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ガイドランナー

毎週水曜日か火曜日に走るのが日課になってきた。
部活を引退してから、運動をする機会がゼロになってしまっていたので、週一でも体を動かせて、いい感じだ。
一緒に走る人がいるからサボらずに続けられる。

香港島の上にあるその公園では、海を越して九龍サイドの高層ビル群を見渡せる。
ここに来る度に、自分が、東京よりもでっかくて、チャンスを掴もうと思えばいくらでも掴める香港という街にいることを思い出す。

しばらく走ったら歩いて、また走り出す。
今日もそんな調子で8キロほど走った。
チームのみんなとすれ違ったら励ましあって、また自分たちのペースで走っていく。


一緒に走るパートナーは、目が見えない。
私の右手には虹色のバンドの左端が、一緒に走る彼女の左手にはバンドの右端が握られている。
前から走ってくる人がいたら、バンドを引っ張ってがぶつからないようにする。
前に人がいっぱいいたら、走るスピードを少し緩める。
一緒に走っている人だけを頼りにして、走るって本当にすごいことだと思う。

一番最初にこの香港失明人健體會(http://www.bshk.org/)に参加した時に、目隠しをして走ってみようというトレーニングを受けた。
怖かった。
周りの人の足音や声は聞こえるけど、その人たちがどのくらい近くにいて、あとどれくらい走ったらぶつかるのかはわからない。
でもそれと同時に楽しさも感じた。
慣れてきたらだんだん軽快に走れるようになってくる。
一緒に走っている相手と息を合わせて、風を感じながら走るのは、なかなか心地の良いものだった。

走りながらするおしゃべりもとても楽しい。
なぜかわからないけど彼女と話してるときは、自分に素直になれるし、どんどん話したくなる。
コーチが広東語で何か説明していてわからない時には、彼女に助けてもらう。
広東語のフレーズを教わることもある。
仕事以外は家でこもりきりのことが多かった私をガイドランナーにならないかと誘ってくれたのも、彼女だった。

この団体は、別に目の見えない人を助けてあげるために存在するのではない。
一緒に走ることを楽しみ、お互いに学び合うためにあるんだと思う。
なかなか色々なことが中途半端になってしまう私だが、彼女と一緒に走ることは続けられる気がする。

頂いたサポートは、もっと自分のアートの幅を広げるために使わせていただきます。最近は布のキャンバスに油絵で絵を描いてみたいです。