ケイコ 目を澄ませて

三宅唱「ケイコ 目を澄ませて」を川崎109で見た。若い人から年輩の親子連れっぽい人もいて超満員。16ミリフィルムの粒子感ある画面と北区~足立区あたりの荒川河川敷と首都高環状線が交錯する殺伐さと情感が入り混じる風景の中で、劇伴を一切使わず、静かに進行していく女子ボクサーのスケッチ。全てを作り込んで自然に見せる演出が凄い。

「ケイコ 目を澄ませて」は、フィルムをHDに変換して仕上げていると思うが、これが奇跡の変換というか、フィルムの特性を見事に活かしている。かつてネガフイルムをデジタルベータやD2に取り込むと、フィルムの特性が消えて苦しんだのが、見事に解消されている。どうやったのか、是非知りたい。それと美術。ボクシングジムはセットなのかロケセットを加工したものなのか、昭和の時代に出来て老朽化していく美術。クレジットに東宝映像美術や紫水園がクレジットされているから、これは相当に造り込んだと思う。

 フィルムとこの美術の合わせ技で、聾唖の女子ボクサーの日常を切り取っていく。映画のセットアップは完ぺきだと思う。映画は年老いていくジムの会長三浦友和と老朽化し崩壊するジムを対比させ、変わらなく優しい仙道敦子の妻、やはり強面だが、優しい三浦誠己の先輩、等に囲まれて特に成長するわけでもなく、日常を過ごしていく聾唖の女子ボクサーの日常を静かに切り取っていく。そう言った意味でスケッチと表現したが、この映画が更に傑作となるには、このスケッチを越えた、あのラストの表情のあとに来るものは何か?映画のこのあとのドラマが見たいと思った。

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