見出し画像

会話1.もし本当にカレーが飲み物だったら

「もしさ」

「ん?」

「もし、カレーが本当に飲み物だったら世界はどうなってたんだろう」

「飲みたくなるほど僕のカレーが美味しかったの?」

「いや、まあ美味しいんだけどそういう意味ではなくて」

「ふうん」

「まあまあ、いつも感謝してるよ。確かに妻が料理を作らないなんてのは申し訳ないような気もするんだけど」

「そこはいいんだよ。僕は家で仕事出来るんだから。それに料理好きだし、君はゴミ出ししてくれるじゃん」

「そっか。じゃあカレーが飲み物になったらの話だけどさ」

「忘れてなかったか。ホントに君は茶番みたいな話題が好きだね」

「いいじゃんねー、茶番」

「わかったわかった。でもさ、カレーが飲み物になったら大変だよ?」

「なんで?」

「カレーが飲み物になったら君はこれから何をご飯にかけて生きていくの?」

「え?」

「まさか飲み物をご飯にかけるようなことは出来ないよね」

「うん……あ、でもさ!そうなった世界ではこの世界で言うカレーのような料理が出来ると思うんだ」

「どんな料理なんだろう」

「うーん、多分カレー状のものは飲み物とされるだろうから…想像つかない」

「もしかしたらご飯に何かをかけるという価値観が異端とされてるかもしれないよ」

「えー、なんか生きにくそう」

「そうすると、もしかしたらカツ丼や牛丼も生まれないかもしれない」

「え?」

「だってあれもご飯にかけてるじゃん」

「あれは乗っけてるでしょ!」

「一緒だよ。カレーも乗っけてると言えるじゃん」

「う……」

「かつやではカツ煮とライスが並び、吉野家では牛皿とライスが並ぶ…」

「そんなの、食文化の崩壊だよ!」

「しょうがないじゃん、君がカレーが飲み物だなんていうから、この世界ではカレーやそれに類する料理はグラスで飲むことになり、丼ものという概念は消滅するんだよ、どうするの」

「う…申し訳ないことをしてしまった…」

「そうだね、僕たちがカレーをご飯にかけられることは、実はとても幸せなことなんだよ」

「そうだね、じゃあカレーをかけられることに感謝して、おかわりするか」

「あ、ぼくもおかわりするから君のも注いでくるよ」

「よろしく、ほいお皿」

・・・

「はい、どうぞ」

「え?」

「せっかくだから、体感してみようよ」

「なんでワイングラスにカレー入れたの」

「ビジュアル的に」

「どうすんのよ、次からワイン飲むときにカレーの匂いがしてきたらどうすんの?マグカップにしてよー…」

「ちゃんと洗っとくから。……で、どう?」

「ない」


【会話1.もし本当にカレーが飲み物だったら 完】




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?