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女の恋は上書き保存、男の恋は名前を付けて保存 40

ふと気づくと、明かりをつけるのをわすれていた、リビングは既に真っ暗で外からの明かりがほんのりと室内を照らしている。
ソファに座ったまま、見る外の夜景が美しい、東京タワーが今日は七色にライトアップされている、たしかこのマンションを買っとき、理佐がこの夜景をとても気に入って購入を決めたことを思いだした。あわてて、リビングの明かりを点けると、たちまちその夜景は姿を消した。

 帰宅後、着替えをすますと、リビングにきてあの絵の事を少し考えていた、撤去されていたのは意外だった、もう少し早く見に行けばよかったと少し後悔はしたけれど、それは、今更言ってもはじまらない。
理佐はソファに腰かけながら、軽く目を閉じて、あの絵を自分の記憶でパズルのように再現しようと試みる。けれども朧気ながらに浮かんでくるのは、あの左側の女神、ただ一人荒野を見つめている女神だけだった。理佐は初めてその絵を見たときの、軽い衝撃はいまでも波紋のように理佐の心の中に揺れ続いている。
見開いた目は少し愁いを帯びて、果てしなく続く荒野を眺めている。細く長い女神の指が荒野の彼方を指している、その荒野の彼方にはなにがあるのだろう?
 

あの女神が指さす荒野は、これから理佐が進んでいく人生を暗示しているのだろうか? 理佐は立ち上がると、窓辺の方へ移動する、レースのカーテンをあけて、窓を開けて、ベランダへ出てみる、初秋の風が心地よく頬を撫でていく、眼下には東京の夜景がまるで宝石のように美しく広がっている、その美しい夜景を見ながら、ふとあの女神指さしていた荒野に思いを馳せる、全く対極にあるこのふたつのものが、どこかしら、似たようなもののようにも思えた、この美しく輝くような夜景と、すべてのものを拒否した様な荒涼とした荒野。
この美しい夜景も、薄皮を剥く様に、剥いでいけば、あの荒野と同じになるんだろうか?自分は、そんな薄皮の上で生きているのだろうか?
理佐はもう一度、あの絵を見たいと心底思った。
 

頬を撫でる風が、少し冷たく感じて、理佐は中へ戻った。
どのくらいの時間がたったのだろうか、時計を見ると七時を少し過ぎていた、あわてて頭を日常へと切り替える、もうすぐ由香や夫が帰ってくる時間だった。

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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。

今回の冒頭部分は、前回の最後の部分と重複しています、

読みやすいように、まとめました。


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