あゝ決戦航空隊

「あゝ決戦航空隊」を見終わる。

この映画は

大日本帝国海軍中将、大西瀧治郎を描いた山下耕作監督、脚本笠原和夫、野上龍男による1974年の映画だ。1974年といえば東映は『仁義なき戦い』シリーズの大ヒットで、実録ヤクザ映画ブーム真っ盛りの頃だ。そのせいもあり「仁義なき戦い」シリーズでお馴染みの役者が大挙出演している。成田三樹夫くらいか出ていないのは。

主人公の大西は海軍航空隊のトップであり、特攻隊の立案者である。フィリピンと台湾で数多の特攻パイロットを見送った後海軍軍令部に仕官、終戦後まもなく、腹を十字にかっさばいて果てた。

その大西中将の、特攻の開始から自死に至るまでの苦悩を描いた作品が「あゝ決戦航空隊」だ。上映時間約200分。プログラムピクチャー全盛期にあってこの長さは興行面を考えても相当に冒険だったと思う。

そして映画は、笠原和夫の戦争への想いが滲む息苦しい映画となった。先にも書いたが映画の殆どを鶴田浩二演じる大西中将の苦悩と一緒に追体験することとなる。
特撮を用いて空戦を描き、佐藤慶の冷徹なナレーションと共に語られる実録レイテ戦記の下りや、ヤクザ映画のヒーローたちが次から次へと出てくる前半はそれでも戦記映画として楽しめる。ところが、戦局が悪化し終戦へと向ていくに従って、映画は大西中将の狂人のような戦争論、敗戦論と向き合うこととなる。
海軍きっての合理主義者で、当初は特攻作戦に疑問を抱いていた大西が和平工作を知ると、白い軍服に身を包み、軍刀を持って御前会議に乗り込む。そして、天皇が現れるまで、ポツダム宣言を受諾するかそうか悩む閣僚たちを前に、大西は徹底抗戦を訴える。

「日本は勝ちます。必ずや勝ってみせます。あと二千万、二千万人の特攻が出れば必ず勝てるのです。みんなが一人一人、知恵を絞れば必ずや良策が生まれます。私も考えます。今少し、時間を下さい」

しかし、受け入れて貰えない。たった一人大西の話を聞くことになる高松宮演じる江原真二郎との会話。

「だけど、どうやったら収拾できるんですか。国民も、死んだ者も、みんなが納得できる負け方というのは。

この戦争はね、国民が好きで始めたんじゃないんです。国家の戦争なんですよ。国と国との戦いということは、国家の元首の戦いということなんですよ。日本は、そこまで死力を尽くして戦ってきたんですか。

負けるということはですよ、天皇陛下御自ら戦場にお立ちになって、首相も、閣僚も、我々幕僚も、全員米軍に体当たりして斃れてこそ、はじめて負けたと言えるんじゃないんですか。和平か否かは、残った国民が決めることです。

私はそうなることを信じて特攻隊を飛ばしたんです。特攻の若い諸君も、それを信じたからこそ、喜んで散ってくれたんです。何人の者が、特攻で死んだと思いますか。2600人ですよ。2600人もいるんですよ。こいつらに、こいつらに、誰が負けたと報告に行けますか」

この長台詞を山下耕作は鶴田浩二に1カットで演じきるようにキャメラを回す。鶴田浩二の鬼気迫る狂人大西中将の最高の芝居の見どころだ。このシーンは戦中派笠原和夫の想いが色濃く出たシーンだとばかり解釈していたが、笠原の本によると、児玉誉士夫に長く取材して得た大西の思想そのものなのだそうだ。

長すぎて映画としては冗長な部分も多い「あゝ決戦航空隊」だが、戦争というものを考えさせてくれるという意味で、実に興味深い映画になっていると思う。戦争論、敗戦論を学ぶには良いテキストだと思う。

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