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[旅行記] まさに背徳のアレンテージョ

ナザレの町でランチを食べたあとは、チェックインできる時間になったので宿へ向かう。

一見すると普通の民家のようなのだけど、呼び鈴のところには宿のグレードを表す★のマークがついていて、ここで合ってそうだと安心する。呼び鈴を押すと、出てきたのは大柄で背の高いおじさん。と、右側を指さしながら向こうだぞ、と言う。玄関がふたつあって、こちらは別の入口? 他の家? だったらしい。

改めてもうひとつの呼び鈴を押すと、出てきたのはこれまた大柄だけど、今度は大柄で横に大きいおじさん。話してみると、とても陽気で明るい人。どうやら英語が通じないらしくポルトガル語だけ話せるらしい。

でもそんなことは全然関係なくて、身振り手振りも加えて宿の説明やナザレのことをいろいろと教えてもらったり、こちらのことを伝えたり。コミュニケーションなんて、伝えようとすれば、言葉がなくてもなんとかなる。

結局この日は、ナザレのあちこちを巡って写真を撮っていたりして、何をするでもなく。ただただなんとなく時間が過ぎていく。

人気の多くない夕暮れのビーチになんとなく物寂しさを感じるのは、もうすぐポルトガルを離れなければならない自分の心情がうつっているから、だろうか。

一日中歩き通して、さすにおなかが減る時間。夕食は、ナザレで有名な「カタプラーナ」という、フランスのブイヤベースのような料理を食べてみたかったのだけど、基本的に2人前からなので not for me か。

と思っていたら、1件だけ呼び込みで「1人前でもできるよ」というところが。迷いもしたのだけど、なんとなく惹かれなくて、それよりもやっぱり気になったものがあってその店は辞退。

気になっていたのは、ランチでも行ったお店。なんとなくここで食べたい気分になっていた。なぜかというと、ランチのときにメニューを見て、気になっていた料理があったから。

それは、豚肉とアサリのアレンテージョ風 (Carne de porco à alentejana)

この、豚肉とアサリ、山のものと海のものを合わせるという不可思議な料理は、しかしどうやらポルトガル料理の中でも抜群に美味しいらしい、と聞いていた。なによりも、「アレンテージョ風」という言葉が、なんとなく独特の雰囲気があってかなり気になっていた。

実はこの料理、名前だけは随分前から知ってはいたのだけど、実際にどんな料理なのかまでは調べたりしたことがなかった。ただ、豚肉とアサリが使われているのだ、ということだけ。

当のお店を訪れると、ウェイトレスのお姉さんが「あれ、また来たの?」という感じで案内してくれて、ランチのときと同じ席へ。目的のものと、せっかくなので魚のスープも頼む。

暫く待ってやってきた皿には、こんもりと盛り付けられた豚肉、アサリ、そしていろいろな野菜と一番下には揚げたジャガイモ。

さっそく食べてみる。あ、ビネガーが利いてる。しっかりマリネされた、締まっているけどちゃんと噛んで切れる豚肉。人参やカリフラワーは結構生に近くて食感が残ってる。これはピクルスなのかな? ブラックオリーブは苦味がほとんどなくてやや甘い感じもある。

アーリオ・オーリオっぽいニンニクのフレーバーをまとったアサリのうまみは、ソースとして絡まって他の食材に移っている感じ。アサリ自体はちょっと普通ではあるけれど、皿全体で一体感が出ているのは、きっと調理の腕によるものだと思う。

なんだろう、下品になりそうな構成なのに、なぜか上品さがある。アサリの殻やオリーブの種があるので、食べにくさはご愛敬。旨味の構成が面白い。山と海の旨味が合わさって、そこにピクルスの甘酸っぱい酸味、少しオリーブの苦味、揚げたジャガイモの確かな満足感。凄い一皿。

スープもなかなか。魚が繊維質ななるまで煮込まれたところに、なにかのソースでもったりと。少量だけど、海老が入ってるのが見える。小さなパスタも入って、これは食べるスープだ。

そして豚肉のアレンテージョ風、食べても食べても減らない!

なんだか見た目よりもだいぶ多く感じる。これは普通に2人分だ。スープに合わせてパンを頼もうかと思っていたけれど、頼まないで良かった……。

美味しいのだけど、こんなに食べて大丈夫なのかな、でもポテト美味しい、豚肉も美味しい、ああ、止まらない。

ここに来てひとつのフレーズが脳裏に。

「背徳のアレンテージョ!!」

料理人のイナダシュンスケさんが呟いていた言葉で、海と山のノンベジ、つまり魚と肉を掛け合わせることを指して背徳感があると言っていたのだけど、この皿に至ってはそのボリュームと揚げた芋のカロリー爆弾っぷりもあって、もう本当に背徳感たっぷり。

ここでビールかワインなんかいった日には、それはもう!!
でもこの日は休肝日だったので、幸運にも事なきを得た。あれ、でも、もしかして逆にその幸せを体験できなかったのは不幸だったのかも?

食べきれるかな、と思ったけれどしっかり完食。満足感たっぷり。

随分食べるのに時間がかかった気がするけれど、その間も働き者のウェイトレスさんがあちらへこちらへ行く間にも気を使ってくれて。どうやら外の炭火グリル担当が親父さんで、ウェイトレスをしているのは娘さん。そしてまだ小学生になっていないくらいの娘さんが奥からでてきたり、お母さんらしい人が厨房に居たり。

地元の親子が営む小さな食堂。なんとなく居心地が良かったのも、そういうアットホーム感があったからなのかも。

この店に出会えて良かった。

ごちそうさまでした。


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