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【建築】街中なのに森の中のような台北市立図書館北投分館(九典聯合建築師事務所)

台湾台北市の北投区。台北という大都市にありながら温泉の湧く街としても知られている。

北投区へは台北中心部から地下鉄MRTに乗ること20分、北投駅で降りる。駅前は郊外らしい庶民的な街並みだ。日本にもありそうな風景に見える。


駅から行き交う車に注意しながら15分程歩いていくと、


集合住宅や商業施設に囲まれた北投公園に突き当たる。公園はこの奥にある日本統治時代に開発された温泉街まで続いており、ホテルや日帰り温泉も充実しているが、目的は温泉ではない。


公園は遊歩道が整備されて散歩にも心地良い。


しばらく歩くと今回の目的地に辿り着く。
台北市立図書館北投分館。その名の通り公立図書館の分館だ。


緑豊かな環境の中にある建物は外観からしておよそ図書館らしくない。まるで洒落たホテルのようでもある。


ここには1987年に開館した図書館があったが、コンクリートの強度不足のため2002年に取り壊され、2006年に現在の図書館がオープンした。設計を請け負ったのは台湾の設計事務所・九典聯合建築師事務所。新図書館はサスティナブルな建築を目指し、周辺の自然環境に配慮した計画としている。



館内は本棚が並んでいるのは当然だが、それ以上に本棚の向こう側に見える木々の緑が印象的だった。本棚の高さを大人の背丈より低くして、館内のどこにいても自然光や緑が視界に入る工夫がされているのだ。


人間にとって自然光は重要で、一般的には窓がない空間よりも窓のある空間の方が好まれる。しかし図書館にとって自然光は好ましいものではない。長時間紫外線に晒されると本が焼けてしまうからだ。このnoteでもいくつかの図書館探訪記を書いているが、窓の設け方=自然光の取り入れ方が設計者の腕の見せ所でもある。


この北投分館も窓多めの図書館だが、本棚は窓から少し離して置かれているので、紫外線が長時間本に当たることはないだろう。


2階への階段でもスリットの天窓から光を取り入れている。


地下1階から2階までの吹き抜けにも大きな窓がある。窓は東側に向けられているので、直射日光が入るのは午前中だけだ。


この窓が果たす役割は大きい。というのはフロアの反対側に居ても自然光や緑を感じられるからだ。ここだけ見たら山小屋にいるのかと思ってしまう。


そう、この図書館は街中にありならが、館内のどこまでも自然光や木陰を取り込んだ"森の中の図書館"というイメージになっている。

それが最も象徴的なのは北側に設けられたバルコニー。読書には快適過ぎる環境といえる。自分だったら本など読まず、ただこの空間に身を委ねてボーッと無駄に時間を過ごしてしまうだろう。
さらに軒は深くルーバーも付いているので、直射日光が館内の奥までは入らず、建物の熱負荷を抑える省エネ効果もある。


窓際にもテーブルと椅子が置かれ、バルコニー同様快適な読書が楽しめる。


内装は木ばかりが目に付くが、建物全体は鉄骨造、コンクリート造、木造を組み合わせた構造である。鉄骨や木はリサイクル可能なものが使用されている。


特に木材は温泉街の硫黄ガスの浸食に強く、かつシロアリ防除も施された木材が使われている。


家具も木で統一されている。椅子の背もたれはカブトムシ、トンボ、蝶などがくり抜かれた凝った作り。


こちらは肘掛けのついた立派な椅子。


本棚は建物のサイズや用途に合わせて何種類も作られている。


踏み台まで木製。


木がたくさん使われている理由は居心地の良さやエコロジカルな点からであるが、それだけではない。そもそもこの周辺には日本統治時代の住宅や建物が多く残っており、それらの多くが木造建築であったことに由来している。つまり地域の歴史と文化という点からも木を採用しているのだ。


地下1階は子供図書館となっている。地下といっても建物は傾斜地にあるので、一面は屋外に面していて、他の階と同じように緑が目に入る。


家具はもちろん木製で、子供たちに合わせたサイズで作られている。


子供用トイレの手洗いがちょっと面白い。(大人用は普通だった)



ちなみにこの建築、屋根には16kWの発電が可能な太陽光発電パネルを搭載し、一部は屋上緑化もされている。雨水やリサイクルタンクも設置して、植栽の灌漑やトイレの洗浄に利用することで節水もしている。


また出来るだけ自然光を利用して、照明のエネルギーも抑えている。
そうした様々な工夫から、台湾のグリーンビルディングの指標を満たした建物にも選ばれているそうだ。



公園の中にある図書館は珍しくないが、この図書館は公園の一部でありながら、逆に図書館に公園という広い庭が付属しているようにも思える。


そのように公園・図書館を一体として捉えれば、この図書館は読書だけでなく、コーヒー飲んだり、音楽聴いたり、テラスに座って景色を眺めたり、寝転んだり、鳥や森の香りを感じたり、さらには隣の温泉にも入ることができるレジャー施設だと考えることも出来る。

実はこの図書館、短い台湾滞在中に2回も訪れた。1回目はあまり期待しないで閉館時間近くに訪れたのだが、あまりに素晴らしく、翌日また再訪してみた。
素晴らしかったのはこの記事で紹介したように建築も良かったのだが、なんと言っても図書館を利用する(寛いでいる?)人たちが多いことが印象的だった。開館前から並ぶ人、本を読む人、勉強している人、バルコニーから外を眺めている人、建物を見に来ている人、etc。まさに市民に愛されている図書館だった。


本当はついでに温泉でも入ってくればベストだったんだろうね。何しろ周辺は温泉街でもあるのだから。




図書館探訪記


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