせられても、ファイティングポーズを取るんですね。スゲー!なんてカッコいいんだ―!!
こうして、偉大なるお百姓さんたち、偉大なる人類によって、超スピードで社会と農業は復活していきました。

チキン野郎の僕は、未来の希望を開拓していく強者たちの後ろからキョロキョロオドオドとついていくように、ほんのちょっとずつ空想農業を復活していきました。

さて、現実社会の僕は、猛烈に営業職に勤しんでいました。
公道を100km/h以下では走らない!と決意したかのように、連日あちこち走り回っていました。
農村の風景を横目に、気持ちは複雑でした。空想農業をしたいのに、放射能汚染の風評がはびこっているとなると、考えたくなくなりましたから。
もどかしい気持ちがいつも胸にありました。

そんな復興の真っ只中の2013年暮れ、仕事でもプライベートでもお世話になっていた会社経営者の方との雑談中、唐突に思い出したように次のような質問をされました。
「そういえば、農業やりたいって言ってたよなぁ?」
要は、その方が関係している経営セミナーに、農業経営者を目指すってことで参加してみないかってことでした。
かなり虚を突かれました。経営?農業の?会社辞めて?「?」マークがたくさん付きました。だって、空想農業は大きく展開はしてきてはいたものの、あくまで空想の世界でしたし、その空想農業だってどんより暗い雰囲気になっていましたから。もちろん答えは「No」ですよ。
でも、その経営者の方からは、強く粘られ勧められました。いろんな事情があったんでしょうね。
お世話になっていたこともありましたので、その方の立場も汲んで、経営の勉強というよりはほとんど自己啓発を目的に、参加を決めました。ホント、軽い気持ちでした。

ところがですねぇ~、この軽はずみな行動がですねぇ~、人生を変えてしまうんですねぇ~。
流れが変わる瞬間なんてのは、こんな些細なきっかけなんでしょうねぇ。

第四話に続く

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