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【第17話】 午睡のリキシャ🇮🇳

自動車やバイクが当たり前の日本人にとって、人力車は異様だ。この取材の旅でも人力車を実用的に利用することはなかった。どうしてもタクシーになる。だからこそ興味が湧く。何を思って仕事をしているのだろう。

新聞を一心に読んでいる彼に話しかけるのは気が引けた。しかし、取材の提案をすることに迷っているようでは今後何もできないだろう。そう思うことにして、ダメ元で話しかけてみた。

「すいません、ちょっといいですか」彼は無愛想な視線をこちらに向けてきた。

新聞を読む車夫
この中で昼寝もするらしい
無口だが喋ると長かった
ゆっくりと流してくれる
カメラを見つけ手を振る少女
次々と自動車が追い越していく
なぜ人力車なのか疑問が浮かぶ
彼も裸足の一人だった

カメラはガタガタ揺れている。客を待っていてもなかなか来ないので、それでは自分が、ということで乗せてもらった。映像はどうなっているのだろう。ちゃんと撮れているのだろうか。

宿に戻るとハードディスクに映像データをコピーする。だが綺麗に撮れたかどうかの確認はしない。街を一日中うろつき回ったせいで疲れているし、そもそも映像の良し悪しについてなんの知識も見識もなかったからだ。撮れていればとりあえずそれでOK。気にしない。

次の日も同じようにガタガタとカメラを揺らす。「進歩は後でいい。今はこれが自分の仕事なのか、とにかく味わおう」この時はこう思っていた。

人力車の運転手だよ

朝から夕方まで 漕ぎっぱなしだよ
まぁ朝に何人かを乗せた後この人力車の中で昼寝は取るぞ
どうせ昼下がりは客も拾えんからな

今年で58歳になるが他の仕事をしたことはない
もうかれこれ35年もこの仕事をやってきたんだ
酸いも甘いも噛み分けてきたさ

もし カネに困っていなければもうこんなマネはせんよ
でもそうもいかん
乞食になるつもりも無いんでね

だから身体を使う大変な仕事だけど食べるために仕方なくいまだにやってるってわけさ

特別なことがない限り客とは口を利きたくないし
家に戻ったって俺には家族なんてない
誰が待ってるわけでもないんだ

この仕事をしていて幸せなことなんて無いよ
時には1日で50ルピーにもならない日があるんだ
これのどこが幸せなんだ

まぁ強いて言うなら俺が幸せなのはそうだな
休みの日にブラブラと過ごせる時とこの人力車の中で昼寝を貪れる時だね

こんな仕事で誰も幸せになりゃしないんだよ 誰もな
それによ 仕事なんて誰だって何かしらの悩みを抱えてやるもんだろうよ

Rikisha Driver in south INDIA summer 2018
www.monologue365.jp

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