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霧多布の岬で

キンキンに冷えた事務所の自席から、窓の外を見る
照りつける陽射しに、昨日まで居た浜中町の岬を想う。

太平洋に面した町は、漁業と酪農と絶景の岬、そして霧が名物。

切り立った岬から見下ろす、早朝のコンブ漁は夏の風物詩
漁場を求めて一斉に漁船が海に繰り出していく
あれよあれよという間に
深青のキャンバスに白のストライプが描かれていく

獲ったコンブは、砂利が敷き詰められた空き地に
1本1本丁寧に並べられていく
年老いた漁師を中心として
息子、嫁  家族総出だ

寒暖の海流がぶつかり合うここは好漁場であるとともに
夏場には多くの霧を発生させる
海風に乗って、街の至るところまで霧がめぐる
進む道の一寸先も、岬の輪郭も、その日宿泊する宿さえもはっきり見えない
町全体が霧に包まれる

霧の中から突如として、草をはむ牡鹿が現れた

「今年の夏は、異常だね」

どこへ行っても聞いた言葉。
霧の量が半端でないという。
長い時間かけてジリジリ押し上げられてきた地球の温度は
今夏、この地の穏やかだった生活も直撃していた。
夏でも20℃なかった寒冷地は、いつしか30℃に届く熱帯になっていた。

気温26℃、湿度120%。停めた車に水滴が降り注いでいた。
身体全体に湿気が付きまとう。がまんを超えた不快。
冬対策の寒冷地には、暑さへの装備はない。
住民たちは、身体を冷やす手段のない街で
夜も眠れぬ日々を送っていた

人間が競い合いながら追求してきた利便性
夏なのに、汗をかかなくなった人間たち

大事な地球を破壊してしまった
人間だけの地球ではない
動物たちは干上がった森から
食べ物を求めて人里へと下りてきてしまう

止まることをしらない人間欲
すでに建設は破壊であり破滅

そんなことはとっくに知りながらも、なお破壊を止めない

北の大地は悲鳴を上げている。
これからますますむごい世界が展開されていくのか。


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夏の思い出

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