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エストニア、電子政府主要プレイヤーから脱落か。それでも落胆する必要はない

“こんにちは、こんばんは。

エストニアは現在の電子政府のリーダー的ポジションを失いつつある(エストニア監査局発表)」というなかなか刺激的なタイトルのニュースが流れてきました。

記事によると
・EUファンド等の資金獲得では既存のシステムのアップデートやメンテナンスよりも新規開発プロジェクトの方が援助を受けやすいため、既に(長年)リーダー的ポジションを務め、多くのシステムを抱えるエストニアは競争力を失いつつあること

・既に4つの新規プロジェクトが失敗に終わったこと

・メンテナンス費用が結構かさむこと(特に既にレガシーとなりつつある古いシステム)

・名物としていた"e-Health Record(電子カルテ)"がそこまで使い勝手が良くなく、医療従事者の実に3分の2の方が不満を抱いていること

などが原因として挙げられています。しかし、

それでも落胆する必要はない

が筆者(電子政府学修士保持)が思っていることです。だってこれ

イノベーションのジレンマ的なやつですから。

(原著は昔読みましたが、忘れてしまいましたので、以下は個人的なイノベーションのジレンマに対する見解です)

ファーストペンギンなエストニア

ファーストペンギンとはペンギンの集団行動に見られる習性で、自分が食べられてしまうリスクを取ってでも、最初に海に飛び込み先行者利益で魚をたらふく食べられるリターンをもくろむ最初の1羽のことです。「誰もやっていないことに最初に取り組む者」と言えるでしょう。

1991年にソ連から独立を果たしたエストニアは、自由を得たはいいものの、国を支える産業はほぼゼロでした。今でもちょっと街を外れると「マジで何にもない荒野」が延々と続いています。昔氷河が削り取ってしまったせいで、地盤がぐにゃんぐにゃんの湿地が多く、畑にも工場地にもならない土地ばかりなんですね。

しかしながら、かつてのスパイ組織KGBの情報局がタリンにありました。当時は珍しかったコンピューターがあり、それをもって独立したんですね。当時の大統領だったか首相だったかは忘れてしまいましたが、逸話では「小学校の屋根の修理よりもパソコンを学校に導入することに予算を割いた」と言われています。

これしかない!、という状況だったんでしょうね。

国民統一のIDの導入も、国政選挙レベルでの電子投票も、国民のデータを外国の大使館のサーバに置くこと(データ大使館)も全てエストニアが世界初です。e-Residencyというバーチャル国家もそうですね。電子投票とデータ大使館においては未だに世界で唯一でもあります。

世界で初めて国レベルでサイバーテロを受けたのもエストニアです(2007年。行政機関や銀行、メディアのサイトがダウン)。それを受けてNATOのサイバーセキュリティ対策の本部が首都タリンに設立されました。

2017年には「タリン宣言」と呼ばれるOnce-Only-Policy等のそれまでエストニア電子政府が掲げてきた"政策美学"をEU全体の方針にする決定も打ち出されてきました。

エストニアは常に先頭を歩んできたのです。

レガシーが生まれ、メンテナンスコストが膨らみ、(ガチの)新規プロジェクトが上手くいかないのは当たり前です。むしろ、電子政府という観点で後進国の国にEUファンドが優先的に配られるべきでしょう。

既存のエストニアのシステムを見て、後発がより効率の良いシステムを構築するのだって当然です。むしろ、エストニアがそうなるようにコードをオープンにしたりコンサルしたりしているんですから。

エストニアが今見ているもの

電子政府と聞くと「わーすごい」となりがちなのですが、フツ―に企業でやっていることを国レベルでやっているだけなんですね。社員IDだってない方を見つける方が難しいし、電子投票はメール、データ大使館はクラウド、e-Residencyはウェブサイトと外部向けのお試しツール。もちろん、企業と違い、顧客を選べず、「全国民に平等に」という非常に高尚で難関なテーゼが課されるのですが、やるべきこと、目指す像はそういったフツ―のことです。

そして現在、フツ―のことはだいたい終えました。エストニアは今、諸々のシステムやサービスを輸出することに注力しています。

x-roadという縦割り行政を平滑にするシステム(Google ドライブみたいなもの)があるのですが、フィンランドと相互に接続・連携を図っています。

2015年からの取り組みなので、いくつか課題も見えてきました。その一つが「対応する語彙の調整」です。例えばエストニアのAという国民サービスはフィンランドでのBに相当するのに、使っている語彙が違うため、自動的にマッチングできない等です。(また、後述の通り、そもそもエストニア側にサービスが足りていない)

さらに、例えばe-Residencyはアゼルバイジャンでも稼働している。

こうしてサービスが国境を越えてくると、収集できるデータが何倍にもなり、効率化や新サービスの開発につながる。

・・・( ^ω^)・・・

てゆうかエストニア99%の公的サービスはオンラインで
できるゆーてるけど、そもそもサービスの質も量も低いやんけ。。。

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エストニアの年金サービスに関するサイト

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イギリスの年金サービスに関するサイト
エストニアのと比べて読みやすいし、
わかりやすいし、フレンドリーであることがうかがえる。

上はエストニアとイギリス政府の公的サービスの1つに関しての例であるが、サービス全般にイギリス政府の方が質も量も格上だと筆者は、実際に調べ比較し、結論付けている。なおサイトのデザインは似ているが、イギリス政府の方が早くからこのデザインであり、エストニアは2019年初めにデザインを刷新したばかりなので、この点ではエストニアはイギリス政府の後を追っている。

実はリーダー的ポジションを取る国はたくさんいて、エストニアはトップからは程遠い

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国連が毎年発表する電子政府ランキング
日本が10位でエストニアはトップ10外であることは異論しかないが、それでもトップ5位は激しく同意(筆者の感覚。別の機会に記事を書きます)

まとめ

ニュース記事が指摘することは裏を返せばエストニアが今まで電子政府界を牽引してきた結果であり、それは当然のことである。反省すべき点、見習う点は確かに多いが、それぞれのリーダー国がそれぞれ役割を担っていて、エストニアはサービスの多国籍化というやるべきことをやっているので記事に落胆することはない。(なんなら記事ではleading statusと謳っているが上のランキングにあるように、エストニアは"新しいことをする"という意味でleadingだと筆者は考えており、電子政府全体が拡充しているという意味でのleaderないしbossだとは思っていない)

神長広樹”

追記

ところでメンテナンスが高騰とあるんだけど日本政府はAWS(アマゾン)にお金を支払い続けることはできるんだろうか。。。


コーヒーをご馳走してください! ありがとうございます!