見出し画像

【3】ゲームの主題を見極めよう

いたばしの地域ボードゲーム会・松本です。3回目でようやくゲーム制作の話題に入ります。入りますが、今回はまず主題をしっかり決めるようというところまで。ゲームのルール作りには入りません。でも、ここは本当に大事だろうなーと思っているので、まとめてみます。


ゲームが提供する「体験」を見極める

私自身は、ボードゲーム(アナログゲーム)だけでなく、デジタルゲームの制作も好きです。制作するときは、どちらも「プレイヤーにどんな体験を届けたいか(=どんな体験を届けるなら価値があると自分が思えるか)」を最初にしっかり考えることが超重要だと思います

2015年ごろ、私が初めて世に公開した自作デジタルゲームは、なんと、その年の日本ゲーム大賞でアマチュア部門最終16選に残してもらえました。正直言って、プログラム技術も、操作性や画面構成も今ひとつです。なので、提供する体験イメージをしっかり描いて作れたからだと思っています。

画像1

書籍や広報誌を作る自分の本業でも、根っこは同じだと言えます。書籍などは、つい言語的なメッセージで議論しがちなのですが、つきつめるとやはり「読者が本を閉じた後に何が残るのか」ってことが重要で、内容だけでなく印象やら価格やらも混ざった「読書体験」なんですよね。

繰り返しの内容ですが、大切な点を分解して書くと次の3つです。

1・プレイヤーが何を体験するか(具体的な体験内容)
2・それはどう価値があると思えるか(自分の納得感)
3・最初にしっかり考える(ゴールポストはもう動かさない)

ゲーム作りは、何もしばりがない無の世界に、ルール(しばり)を設けていく作業といえます。その制作過程では、何度もルールの見直しが図られますが、どんな小さいルール変更でも、作用すればそのゲーム世界は変わってしまいます。
そこは、いつも無限の選択肢があり、無限の道筋と結果がある広い海のようなイメージで、しっかり目標を見つめていなければ、簡単に行先を見失ってしまうんです。

画像2

道しるべになるのは「納得」した結論

最初にしっかり考えた主題でも、テストプレイや仲間との議論を経て、「どんな体験を届けるか」その目標が変わることはありえます。でもそれは、表現上の工夫、伝え方や印象などのブラッシュアップであり、根幹となる価値の変更ではない。そうなるくらい強い主題を設定しておきたいのです。

そのためには2番目の項目が意外と大事です。自分自身の納得感、腹落ちした感じ。あるいは、やりがいと言える領域まで考えを練りこんであれば、実現したい目標はブレる心配がありません。

ゆれない主題


どうやって自作ゲームの主題を見極めるか

主題を「決める」のではなく「見極める」と表現しました。というのも、ボードゲームを作ろうと考えたその時点で、その人には何かボードゲームという手段で表現したいものがあるはずだと思うのです。

主題、すなわち「自分のゲームでこういう体験を届けたい」を言語化していきましょう。すぐ言葉にできたとしても「良いこと風」な言葉や「既製品の○○みたいな」といった表現で輪郭がぼやけている場合もあります。自分になぜ?を何度も投げかけ、できるだけ具体的に書いてみましょう。

画像3

最近は「体験を作る・デザインする」って表現がある種の流行で、カッコいいけど、どうも曖昧な感じがありますよね。ボードゲーム制作における「体験作り」とは何でしょうか? 人によって意見がちがうかもしれませんが、ここでは次のように考えています。

体験作りとは、ゲームルールなどの仕組み部分だけでなく、全体を通じてプレイヤーが何を感じるか、どう記憶し、どんな感情や思い出につながるか。そういう心の受け止め方もイメージしてみること。実際は個々で感じ方が違うにせよ、自分なりに「こう感じてほしい」というゴールを描いて努力しよう!という感じです。オモテナシの精神にも通ずる気がします。

方向性

主題アイデアをひたすら書き出す

ゲームの主題がすんなり見つかる人もいます。一方でウンウンうなって何も出ない場合は、ノートやメモ帳で主題になりそうな言葉や説明を思いつくかぎり全部書きだす方法を試してみてください。全部です。勝手に「これは捨て案だな」とか「説得力がないな」とか判断せず、頭の中を出し切る気持ちで書きます。たいていは、書く速度よりもアイデアの速度が高まっていき、どこかのタイミングで意識の底にあった「表現したいもの」「自分が納得できる価値」の正体が見えると思います。

ここですぐに手が止まり、言葉がかれてしまう人は、普段から物事の飲みこみが早い人、早すぎる人じゃないかなと思います(僕の想像ですが)。たぶん抽象性の高い言葉、懐の深い言葉に親しみすぎているんです。
そういう人は、試しに「音読みの熟語禁止ルール(名称はOK)」で主題を広げてみてください。まず、「体験」が禁止されます。そこで「体で感じ取ってやること」みたいになりますが、やるって何を?となりますよね。もっと、中身のある表現が求められます。

和語のイメージ

たとえば、「ゲームで治水の大切さを学べる体験にしたい」と書いたとします。治水、大切、体験という単語をひもとかなければなりません。思いつく限り、どんどん書き出し整理しましょう。
最終的に「大雨で荒れた川からまちを守るゲームを遊ぶことで、川の近くに住んでいる僕らのくらしも、いつもだれかに守られていたんだと気づくようにしたい」とか。これならどんな体験でどんな人がターゲットか、見えてきそうですよね。文章が長いことは全然問題なし。キャッチコピーではなく、目的の整理ですから。

改めて、ゲームの主題は何のために?

こうして主題をしっかり作ることに時間をかける価値はあります。ただし、念のため釘をさしておくと、主題がイイ感じに決まればゲームが面白くなるわけではありません

結局、ゲーム制作において、「実行すれば必ず面白くなる」という黄金律がないため、テストを繰り返したりルールを微調整したり、地道な作業で少しずつ無限の海を進む日々が必ずやってきます。
そのときに、ルールをいじりすぎてワケ分からない状態にならないよう、きちんと主題を作っておくのです。明確な主題は、北極星のように頼りになる存在です。

画像4

特にテストプレイの段階になると、その重要性は高まります。
いろんな人に遊んでもらって、いろんな立場の意見をもらうことになるでしょう。テストで遊んでくれた人の反応は素直に受け取るべきですが、「こうしたらいいんじゃない?」という助言は鵜呑みにできません。取捨選択が必要です。このとき、自分の中の判断基準が定まっていると、必要なときには不採用の理由を相手にきちんと説明できるはずです。相手の善意をむげにせず、納得してもらう。これはけっこう大切です。


ゲームの主題と基幹ルールを結びつける

主題作りに話を戻します。主題がまとまったら、ようやく、ここからゲームルールに着手します。主題(ゲーム体験)と結びつくゲームのルールを探すのです。

以下は私の分類なので、ボードゲーム作家さんの世界で似たようなことが言われているかどうかはわかりませんが、ボードゲームのルールを考えるときは、まずは2種類に区別して捉えるのがいいと思います。
2種類とは、一度決めたら動かさない「基幹ルール」と、テストしながら動かしていく「バランスルール」です。それぞれを区別し、順に組み立てていくことで、無理な後戻りが生じにくくなると思います。

ルール区分


「基幹ルール」がゲーム世界の形を決める

まず基幹ルールと私が呼んでいるものは、「そのゲーム世界の基盤となるルールであり、後から気易く変更するべきではないもの」です。逆にいえば、バランス調整のために後から変更する領域が「バランスルール」です。

スゴロクでいえば「サイコロをふってその目でコマを進める」という部分が基幹ルールであり、「あがりまでのマスの数、1回休みなどのイベント内容と数」など盤面上の内容がバランスルールです。
ゲームの制作中に、テストプレイを通じてマスの数やイベントの内容を調整するのはいいと思いますが、「サイコロをやめ、カードデッキでコマを動かそう」とルールを変えるのはリスキーです。それまでのテストが無駄となりゼロから作り直しになる危険があります。

画像5

カルタでいえば、「進行役が指定した札を、場から見つけて取る」のが基幹ルールと言えそうです。札の合計枚数、札の置き方、お手つきのペナルティ内容といったものがバランスルールに当たります。
カルタのように、文字を読んで内容を判別するルールが基幹ルールに入れば、その時点で対象年齢はほぼ6歳以上になるでしょう。自分の主題が幼児を対象としたいものなら、絵カルタのような工夫が必要そうです。こうした根本的なターゲット調整も、基幹ルールの時点で考慮します。

基幹ルールの具体的な組み上げは、次回以降にしますが、まずは主題である体験してほしい内容を基幹ルールの中で表現するよう工夫しましょう。その上で、「この基幹ルールで、残りはバランス良いポイントを見つければいい」と思える状態にすることが第一歩目。

ちょっと話が分かりづらいと思います。極端な話、全部で3マスしかないスゴロクは1投目で上がってしまい、ゲームになりませんよね。でもこれはバランスルールの問題で、「サイコロの目で進む」という基幹ルールが生んだ破綻ではありません。マスの数など次第でちょうど良い面白さはつくれそうです。
このようにバランス以前に破綻していない基幹ルールを整えることが第一目標です。逆に言えば、基幹ルールの時点で、ゲーム全体が硬直したり尻すぼみになったりしていないか、チェックし、適宜修正することが第一目標に向かうプロセスになります。

ということで、今回の言いたかったことは、主題をしっかり決めるのがとても大切だということ。そして、ゲームのルール作りが始まっても、主題を見失わず体験風景を想像するよう努めようということです。

それではまた次回、よろしくお願いします。


この記事が参加している募集

ゲームの作り方

板橋区内に、レーザーカッターや3Dプリンターを使って何かを作ったり届けたりしています。また、そうした道具を使える人を増やしたいという思いで、講座などもちょいちょい開催しています。サポートいただけた場合は、こうした機材費や会場費などに利用させていただきます。