【百科詩典】ろじうらでかんがえる【路地裏で考える】

山里の人気ない町に建つ古民家を見ていると、それが今ここにある世界と、すでにここに存在しない過去、そして未だここに存在し得ない未来を繋ぎ止める門のようである。
過去と未来を架橋するのは、経済原理の外側に自らの足場を築いているものたちである。
現在隆盛の価値観からすれば、敗れ去りしものたちである。
しかし、彼らがもし存在しなければ、現在と過去、現在と未来を結びつけ、和解させる靭帯をも失われてしまうだろう。
わたしは、敗れ去りしものたちの唄声を聴きたいと思う。
しかし、その声はあまりに小さく、忙しい現代の街角では騒音に紛れてしまうだろう。
だから、わたしは、せめて負け犬の遠吠えが遠く路地裏を、今日も散歩し続けていたい。

〜平川克美『路地裏で考える』