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挿絵小説『ラッキーボーイ』(全12話)〈luckyboy〉

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国境のないネットの世界では、入り口としての挿絵が重要なのではないか?という仮説から、ネット小説を再定義した作品です。
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記事一覧

挿絵小説『ラッキーボーイ』第1話

挿絵小説『ラッキーボーイ』第1話

「ラッキーボーイ」みなさん、こんにちは。お初にお目にかかります。よくこのページまでたどり着いていただきました。

みなさんがこれから読もうとしている物語は非常に珍しい、稀有な、珍奇な、一風変わった、それでいて超絶ロマンチックなお話です。物語は平凡な都内某所の某横丁の某路上から始まります。えっ? もっと具体的な地名を書かないとわからないって?……では、わかりやすく書きますと、東京都裏側市西裏側町裏側

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挿絵小説『ラッキーボーイ』第2話

挿絵小説『ラッキーボーイ』第2話

「黒田家の人々」みなさん、こんにちは。やっと更新されましたね、『ラッキーボーイ』の第2話です。ここで我らが主人公の黒田哲也君をもう少し紹介させていただきますと、彼は大学で経済を勉強しております。ですが、円高が進めば日本経済はどうなる? と質問されて天井の蛍光灯の数を、ひい、ふう、みい、よお、と数えだす始末なので、頭の良さは推して知るべしといったところです。しかしながら、まじめさにかけては誰にもひけ

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挿絵小説『ラッキーボーイ』第3話

挿絵小説『ラッキーボーイ』第3話

「翔子さんの秘密」黒田哲也君は「僕は誰がなんと言おうと翔子さんを探し出してみせるよ!!」と、両親と父の後輩の松井さんに宣言して、家を飛び出しました。ところが通りを横断しようとして前方不注意のためにピックアップトラックにひかれてしまいました。まさにオーマイゴッドです。

ピックアップトラックは二十メートルほど走ったところで停車しまして、若い男性ドライバー君が車から降りてきました。彼は急に飛び出した哲

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挿絵小説『ラッキーボーイ』第4話

挿絵小説『ラッキーボーイ』第4話

「見合い写真」みなさま、ごぶさたでした、お元気で生姜。あ、パソコンが噛んじゃった。もとい、お元気でしょうか。さて、翔子さんが姿を消してから五年の歳月が流れました。不屈の精神で彼女を探し続けている哲也君ですが、真夏の暑さで夏バテがピークを迎えているせいか、少し弱気になるようなところがございます。今日は彼女に似た人を見たという情報を友人から入手して、目撃したというコンビニ店員君に話を聞きに行きました。

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挿絵小説『ラッキーボーイ』第5話

挿絵小説『ラッキーボーイ』第5話

「デート」みなさま、ごぶさたしております。お元気でしょうか?

さて、五年前に姿を消した翔子さんのことが忘れられずに、今も探し続けている哲也君でしたが、母の強い勧めもあって好みがドストライクの美人さん、南野美恋さんとデートをすることになりました。

気が進まないという姿勢はまったく揺るぎがないのですが、それでいて心のときめきを覚えるのはなぜでしょう。だがそれを責めるのは酷というものでしょう。彼も普

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挿絵小説『ラッキーボーイ』第6話

挿絵小説『ラッキーボーイ』第6話

「再会」みなさま、ごぶさたでした。われらが黒田哲也君は、またまた圧倒的な不注意力を発揮して、車にはねられてしまいました。何をやっているのでしょうか、まったく世話の焼ける……などとのんきに構えている場合ではありません。今まさに哲也君は虫の息です。頭をアスファルトに強打して、脳に激しいダメージを受けているのは間違いありません。彼を追いかけて来た美恋さんは、ショックのあまり腰を抜かしてわなわなと震えてい

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挿絵小説『ラッキーボーイ』第7話

挿絵小説『ラッキーボーイ』第7話

「両親との対面」みなさま、ごぶさたしております。さて前回、五年ぶりに再会を果たした哲也君と翔子さんは、思い切って彼の両親に会いに行くことを決めました。反対されるのは予想できましたが、一点突破で本丸を攻め落とす覚悟です。二人の仲を認めてもらえれば、周りが何を言おうと気にすることは無くなるからです。そこがクリアにならない限り、陰でコソコソしていると言われても仕方がありません。

とはいえ、いきなり紹介

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挿絵小説『ラッキーボーイ』第8話

挿絵小説『ラッキーボーイ』第8話

「松井さん、動く」前回、哲也君は翔子さんを両親に紹介しました。父の満さんは彼女に好感を持ったのですが、母の純子さんは烈火のごとく怒り狂いました。純子さんにとってスケッチブックの不思議な力など知ったことではありません。今ここにいる息子の恋人が四十路というのが耐えられないのです。

哲也君と翔子さんにとって、想定内の事態とはいえ、やはりがっかり感はゆがめません。「やっぱりおかしいのよ、この姿の私が哲也

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挿絵小説『ラッキーボーイ』第9話

挿絵小説『ラッキーボーイ』第9話

「別れ」みなさま、ごぶさたでした。さて前回、翔子さんはカフェで哲也君と待ち合わせをしていて、突然、松井さんの訪問を受けたのでしたね。松井さんは純子さんから二人を別れさせるように指示を受けておりました。そして(愛しているのなら別れるのが本当の愛情)という正論をビシビシと直球で投げ込んできました。翔子さんは松井さんの話を黙って聞いておりました。反論すると、理屈で負けてしまうのがわかっているからです。高

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挿絵小説『ラッキーボーイ』第10話

挿絵小説『ラッキーボーイ』第10話

「オリオン号」みなさま、ごぶさたでした。さて前回、哲也君と翔子さんは、愛ある別離を選択しました。何か理不尽な表現ですね。しかし、人生とは理不尽なできごとに満ちあふれております。そんな体験をした哲也君は今、上野駅の十三番ホームに来ております。今日は八月三十一日です。みなさん覚えていらっしゃるでしょうか。今日は満さんと純子さんの結婚記念日で、二人があこがれのオリオン号に乗車する日です。失礼、あこがれて

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挿絵小説『ラッキーボーイ』第11話

挿絵小説『ラッキーボーイ』第11話

「列車事故」ああ、なんということでしょう。この作品が映画化されても、JR各社がスポンサーに付いてくれるのは不可能になりました。だって列車事故ですよ!……それはさておき、前回上野駅構内のカフェで、二杯目のパフェを頼むかどうか迷っていた翔子さんは、激しい衝突音に驚いて構内の通路に出ました。すると立ち込める煙の中からたくさんの人たちが逃げて来たのでしたね。そして翔子さんは、老夫婦を心配して、危険を承知で

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挿絵小説『ラッキーボーイ』第12話(最終話)

挿絵小説『ラッキーボーイ』第12話(最終話)

「復活」葬儀場の一番小さな会場に、神崎家の案内板がありました。神崎は翔子さんの苗字ですね。彼女は身寄りもなく、交友関係のある知人友人もほとんどいませんでしたから、弔問する人もいません。その割には豪華な祭壇が設えられていましたが、もちろんこれは命を助けてもらった、満さんと純子さんの感謝の気持ちの現れでした。その祭壇の前に哲也君が一人でポツンと座っております。先ほどまで満さん、純子さん、松井さんも一緒

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