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[旅行記] ポルトの町でポートワインを深める

ポルトに来たいちばんの理由、それは、ここがポートワインの生産地だから。

これはマデイラ島を訪れた理由と同じで、お酒の生産現場を尋ねる、というのがライフワークみたいなことになっている自分にとって、酒精強化ワインの一角であるポートワインは、ポルトガルに来たのなら絶対に行くしかない場所。

ポルトの町を流れるドウロ川。世界遺産にもなっている観光名所の旧市街は、このドウロ川の北側。一方で、ガイア地区と呼ばれる南側の、この河のほとりにはたくさんの倉庫が立ち並んでいる。

ドウロ川とその南側のガイア地区

北側から見ると、その屋根にはいろいろな名前の看板が。これらが全部、ポートワインのメーカーたち。サンデマン(Sandeman)、テイラーズ(Taylor's)、コプケ(KOPKE)、バロス(Barros)など、有名どころがすぐ近くに集まっている。

なぜこの場所に集まっているか、というのがポートワインの特徴でもあって、ポルトの町からちょうど東側、ドウロ川の上流にあるアルト・ドウロ地域では古くからワインの一大産地だった。そこで取れるブドウからできたワインを、船で運んで他国へ輸出する際に船で河口まで運び、そこを出荷するための起点となった。こうしてドウロ川の河口はワイン倉庫の大規模拠点となった、というわけ。

ワインを乗せてドウロ川を下っていた barcos rabelos という船

そして、なぜここで酒精強化ワインが生まれたかというと、海を長い期間かけて運んでいくうちに劣化してしまうワインの品質を保つため。基本的に他の酒精強化ワインも同じ理由だけど、時間がかかる航海の間にワインをもたせるため、ブランデーを入れてアルコール度数を上げた。発酵途中でアルコールを入れることで、発酵は途中で止まり糖分がアルコールに変わらずに残る。なので、酒精強化ワインは他のワインよりも甘く感じるものが多い。

そんなドウロ川の河口にあるガイア地区を歩く。遠くから見るとブランドがひしめき合っているようにも見えてしまうが、実際に行ってみるとひとつひとつの建物がかなり大きくて、隣のブランドまではそれなりに距離があるように感じた。

何年も熟成させていくということはストックがたくさんできていくわけで、広い敷地が必要になる。大規模なブランドであればあるほど、かなり広い敷地を確保しなければならない。それでもたくさんのブランドがあるということは、それだけ需要が大きい(あるいは大きかった)ということかな。

だいたいどこもツアーをやっていて、時間帯もそれぞれにバラバラなので、どこのツアーに参加しようかで迷う。料金の違いは、だいたいは最後の試飲で出てくるグレードの違いになっていて、ツアーの内容は同じことが多い。

この日一番早い時間帯でツアーをやっていた、Cockburn's でツアーを申し込む。自分が今日最初らしい。時間の直前になって、6名のアメリカからやってきたというグループが来て、彼らと一緒にツアーをまわることに。

後で他のブランドのツアーと比較してみて分かったのだけど、Cockburn's のツアーはかなり詳しく説明してくれるものだった。ポートワインの歴史、使われているブドウの産地であるアルト・ドウロ地区の風土気候、そしてブドウ品種の細かい説明、動画を使ったブランドの味を守るストーリーの紹介、樽熟成がどのように行われているのか、ポートワインの種類ごとにどの樽でどんな風に熟成されていて、それぞれの味わいの違いなど。

たっぷり1時間使って、かなり密度ある説明をしてもらえた。お酒あるいはワインについてある程度詳しくないと、ちょっと置いてけぼりになってしまうんじゃないの? というような内容も含めて、自分としてはかなり満足度の高いツアー内容だった。

最後に試飲があって、そのときにツアーガイドをしてくれたレオノール(Leonor)さんにいろいろとお話を伺った。最初はポートワインの作り方について、だったのだけど、途中からウイスキーとの比較の話になり、その流れで「ジャパニーズなら NIKKA が好き」というところから今度は日本のウイスキーと文化の話へ。

聞いてみると、実はかなりの日本好きらしく、食事も含めてかなり興味があるとのこと。味噌汁を作ったりもしているそう。味噌や豆腐も結構手に入
りやすいらしい。いろいろな具材の味噌汁の話をして盛り上がる。

日本のイメージとして、ミステリアスな雰囲気で、そこが良いらしい。そこに住んでいる当人としては、なんだか不思議な気分。ミステリアスって、んー、そんなことも無い気がするんだけど。でもまあ、海外の人から日本がどう思われているのか、ということを考えてみるとなんとなく分かる。

試飲もそっちのけで、あれこれ話し込んでしまった。とりあえず、ツアーガイドがこの人にあたったら大当たり。一番最初のツアーでこんなに良い経験ができたのは、とてもラッキーだった。

その後も大小それぞれのブランドを巡って、ツアーに参加。試飲はそれなりに量があるので、3軒目くらいでかなり酔う。日を改めてまたブランド巡り、というようなポルトの日々を過ごす。

それにしても、本当にこのガイア地区だけによくも集まったものだと思う。ドウロ川の河口は世界への玄関口であり、まさに Port という名前が表す通りの「港」として発展した。その港から運ばれてくるワインだからポートワイン。最初に主な出荷先となったイギリスでそう呼ばれるようになった時代から、ガイア地区は徐々にポートワインのメッカになっていく。

そして1756年、ポートワインの品質確保のために時の首相がガイア地区に限定したのも、そこに主要メーカーが集まり、品質の高いものがガイア地区を中心に生み出されていたから。ここときから、ガイア地区の姿は今でも同じように続いている。

古いブランドを訪れると、そこにはしれっと大昔の設備や樽などが置かれている。1700年代から使われていたの木樽、創業当初からの熟成庫、昔を思わせる看板……。

ポルトの街の中でも、一番といっていいくらい歴史を感じる場所。
酒も建物も歴史も、ゆっくりと、でも確実に熟成を重ねた姿がここにある。

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