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女の恋は上書き保存、男の恋は名前を付けて保存 47

 祝いの席は、近くのホテルの最上階のレストランだった。
 久しぶりの家族そろっての外食だった、由香は少し興奮気味だったし、いつも冷静な紗香も雰囲気に圧倒されてか、キョロキョロと周りを見ている。
 珍しく夫が、飲み物や料理の注文を、やけに詳細にサービスの男性と話している、普段は無口で、こんな所へ来ても、いつも理佐たちにまかせっきりにするのが常なのに、今日は特別なのかもしれない。由香が夫に、ここはよく来るのか?聞くと、たまに使うよと答える。
 四人で、お祝いのシャンパンで乾杯する、紗香がありがとうと言いながら、みんなに軽く頭を下げる、乾杯が終わって、食事が始まると、会話の中心はやはり、由香だった。
 

いつも冷静で寡黙な、紗香に比べ由香はそのあたり、如才なく家族全員に会話を振って盛り上げるのは得意だ、寡黙な紗香も妹に会話を振られると、ついついしゃべりだして、いつもとは違う表情を見せる。理佐は、両親とも、どちらかと言えば寡黙な方なのに、由香はどちらの血を受け継いだのか、いつも不思議に思う。
 メインが出るころには、夫も、すっかり由香のペースに嵌ってしまい、声を出して笑っている、どちらかと言えば、由香と夫は、普段は互いに疎遠なところもあるのだが、今夜は、お互いに笑顔がたえなかった。
 デザートがでるころ、夫が、娘二人に、バーラウンジへ行こうと言い出した、紗香も由香も当然普段そんな場所に行く機会もないので、嬉しそうに父親の提案に同意する。
 食事が終わって、そちらへ移動する、恭しく係りに案内される、席は奥まった、一番眺めのいい席だった、理佐が夫にそっと、ここも予約していたのと聞くと、彼はうん、言って頷く。
 東京の夜景が独り占めできるような席だった、娘たちは感嘆の声を小さく上げる、眼下に広がる宝石をちりばめたような光景に理佐も目を見張る。
 理佐はふと、先日自宅から見た東京の夜景を思い出す、もちろん景色は多少違うのだが、あの時と同じように、あの女神の指さした荒野が頭に浮かぶ。結局あの夜、理佐はあの絵を思い出そうとして、「パズル」を、完成させることはできなかった、唯一再現できたのは、あの荒野を指さす女神だけだった。

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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。


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忘れられない恋物語

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