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 シリーズ『図解!インボイス入門』第8回目です。前回(第5回目~7回目)までは、非常に情報量が増加していましたが、今回からトーンダウンします。すぐに知っておかなければいけない内容ではないものの、今まで触れられていない比較的重要な内容について説明していきます。今回は「制度の内容?(What)」について、課税事業者になった場合の消費税の計算規定について見ていきましょう。

図①:今回は「制度の内容?(What)」の視点で見ていきましょう。

 2023年10月から導入されるインボイス制度。その具体的な制度内容について見てきましょう。インボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されると、以下のようになります。
・インボイスを発行するためには、登録申請が必要です!
・仕入税額控除の適用を受けるためには、インボイスの保存が必要です!
 そして、請求書などの記載事項が増えます!・・・ということで、請求書の新旧比較と記載事項について見てきましょう。

図②:インボイス制度の導入で何が変わるか、見ていきましょう。

 まず請求書の新旧比較です。用語の説明ですが、2022年現在の仕入税額控除の要件を「区分記載請求書等保存方式」と呼ばれるのに対し、インボイス制度が導入される2023年10月以降は「適格請求書等保存方式」と呼ばれています。
 下図右側の「適格請求書等保存方式」の【記載事項】を見てみますと、①で、”登録番号”の記載が追加され、②③で”税率ごとの消費税額”が求められていることが分かります。他にもイメージやポイント等の説明も図にはありますが、各自ご参照頂ければと思います。なお、”登録番号”の取得方法等については、第5回目で詳しく見てきました。

図③:近畿税理士会 業務対策部「特集 インボイス制度説明会」3ページより。

 次に記載事項です。上図でインボイス制度後の「適格請求書等保存方式」では、登録番号税率ごとの消費税額を記載することが義務付けられていることを説明しました。ただし、飲食代や小売業・タクシーのレシートなど「適格簡易請求書」(簡易インボイス)については、税率と消費税額のどちらかを記載すればよいことになっています。
 また左側の「適格請求書」と右側の「適格簡易請求書」を比較して、”⑥書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称”が「適格簡易請求書」では省略できることになっています。スーパーで購入者の名前をいちいち名乗っていないですよね。
 あっ、あと図の一番下に端数処理の説明がありますが、経理実務をしていると、消費税の端数処理の問題が意外と厄介です。この計算処理については、今回の記事後半で見ていきましょう。

図④:近畿税理士会 業務対策部「特集 インボイス制度説明会」5ページより。

 次に、インボイス制度を裏付ける「適格請求書発行事業者登録制度」について説明します。
 「登録」は必ずしも課税事業者に義務付けられている者ではなく、反面、課税事業者であっても登録をしなければ適格請求書事業者になることは出来ませんので、当然にインボイスを発行することは出来ません。また課税事業者が適格請求書の登録をしなかったからと言って、納税義務が免除される訳ではないので、ご注意ください。コチラも詳しくは第5回目をご参照ください。

 また下図の通り、仕入税額控除の適用を受けようとする事業者は、インボイスの保存が仕入税額控除の要件となります。よって、適格請求書発行事業者は、取引先から要求された時は、インボイスを交付することが義務付けられています。したがって、適格請求書の記載事項を確認した上で、オリジナルのインボイスのひな型を決定するなどの、事前の準備が必要となります。

図⑤:適格請求書の記載事項を確認した上で、ひな型を整合する必要があります。

 以上、課税事業者にとってインボイス制度で何が変わるか、について振り返ってみました。

 ところで、課税事業者の経理実務。経理システム上の数値とExcel上の数値、本来一致すべきが一致しない場合、差異内容把握に経理部門で四苦八苦する場合があります。大抵は営業部門など他部門のテキトーな処理が原因。経理部門では、”Theテキトー野郎”をブラックリスト化し、”Theテキトー野郎”が起票した伝票を徹底的にマークする・・・というのはよくあることです。ところで、”適当”は人生大切ですが、”テキトー”は他人から信頼を無くして本人にとってもマイナスになりますよね。
 特に消費税実務では端数処理が原因で、経理システム上の数値とExcel上の数値、本来一致すべきが一致しない場合が特に多いように思われます。「消費税実務あるある」ですよね・・・。そこで消費税計算の端数処理について見ていきましょう。

図⑥:経理システム上の数値とExcel上の数値が一致しない、”消費税実務あるある”。

 請求書における消費税の端数処理にはルールがあります。現在、消費税が8%と10%の商品が混在していますが、税率ごとに端数処理を1回ずつ行うことが求められています。ゆえに下図右側にあります通り、個々の商品ごとに消費税額を計算することは認められていません。端数計算の誤差も”塵も積もれば山となる”・・・です。

図⑦:近畿税理士会 業務対策部「特集 インボイス制度説明会」7ページより。

 ではイラストで、税率ごとに区分した端数処理のルールについて見ていきましょう。・・・細かくて申し訳ございませんが、経理担当の負担にならないため、知っておいた方が良い規定になります。
 あと端数処理について、切上げ、切捨て、四捨五入・・・事業者によって、どれを選択するかは任意です。経理部門等と担当が分かれている場合は、経理担当がどの端数処理方法を選択しているか、ご確認頂ければと思います。

図⑧:税率ごとに区分した端数処理にもルールがあります。

 ここからは、消費税申告書を作成する際の税額の計算方法について見ていきます。消費税申告書の作成方法・・・これだけで本が1冊書けてしまうボリュームがありますので、端数処理に関係する重要な部分だけ説明していきます。

 税額の計算方法ですが、”ざっくり”説明しますと、割戻方式と積上方式の2方式があります。割戻方式とは、税込の取引金額合計から割り戻して税額を算出する方法です。他方、積上方式とは、インボイス(またはそのコピー)に記載された消費税額を積み上げて税額を算出する方法です。
 例えば端数切捨て処理を行っている場合、積上方式に比べて割戻方式で算出した税額が大きくなりますので、割戻方式は仕入税額の計算で有利積上方式は売上税額の計算で有利になります。

図⑨:税額の計算方法は、割戻方式と積上方式の2方式があります。

 インボイス導入後でも、売上税額の計算は割戻方式が原則となります。ただし、インボイスに記載された税額を積み上げて計算することも認められます。 仕入税額の計算は、インボイスに記載された税額を積み上げて計算する積上方式が原則とされていますが、タクシー代のように税額の記載がない簡易インボイスについては個々に割戻計算をする必要があります。
 また、売上税額の計算で割戻方式によることを条件に、仕入税額の計算でも割戻方式を採用することができます。・・・これらのことから裏を返せば、売上税額の計算で積上方式を採っている場合は、仕入税額の計算で割戻方式を採るというのは認められないので注意が必要です。図⑨とも併せて参照頂くと、”オイシ―ところ取り”は認められない、ということですね。

図⑩:売上税額の計算で積上方式と、仕入税額の計算で割戻方式の組合せは認められません。

 ”オイシ―ところ取り”という言葉が出てきたついでに(!?)、シリーズ『図解!インボイス入門』の引用資料について最後に紹介します。これまでも引用資料が出てきた時に、都度紹介してきましたが、一覧化してみました。

【引用資料:セミナー】
・熊王征秀「九州北部税理士会 一から始める”日本型インボイス制度”&消費税の誤りやすい事例」
・近畿税理士会 業務対策部「特集 インボイス制度説明会」
・金井恵美子「名古屋税理士会主催セミナー 適格請求書等保存方式」
【引用資料:書籍】
・熊王征秀『消費税インボイス対応 要点ナビ』日本法令

 ご覧頂くとシリーズ『図解!インボイス入門』では、日本各地のセミナーの”美味しいところ取り”をしているのが分かりますよね。このnote記事が、読者の皆さんにとって何らかの気付きになれば嬉しいです。

図⑪:日本各地のセミナーの”美味しいところ取り”をしています。

 次回予告です。「誰が(に)アプローチ?(Who/Whom)」の視点から、今まで取り上げることの出来なかった「特例が適用される取引や、免除されるケース」を紹介していきます。次回で、シリーズ『図解!インボイス入門』で説明する論点は、いったん全部出揃うことになり、次々回(第10回目)以降は、第1回目~9回目の総まとめに入っていきます。

図⑫:次回は農協特例等、特例が適用される取引を見ていきます。

<以上となります。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。>

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