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20240210 戸山公園野外演劇祭のこと

「ああ、野外劇がやりたいものだ」と思って暮らしていたらあるとき「​​戸山公園野外演劇祭参加団体募集のお知らせ」というのが目に飛び込んできて、とるものもとりあえず申し込んだ。ことのなりゆきとしてはそういうことだった。何しろ近所で散歩したりした時に何度も通ったことがあり、劇団のメンバーと近所で稽古をしている時に通りかかって「ここでなにかやれたらいいねぇ…」と言い合っていたような場所が、むしろ向こうから「何かやりませんか」という募集をしてくれるとは思っていなかった。

▼もともと同じ新宿区内ではあるもののちょっとちがう場所で野外劇の上演を考えていて、そうなると様々な許可や許諾を取るのに普通の劇場を借りるのとはまたちがうさまざまな手続きが必要で、その下調べをしていた時期だった。幸いにも野外劇に詳しい先輩というのが近くにいてくれたおかげで実際的な進め方をいろいろ教えてもらう機会もあったのだが、何しろ初めての野外劇なので結構ハードルが高くて手こずっていた。そこへまさか公園側から募集がかかるとは思っていなかったのでまさに渡りに船だった。
実際に出ていた募集の記事。

▼公園の事務所へ行って担当者の方からお話を伺うに、ことの発端はコロナ禍で活動の機会を失った学生さんたちの提案だったという。コロナウイルスの流行に伴い学内の施設は使うことができない。だからせめて三密の心配のない近くの戸山公園で演劇の公演を実施したいという想いに応える形で試験的に野外劇の上演を許可するに至った、と。その学生さんたちの野外での演劇公演を実際に観てみたことで、担当者の方々も演劇を通じた戸山公園の新たな活用の可能性を感じてくれるようになったということらしかった。
ここに詳しく。

▼一応は都立の公園課職員ということになるはずのその方々は、私の個人的な想像とは裏腹にものすごく親身で物腰の柔らかい人たちだった。正直ある程度もっと杓子定規な「あれはダメ、これもダメ」というようなお役人的な方々なのかしらと思っていたらまったくそんなことはなくて、いわゆる劇場職員の方のように演劇や舞台に詳しいかというとそういうわけでもないようなのだけれど、なんだかものすごく演劇のことを後押ししてくれる方々だった。「この方達の期待に応えたい」と、瞬間的にそう思った。(早稲田小劇場のどらま館の制作の方も「とてもいい人たちだから、あの人たちの力になりたいんです」と語っていた。)

▼近年の自分の団体の作品は東京以外の場所で発表することが多かったから、冒頭で必ず「東京都新宿区からやって参りました、平泳ぎ本店です。」と名乗りを上げるのがお決まりになっていた(ナンバーガールへのリスペクトとして)。私自身はもう10年以上早稲田に暮らしていて、劇団の稽古も主に新宿区近辺で行ってきた。だから戸山公園で野外劇が実施できるとなったときに、一参加団体として真っ先に考えたのはこれまでお世話になってきたこの地域、地元を盛り上げるような演劇公演にしたいということだった。また、東京都内でも野外劇・テント劇を上演している場所はたとえば花園神社や雑司ヶ谷の鬼子母神、池袋の西口駅前のグローバルリングなどパッと思いつくだけでもいくつかあるにせよ、戸山公園の野外劇はとりわけ若い人たちにとって、自分たちの演劇表現を果敢に試すことのできるゆりかごのような場所になればいいと妄想は膨らんだ。

▼東京の演劇界でこれまであまりにも大きな役割を果たしてきたこまばアゴラ劇場が今年いよいよ閉館してしまう。若い劇団がどこを目指して進んだら良いのかという不安も少なからずあるだろうと思った(私も例外ではない)。そんな時に都内に若く野心ある劇団が、やってみたいことを思いきり自由に試してみることができる野外劇場があったらきっとおもしろい。たとえばそうして一年中、毎月さまざまな劇団が戸山公園で四季折々にさまざまな作品を発表しているという状態になったらちょっとした名物になるかもしれない。戸山公園には野外劇場があって、近所には早稲田小劇場どらま館もあって早大劇研のアトリエもあって、同じ新宿区内には他にもたとえば紀伊国屋ホールをはじめとする大小の劇場も多い。”演劇の街”下北沢とはまたちがう形で、若い人たちの演劇が地域に深く根ざす形で早稲田・高田馬場に賑わいや盛り上がりをもたらすことができるかもしれない。

▼そうは言ってもただの一参加団体の妄想に過ぎないのだけれど、少なくとも私にとって戸山公園で野外劇を上演するということにはそれくらいの意義があると感じている。演劇を通じてずっと暮らしている街に社会貢献ができるのならこんなにありがたいことはない。
 昔新宿にはアートシアター新宿文化という映画館があって、最終の映画の上映が終わると演劇を上演していたという。そこでは蜷川幸雄さんや鈴木忠志さんや寺山修司さんや、数々のきらめく才能が時代の最先端を往く演劇を発表していた。翻って令和を迎えた現代、都立戸山公園から規格外の才能が続々と現れるようなことになったら、結構痛快なことなのではないかと、個人的には思うのだった。

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