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[旅行記] ポルトガルのイワシ 日本との違いは

帰りのフライトの日が近づいてきている。最終日はリスボンで宿を取ってあるので、その最終日にポルトからリスボンに直接向かっても良かったのだけど、せっかくなので途中にある町、特に少し小さめの町に寄ってみたかった。ここまで、リスボン、マデイラ、ポルトという大きな町ばかりに泊まっていて、小さめの町に泊まるようなことがなかったので、なんとなく偏りすぎなイメージがあった。

本当はエストレーラ山脈の方にあるセイアの町に行きたかったのだけど、さすがにちょっとアクセスが難しくて時間的に厳しいので見送り。列車でコインブラ、という手もあったのだけどあまり惹かれる要素もなく。

バス路線を確認していて、ふと目にとまったのは、海岸線にあるナザレという町。山は諦めたけど、なら代わりに海の風景を見てみようかと思い立つ。ここにしよう。

ポルトから朝一番で直接向かうバスに乗り込み3時間弱。風景を見ていたら割とあっさり到着。

町の風景が目に飛び込んでくる。
ああ、なんて明るい町。

快晴というような天気でもないのに、町全体が明るくてなんだか南国の陽気な雰囲気が出ている。壁が白い家が多いからなのかな。いかにも港町、といった風景。ポルトの町が割と暗めな印象があったので、なんだかすごいギャップを感じる。

とにかくぶらぶら歩く。暖かい。この日がそもそも暖かかった、ということもあるけれど、それだけではない気がする。

この町は大きな高台があって、町も高い場所と低い場所で大きく分かれている。いわゆる町の中心は低い方の海岸沿い。高台の上には教会があって、その周りにも家は普通にあるのだけど、なんとなく賑やかさに欠ける感じ。高級感があるわけでもなく。もともと教会くらいしかなかったとかだろうか。

この町の住人を見ていると、なんだか黒い肌の人が多い。ヨーロッパ系の顔立ちの人よりも、アフリカ系のように見える人の割合がかなり多い気がする。店先で会話をしている人たちを眺めていると、ポルトやリスボンに比べてもさらに人種が入り混じっているような。

それにしても、住宅地はアパートメントが並んでいる割にはほとんどが窓も全部閉められていて、人気があまりない。商店や飲食店もだいぶ人の入りがまばら。海岸線沿い道路に面した一等地とも言えるところには、当然想像できるようにたくさんの飲食店が並んでいるのだけど、お昼時になっても人は全然入っておらず、また店員の客引きもほとんど力が入っていない様子。

どうやらこの時期はまだ海の季節ではなく、海を目当てに来る人達はもっと先のバカンスシーズンに、ここの家にやってくるらしい。繁忙期と閑散期がはっきりしているみたいだ。ここまで見たアパートメントは、ほとんどが別荘という扱いなのかもしれない。

ひたすら歩きまわって、その間に食事処を見繕ってみたのだけど、一番良さそうと目星を付けていた店はこの日はお休みだった。やってみる店を見てもどこも客の入りがほとんどなかったのだけど、ひとつだけ、それなりに人が入っている店が。

店の横でおじさんが炭で魚やイカを焼いていて、これまた近所のおじさんと思われる人と談笑している。その様子をみていたら、近所のおじさんが「ここのはうまいぞー」という。中を覗いてみると、消防士みたいな格好をしたグループが二組ほどに、ほかは地元の人か観光客か、といった感じ。ピンと来たので、ここに決めた。

Restaurante O Veleiro

ポルトガルの食事で、そういえば気にはなっていたけど食べてれていなかったものが、イワシのグリル。

イワシはポルトガルではとてもポピュラーかつ好んで食べられる魚で、毎年イワシ祭りが催されるほど。歴史的にも古くはローマ帝国時代から記録があり、そこでもイワシの評価は高かったとか。

日本でもイワシやサンマの塩焼きはある意味定番だけれど、海の幸が豊かなポルトガルでもそれは同じ。そして、新鮮な魚ならシンプルにグリル、という考え方も、日本人ならよく分かる感覚。そのポルトガルのイワシがどんなものなのか、気になっていた。

メニューを見る。外でおじさんが焼いていたイカも気になったのだけど、ここはあえて初志貫徹でイワシのグリルを注文。しばらく待つ。注文してから焼き始めるのだろうから、それなりに待つことになるのは当然なので。

20分ほど経過。

あ、来たみたい。

運ばれてきたイワシは、なんとも豪快。まるごと炭火でシンプル極まりない。

内蔵も頭も取らずにそのまんま。いいね、こういうの。

早速食べてみる。まずは、身というよりは内蔵の部分をいただく。

えっ?

甘い?!

一瞬、何を食べたのかと疑う。イワシのワタが? 甘い??

でも、間違いない。これが驚くほど甘い。ワタが甘いってなんなんだ、と思いつつもこれが美味しい。身の方も食べてみると、ふんわりと柔らかくて魚の美味しさがしっかりと堪能できる。塩はかなり大ぶりのものがかかっていて、でもそんなに量は多くないのか、全然しょっぱいとは思わない。

絶妙に丁度いい塩加減、そして丁度いい焼き加減。

頭もかなり柔らかくて、そのまんま食べれてしまう。うわー、なんなんだこれ、と思いながらあっという間に1尾ペロリ。背骨と尾ひれしか残らない。

その後も2尾、3尾とあっという間。思い出したかのように付け合せで口直ししたりして。

3尾目くらいのときには、ナイフとフォークで魚を食べるのもかなり慣れてくる。背骨の外し方もコツを掴んで、身はかなりキレイに食べられるように。なんだか新しいスキルを獲得してしまった。

小ぶりとはいえ5尾は多いのでは……と思っていたけれど、満足感もありつつ物足りなさもないくらいの丁度いい量だった。

いやいや、これは驚き。新鮮なイワシが、良い職人の手にかかって炭火で焼かれるととこうなるのか。ポルトガル、侮れない。

食べている間も考えていたのだけど、内臓が甘く感じるのはおそらく餌が違うから、かな。イワシが食べるプランクトンが、日本とポルトガルでは種類が違って、日本では苦味としてポルトガルでは甘味として人間が感じる、ということなんだと思う。

動物の身体は、当然だけど食べているものによってできている。住んでいる環境によって何を食べるかが違うとなれば、なるほど味も違くなるか。

不思議だけど、でも当然のこと。

そして、改めて日本のイワシの味を思い返す。ポルトガルの甘味のあるイワシも美味しいけど、日本のイワシのあの苦味も、やはり良い。特に、大根おろしとの食べ合わせとなると、やっぱりあの苦味があってこそかな、とも思う。子どものときはあんな苦味なんてなくていいと思ったものだけど、大人になってからはやっぱりこの味が、となっていることに気づく。

つくづく、味覚の形成というのは、これまで食べてきたものによるんだな、と気付かされる。

今日の体験は、素晴らしい食体験としてこれからも記憶にしっかりと残ると思う。

ごちそうさまでした。


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