見出し画像

⑮ V.A. / pop'n music 11 AC ♥ CS pop'n music 9 (2004)

KONAMIの人気音楽ゲームタイトル『pop'n music』シリーズ第11弾のサウンドトラック。ある時期からシリーズごとにテーマを設けるようになった『pop'n』だが、本作『11』のテーマは世界旅行であり、その名の通り世界各国の音楽が題材になっている。
『pop'n』は同社の『beatmania』の兄弟機という出自を持つタイトルで、その発想の根幹には『beatmania』同様にエレメカ(説明がちと大変なのでココを読んでおいてください)がある。広い客層にアピールするために誰もが知っているアニメの主題歌などが収録されているのもその延長にあるものと思われるが、ゲームオリジナルの楽曲もまた版権曲めいたバイブスを伴うところに(ある時期までの)『pop'n』の妙味がある。イージーリスニング的口当たりの良さを残しつつ、既存のジャンルからこのゲームの中でしか提唱され得なかったそれまで横断する節操のなさ。ゲームセンターという環境に即した再生時間の短さ(インカムを稼ぐためにもプレー時間が長いと不都合なのである)。楽曲と同じくらい重要な個性豊かで、これまたどこかで見たようなキャラクターたち。意図的なイメージからはじまり、しかし独創的なキャラクターや楽曲へと着地する。「なんちゃって」という名のもとに、フェイクだがオリジナルな音楽を大量に発表し続けてきたのだ。
ここにはスタッフたちが幼少期に通過してきた音楽やテレビ番組に対するノスタルジーが漂っている。初期に収録された曲が「アニメヒーロー」(歌うのは水木一郎)と銘打たれてたり、「魔法の扉 (スペース@マコのテーマ)」や「水中家族のテーマ」といった架空のアニメの主題歌を模しているのはその最たる例だった。
幼少期を越えて少しの思春期だって射程内である。メインキャラクター「ミミ」と「ニャミ」がパフィーをモデルにしているのは明らかに『パラッパラッパー』とそのキャラクターデザインを担当したロドニー・グリンブラットへのアンサーである。他にもフリッパーズ・ギターに見えてしまうSUGI & REOなど、言われてみればのレベルで納得してしまうかすめ具合が実に精巧だ。実際にSUGIのモデルになった杉本清隆 (Orangenoise Shortcut)や、「サイケ」を名乗る楽曲「L.A.N」を書いた木田俊介(バチェラーズ、LPchep3)はネオ渋谷系などと括られるシーンの住人であった。『pop'n』もまた渋谷系からモンド・ミュージックに至る過去の再解釈、音楽ジャーナリストであるサイモン・レイノルズが提唱した「レトロマニア」な精神が発露した結果の一つだと言い切ってしまおう。この辺りは現在書いている『ビデ再』でガーッと吐き出させていただく・・・。

 冒頭で書いたように『11』のテーマは世界旅行であるが、これほどフェイクなゲームにふさわしい題材もない。サウンドディレクターの一人であるwacはライナーに寄せたコメントでハッキリと「ヴァーチャルトリップ」と称しており、現実に楽曲は、日本~アジアからアメリカ~ヨーロッパ~南極~宇宙、そして空港への帰還という一連の旅行ルートに沿って収録されている。日本ではニューミュージックを名乗る「僕の飛行機」(平成っぽいアレンジと昭和なメロディの対比が不思議)があり、ドイツにはクラフトワーク風の抑揚なきインスト「AUSLANDSGESPRACH」がある。やがて南極や宇宙空間など、人類の想像があまり及ばない範囲へと飛び出していくところがゲームそのものの展開(週替わりで更新され、次々と楽曲が追加される)と同期していた。つくづく秀でたコンセプトだったといえる。

Des-ROW・組スペシアル / カゲロウ
Dragon Ash「っぽさ」をドラムンベース+トランペットで表現

私事になるが、筆者が『11』のサウンドトラックを手に入れたころは、ブックオフで中古のクラブ・ミュージックを少しずつ集めている時期でもあった。その道程で手に入れたのが砂原良徳による『TAKEOFF AND LANDING』(1998)で、こちらもまさにヴァーチャルトリップをコンセプトにした一枚だったのだ。冒頭はアナウンスではじまり、ハワイ風の音楽があると思えば、思い出したかのようにハードなハウスへとなだれこむ。そして宇宙へ上昇し、再び空港へと帰還していく。上でも書いたように『11』サントラの構成と展開がほぼ同じだった。この偶然の出会いがノスタルジアの核たる「過去」と「もしも」にやられてしまった瞬間だったのかもしれない。
蛇足めいたことを書くと『TAKEOFF AND LANDING』収録の「MY LOVE IS LIKE A RED,RED ROSE」はSPレコードから直にサンプルしたことによるクラックルノイズが(体験していないはずの時代への)ノスタルジーをふりまく。かたや『11』は、公式サイトで収録楽曲のプレビュー音源が聞けるようになっていたのだが、それがまたビットレートを徹底的に落としたせいでガビガビゆえに(?)懐かしく感じたのであった。長い時間を経てしまった今、この二つに対して抱いていたイメージは融解し、曖昧しかし不滅のノスタルジアとなりて我が内面に生きている。

人気コンポーザーTOMOSUKEによる、空港をテーマにした実質エンドロール。本人いわくフェンダーローズを使っているのが重要とのこと

 モンド・ミュージックという概念を知ってからというもの、イメージありきで、作り手の気配は希薄な音楽がますます好きになってしまった。ゲーム音楽、中でも作家性が激しく強調されていないものは最良のサンプルである。vaporwave以降に顕著な(体感です)ゲーム音楽リバイバルを横目に暮らしていると、『pop'n music』は筆者が記憶している以上に重要な価値基準となっていたことに気付かされるのであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?