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20240102 常盤のアジト

自分の場所で作品を発表するのと、誰にでも開かれている場所を借りて作品を発表することの微妙なちがい、みたいなのがあって、日本各地で運営されている「その人たちの場所」というべき劇場やスペースをいくつも訪ねる中で「やっぱりこれは自分の場所がほしい」と思ったのはまあ、自然な流れではあった。

▼そうは言いつつ、わたしたちの劇団には、実はいまもそれに近い場所があるのだった。

▼その場所と出会う前は、駅前の雑居ビルのなかの純喫茶で待ち合わせてはいろいろな打ち合わせやミーティングをしていたのだったが、毎回コーヒー代が掛かるし、混んでいれば時間も気にしなければならないということで、私の大学時代の恩師が運営する私設の図書室へと転がり込んだ。

▼いわゆる昭和の”トキワ荘”的な佇まいのアパートの一室に、その図書室はひっそりと存在している。その図書室の趣旨に賛同して集まったみなさんの持ち寄った本が、部屋の両側に置かれた本棚のひと棚ずつに置かれている。

▼気が付けば誰ともなく、劇団ではその図書室のことを「アジト」と呼ぶようになっていた。本格的な稽古はもちろんできないが、公演の打ち合わせをしたり、しずかに台本の読み合わせをしたり、置いてある本をなにげなく読んでインスピレーションを得たり、ときに置いてある座机を公演のために借り受けて引っぱり出したりしながら、この部屋に通い続けている。

▼劇団が活動し始めてからいままで、このアジトにものすごくお世話になっている。もののはずみでひと財産を成したりした暁には、ぜひこの図書室を7階建てのビルにしたいと思っている。

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かえるのおたま

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