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HOLY NIGHTS第40話完「一夜限りのHoly Night」(連続短編小説)

「さいでんな~♪ ほうでんな~♪」

クリスマス用に
収録した番組を見ながら、
純は陽気に懐メロを歌っている。

洋介は呆れて、純から酒を奪う。

「なんだよー」

「せっかくのクリスマス、
純がオンエアされてるのに、
なんでちゃんと見ないんだ?」

純はくすっと笑うと、
洋介から、酒の入った
グラスを奪い返す。

そして、ちらっとTVを見て
つぶやく。

「オレも年とったな~」

クリスマスの晩、
国沢純は、篠原洋介と、
TVを見ていた。

TVでは、美しい声で
バラードを歌う
純の姿が映っている。

「そうかな~?」

今が一番旬な時期だと
誰もが思っている純の
自己評価に、洋介は首をかしげる。

純は、ちょっと子供じみた
様子で言った。

「クリスマスだから、
言っておきたいことがある」

なんだか今更、
告白されるような気がして、
洋介は、身構える。

が、純はペロリと酒を
なめながら、言った。

「オレが体温を知らない関係を、
恋愛って呼ばないのは
知ってるだろ?」

美しいバラードとは
うらはらな純を、
洋介は、よく知っている。

「体温を知らずして、
国沢純を語るな、
だけど、でもね、体温を知ってても
恋愛じゃないこともある」

「・・・?」

首をかしげる洋介。

「要するに、
オレは体温を知ったから恋愛だ、
ってゆー勘違いを
繰り返してきたなぁ、と。
恋愛ごっこだ。
プラトニックと同じくらいタチが悪い」

「プラトニックはタチが悪いのか?」

「相手によるけど」

いつになく、語る純を見つめる洋介。
純はその目を見つめ返す。

「洋介の体温は十分知ってる。でも、
必ずしも、恋愛ではないし、
なにより、恋愛病に陥ってた
自分がバカバカしい。
恋愛じゃないんだよな、
この感じ。なに?」

「・・・さぁな」

洋介のつれない返事に、純は笑う。

「クリスマスに、
国沢純が思うこと。
恋に恋してるような年じゃない。
でも、さみしいとき、体温を求める。
でも恋愛じゃない」

「やめとけ、水かけ論だ」

「そう、乙女みたいな自分が
忌々しい」

そこにオチがあるのか、と、
洋介は思う。

「どんな自分でも、
ちゃんと直面していけばいいさ。
第一、こんなに輝いてるじゃないか」

サビを歌う純がTVに
ちょうど映し出されている。

「・・・でも、老けたよな~」

またそうつぶやく純を、
洋介は笑って、軽く引き寄せた。

                   
              了


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