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HOLY NIGHTS 第5話「藤田との相談」(連続短編小説)

純は、藤田良樹に
事の次第を話していた。

「・・・何の報告だ? 
お前と益子かれんの
スキャンダルか?」

「何もないってば」

「なら、洋介に話せばいいだろ」

藤田は、もちろん篠原洋介と
いう男の存在を知っているし、
純との関係も分かっている。

「洋介に話せなくて、
オレに話したいことって、何だ?」

藤田の意地悪な質問に、
純はふくれる。

「かれんさんは、女性の中では、
ピカイチだ。
でも、オレの曲で、今の役作りを
してもらうわけにはいかない。
だからTVプロデューサーの良樹に
相談しにきたんだ」

「だから、何を?」

「益子かれんVS国沢純で、
何か作れないか」

「・・・惚れたのか?」

純は無言のまま、首を横に振る。

藤田は渋い顔をする。

「仕事の上でも、はっきりさせておこう。
お前にとって、オレや洋介、益子かれんは、
食いもんで例えたら、何だ?」

「はぁ? 仕事の上なのに、食べ物?」

藤田のユニークな発想に、
純はついつい面白がって
乗ってしまう。

「オレはパン党だけど、
敢えて和食に例えるなら・・・
洋介は、白ご飯。
毎日ないと困る。
けど、飽きてしまうし、
たまには違うものも食べたくなる。
良樹は、スパイシーな調味料か、
栄養ドリンク。
ないとつまんないし、
元気も出ないけど、
毎日だとキツイ。
そう、刺激が欲しい時に必要なもの」

良樹は苦笑する。

「洋介が白ご飯で、
オレがスパイシーなカレーの
ルーってとこ? 
失敬だな、あまりにも日常的過ぎる」

「だって良樹が食べ物に
例えろっていうから・・・」

「お前の小学生並みの
食生活が伺えるよ」

純はニヤリと笑う。

「性生活は、そこそこなんだけどね」

「白ご飯と?」

「プラス、時々、スパイシーで」

良樹はあきれる。

「ご飯は一種類だが、
スパイスはいくらでも
種類があるぞ」

「まーまー、そこら辺は、
ご察しいただきたく」

純のニヤニヤ顔に、藤田は、
フンッと鼻を鳴らす。

「洋介は、よく平気でいられるもんだ」

「今度、洋介と語ってみれば?」

「バカバカしい!」

ちょっと機嫌を損ねてきた藤田を、
純はじっと見つめる。

「やめろ、その目」

「何で?」

「ムラムラする」

純はケラケラ笑って、
話を変えた。

「食材で、益子かれんを
例えるとね、
高級料亭の鮎の塩焼き、
みたいな感じがするんだ」

高級料亭は理解できるが、
藤田は首をかしげる。

「・・・限定で・・・鮎の塩焼き?」

「イメージだよ、あくまでも」

「当たり前だ、誰がそのものだと思う」

藤田の冷たいツッコミに、
吹き出す純。

「なんか、めったに口に
出来ない感じや、
あの躍動感、白身なのに
しっかりした味があって
・・・川魚・・・
かれんさんは、海で安穏といる
タイプではなく、
激しい清流の中、
凛としているタイプだと思う」

「ふーむ」

まんざら的はずれでもない
純の洞察眼に、藤田はうなる。

「それで・・・お前自身は何なんだ?」

藤田の質問に、
純は少し困った顔をする。

「オレは・・・和食ではないな。
温かいスープのような存在で
ありたいとは思うけど」

「温かいスープか。
国沢純の楽曲のイメージ通りだな。
プライベートでは、ちっと違うが」

「プライベートは何?」

「それは言えんな」

「なんで?」

「素面では言えないようなもんだから」

「な、何なんだよ、気になるな~!!」

自分の例えが知りたくて
子供みたいに拗ねる純を
横目に見て笑いながら、
藤田はつぶやいた。

「その、もって行きようのない
何かを、鮎の塩焼きとのコラボで
活かしてみるか」

               続


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