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『SHELL and JOINT』のレビュー②

『SHELL and JOINT』のレビュー第二弾です。「Vague Visages」という映画批評サイトで、Serena Scateniさんという方が書いています。今回も和訳は曽根瑞穂さんにやって頂きました。

レビューを読むと、意識的にやっていた部分を書いてもらっていたり、無意識に明確に言語化せずにやっていた部分を言語化してもらっていたり、自分の思考のクセみたいなものが分かって面白いです。特に「生き物」に関しては、無意識にモチーフとして取り上げている場合が多いのですが、そういう無意識にやっている部分こそが、作品の個性や特徴を作っているのかもしれません。勉強や戦略では持ちうることが出来ない部分と言いますか。

ロッテルダム国際映画祭2020レヴュー

平林勇による”SHELL and JOINT”
Festival ScopeとIFF Rotterdamは、5年連続で世界中の映画愛好家たちのスクリーンに、新たな才能のある選りすぐりの作品を紹介できることをとても嬉しく思っている。この映画祭は、将来の才能に満ちた作品を宣伝し、大胆不敵な映画を褒めたたえ、インディペンデント映画の影響力を強化するのが目的である。
エロスとタナトスは、心理学と文学作品の両方において長きに渡り相互に関連し合っている。 しかし、映画の中に昆虫が入り込むとどうなるのだろうか?日本の脚本家で映画監督である平林勇は、性、死、節足動物がさまざまな方法で不意に出くわすシナリオを描くことで質問に答えようとする。平林が編集者兼撮影監督を兼ねている『SHELL and JOINT』(2019)は、最初のうちはよじれたベニヤを繋ぎ合わせた短編映画の膨大なコレクションのように見える(アンサンブルキャストを特徴とする)彼の単独作品である。
この154分という長さの映画を振り返ってみると、実際には生地は継ぎ目なく縫われているのだ。登場人物は異なった短いエピソードを繰り返し、そしてすべてのシーンにはパズルの一片が追加され、観客の全体的理解を容易にしたり複雑にしたりしている。『SHELL and JOINT』を概念と呼ぶことは、あらゆる種類のニッチ領域に同意を示すことではないし、近づきにくいものに見せるための方法というわけでもない。むしろ、平林は一部の人々を引き離すが、他の人々、特に不条理を体に浴びたいと思っている人々を惹きつけるような映画を意識的に作ったと認める方が良いだろう。プロットに関しては、『SHELL and JOINT』は直線コースを辿らないが、代わりに必要最小限の設定、簡潔で哲学的/実存主義に溢れた会話、およびそれらすべてをカプセル化する、しっかりとした静的フレームによって特徴付けられる多くの劇的な場面を描いている。

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これらのすべての要素をまとめているものとして、他に何があるだろうか?多くの登場人物に共通しているのは、映画の主となる設定である。見たところ主役と思われる男女が働く日本のカプセルホテルでは、さまざまな種類の人たちが夜を過ごす。『SHELL and JOINT』は、次々と層を剥がしじっくりと時間をかけて発見することによって目標に到達することができるので、より詳細なあら筋を知ろうとしても、無駄で満足いくものではなかったと解るだけだろう。敢えて言うなら、観客は種内差別について論議する昆虫人形、サウナで迷惑がられながらも勃起について話す男性、友人同士で豊かな性生活についてあけすけに話す女性たち、そして最も知性に訴えるエロティックな、じわじわとこみ上げてくる、常に一方的な恋愛の一つを経験するだろう。
映画全体を通じて徐々に解ってくるのは、死は私たちからのほんの一歩しか離れていないところにいるのだと一貫して思い出させてくれることだ。私たち人間は、自分たちの存在を証明することに固執している腐敗しやすい存在であり、故に愚かにも自分自身をかけがえのない重要な存在だと考えようとしている。特に男性は、損な役割を担わされているようだ。スケッチからスケッチへ、多くの場合彼らは本能的、言うなれば肉体的であることを明るくバカにされ、性的興奮を切望すると、相手役の女性の辛辣で機知に富んだコメントの袋叩きにあうことになる。一方で女性は、男性よりも優れていることを証明する準備ができているので、控えめで性的魅力のない存在として描かれることはない。それどころか、性的衝動に駆られていないように見えるだけで、彼女たちも欲望がありセックスをする。この特徴づけは、陳腐で単純に感じるかもしれないが、『SHELL and JOINT』が昆虫を人間化しながら人間を昆虫化する方法に関して功を奏している。私たちは生きて、生殖し、いずれは死ぬ。だから文明的で理知的な殻を取り除き、生物の心の中心へと近づいていきましょう。究極的には、それが、平林が示唆しているすべてなのだろう。
Serena Scateni は、エディンバラに拠点を置くフリーランスの映画ジャーナリスト。 彼女はMUBI、Little White Lies、Girls on Tops、その他テレビ局などで書いています。


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