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「モバイルハウス制作ワークショップ」で見えてきた「動く家」という住まいと空間を創造することの価値

小さい頃から「旅する暮らし」に憧れていた
ビフォーアフターを見て建築家に憧れた小学生の時、彼らの真似をして、落書き帳に自分の理想の家を描いていた
そこで描く理想の家は大体地面に根を張っていない「動く家」だった

いつしかモバイルハウスという言葉に出会った
そんな住まいで暮らす人々の存在を知った
けれども僕にとって彼らの存在はずっと遠いものだった
それは自分が学んできた/体験してきた「住まい」のカタチとは大きく異なるから。大学院で住居学を学んでいると、どうも「住まい」というものは身軽ではなく、重苦しいものらしい
自分には関係ないものだと思っていた

ある日SNSでモバイルハウスを制作するワークショップが開催されることを知った

「憧れだった遠い世界のモノが身近に感じれるかもしれない!」

「旅する暮らしを実現するために、モバイルハウスの作り方を学びたい!」

「住居系学生として、家を自分で一からつくってみたい!」

色んな思いと期待を胸に、参加を決意し即応募した

ワークショップの概要

期間:11/11 - 11/17
場所:山口県周防大島
参加者:9人+主催者2人
目的:1「モバイルハウス」を自分で制作する方法を知れる
   2オフグリッドの小さな暮らしを体験できる
   3普通に暮らしていたら出会えない仲間と出会える

WS主催の2人はそれぞれ自作のモバイルハウスをもち、うち1人はモバイルハウスで日本中を旅している生活冒険家。
「瀬戸内のハワイ」と呼ばれる周防大島で泊まり込み、瀬戸内を一望できる自然豊かな景色を眺めたり、獲った魚を捌いたりといった島暮らしを体験しながらモバイルハウス制作をする一週間。
制作したモバイルハウスは最後参加者でオークションをし、落札した1人が購入できるという流れ。

この一週間とても楽しく、自分にとって貴重な時間を過ごした。
一ヶ月以上前になるが、少しずつ振り返ってみようと思う。

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(周防大島の夕日)

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(島で獲れたハマチを使って調理した夕食)


モバイルハウス尽くしのWSで気付く「動く家」の意味

今回のWSはまさにモバイルハウス尽くし。

主催者のモバイルハウス講義(自身のモバイルハウス制作工程の説明、色んな事例紹介)に始まり、実際に主催者のモバイルハウスにお邪魔させてもらったり。

夢だったものを制作できただけではなく、そこから一気にその世界に対しての景色が開けていくような感覚はとても新鮮で「自分はこの世界にずっと来たかったんだ...!!」と実感した。

一週間という短い時間だったので簡素になってしまった部分もあるが、それでも自分がずっと夢見ていたモノをつくり、立ち上がる瞬間は感動としか言いようがない.....!

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(モバイルハウス制作風景)

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さて実際にモバイルハウスを見て、学び、制作すると、今まで設計してきた住まいと異なる点に気付かされる。

〇エネルギーをいかにして自立するか
 モバイルハウスは地に根を張っていない。水道・配線等のインフラから完全に自立したカタチをとらざるを得ないので、いかにエネルギーを調達するシステムを創り上げるかが重要になってくる。
 そしてそのシステムを考えるには、自分がどれほどのエネルギーを必要としているかを自身で把握しておく必要がある。
 主催者のモバイルハウスは太陽光発電パネルや20Lタンクを搭載し、太陽光発電を行ったり、訪れた場所で湧き水を汲んだりという方法でインフラを確立していた。
 「20Lタンクで全然生活できる」と主催者は語るが、恐らく僕はそれでは足らない、20Lなんてすぐ使い果たしてしまいだろう。
 誰かの真似ではない自分の生活にあうインフラを整備する必要があるのだとわかった。それはつまり、普段の生活ではブラックボックス化されがちな部分まで生活を考えて、設計に反映する必要があるのだと実感した。


〇開口部の意味
 固定された一般的な住宅では、開口部の位置は方位や景色等の既にある外界との関係性によって決定され、意味づけがなされる。
 モバイルハウスは、その時々で外界の様子が変化するため、開口部の位置を方位や景色から決定する必要がない。一方で、その時々その場所にで意味づけが変化するフレキシブルな開口が求めらる。

ある時は自然豊かな場所で綺麗な景色と空気を楽しむための開口、また別のある時は街中で外を歩く人々の気配を遮断しながら内部に光を取り入れるための開口etc....

現状ではなく今後どこにいるか、を想定しながら設計するのはなかなか難しいが、モバイルハウスならではの面白い部分だと思う。

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(主催者のモバイルハウスに乗り込み、外の景色を見る)


〇複数機能をもつインテリアプロダクトによる省スぺースの実現
 モバイルハウスはその性質上、一般的な住宅より居住スペースは狭くなる、そのためスペースを有効活用するために、積みいれるインテリアプロダクトは必然的に複数の意味づけをする必要が出てくる。例えば荷物入れとイスを一体化したり、壁と机を一体化したり。
 省スペースの中でどう自分の生活を創り出すか、個性の出し方をディティールで表現するのが生活の知恵という感じがして、面白く、今の内にアイデアをどんどん溜めておこうと思えた。

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(主催者のモバイルハウス内観)


こうしてみるとモバイルハウスは、自身の理想の生活とは何なのか?を考えるきっかけとなる装置であることに気付かされる。

モバイルハウスは既存のインフラから解放され、場所から解放される一方で、全てに手が届くくらいの小さなスペースしか存在しない。

一般的な住宅が外部空間(周辺環境等)と内部空間(自身の生活スタイル等)との反復の中で設計を行うのだとしたら、モバイルハウスは周辺環境などの外部性を一切排除し、内部のみを見つめ続け設計していくといった違いがあるような気がする。


「住まい」は自分でつくれるのか

「モバイルハウスを作りたい!」と意気込む年齢も職業もバラバラの9人(+主催2人)で進んだWS。

その過程で僕は、「自分で図面を描かない」というルールを自分に課した。

なぜそんなルールを定めたのか?

 そもそも僕は建築・デザインを少しは学んできているので、木工制作の方法等、ある程度要領は理解できているつもりだ。
一方、今回参加者の多くが家づくりを学んだことも、経験したことも無い人達。

 モバイルハウス制作を目標としている今回のWSにおいて、主催者が伝授する制作方法をもとに、僕や主催者がCG・図面を描いて、それを見せながら、参加者にその通り制作すれば、ぶっちゃけかなりのスピードで制作できるだろうし、その自信はあった。

だから工具の初歩的な使い方も怪しかったり、島暮らしを堪能しすぎて作業が全然進まなかった最初の数日は、正直不安だった。
「このままじゃやばそうだから全部設計・図面化して、作業するだけの状態にしようかな」とも思っていた。

 流れが変わったのが、3日目の夜。
「どんな目的をもってWSに参加したか」を話し合っている時、旅人気質で自由人ばかりのメンバーだけど、「自分のモバイルハウスをもちたい!モバイルハウスをつくりたい!完成させたい!」という意思が、実はきちんと共通していたことがわかりWSが一気に進んだ、と同時にハッとした。

 そうか、このWSの目的は「誰もがモバイルハウスをつくれるようにすること」だ。僕が前に出すぎて1人でつくるべきではない。
 もちろん自分が学びたい部分についてはきちんと実践を通して吸収していくつもりだ。しかしそれと同時に図面を描くスキルを偶然もっている僕は自分が図面を描くのではなく、その方法を他者に教えることが役割なんじゃないか、と。

そう思い、「自分で図面を描かない」というルールを定めた。

 次の日から図面を描かず、図面を描く方法と見方、寸法を決める方法を教えることに注力。
 最初は図面の描き方に手間取ったりする人もいたけれど、結果として皆が試行錯誤しながら図面を描けるようになったことは良かったと思う。

 僕がハッとさせられ、自身の役割を認識した時の心境を紐解いていくと、それは参加者の純粋な「つくりたい!」「こういう生活をしたい!」という感情に触れたからというのがしっくりくる。

 自分はなんでも仕事的に捉えすぎてしまうという欠点がある。デザイン・建築を専攻し、モノづくりの方法と他者にその価値を提供する方法を学んできた一方で、その学びを「自分の生活にどう活かすか」という視点が欠けていて.....。他人のための住宅は設計するけれど、肝心のマイホームには頭が回らないみたいな....。

モバイルハウスはWSのためにつくるのではなく、自分がつくりたいからつくる、自分がそれを使いたいからつくるという至極当たり前なことをを参加者から気付かされ、当初の傲りみたいな自身の感情を反省した。

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(皆で設計図をもとに検討している様子)

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WSから1ヶ月以上経った今改めて思い返すと
「家をつくったことのない人達が一週間で家を一から創り上げた」
という事実はとてもすごいことだと思う。

家を自分で一からつくったことのある人がどれほどいるだろうか?
少なくとも住居学を学ぶ僕の周りの学生の中にはいない。

 今回制作した「家」は結局DIYと呼ばれるレベルではある。
面積も小さく、施工クオリティはプロには到底及ばない、耐年数もせいぜい数年だろう。

けれども「つくる」と「つくらない」では大きな違いがある。

 モバイルハウスは自分の手の届く範囲のスペースしかない、言い換えれば全てに手が届くということ。常に自分の手によってアップデートしていけるということ。最初の一歩がどんなに小さくてもそこからいくらでも歩みを進められる可能性を秘めているということだ。

 全てのインフラから切り離されているモバイルハウスを制作することは、自分の生活をいかに自分の手で一から作り出すかということに他ならない。ある意味そこに言い訳が入り込む余地もなく、自分の自由と責任の中で制作するということは、とても厳しいことだけど反面とても楽しいことでもある。

「モバイルハウスは自分を表現する手段」
「イマジネーションを解き放ってモバイルハウスを制作しよう」

WSの始めに主催者が僕たち参加者に教えてくれた言葉だ。

 自分の手の届く範囲で、自分の「これをつくりたい!」という感情に従うままに自分の理想の暮らしを実現する、これこそがモバイルハウスの醍醐味なのだと制作を通じて気付いた。


もう一つ、WSで一人の参加者が言った言葉がずっと心に残っている。
どちらも同じ人物が発した言葉

「これでなんでもつくれるようになった」
「古民家改修しようなんて簡単に言えなくなった」

この言葉を聞いたとき、なんだかとてもホッとした。

2つの言葉は一見矛盾している、けれども「つくりたいし、多分自分ならつくれるだろう」という気持ちと「やったからこそわかるつくることの難しさ」という気持ち、どちらも持ち続けながら、それでもやっぱり作り続けることが必要なのだと思う。

↑の記事でも書いたようにモノをつくるには絶対に責任が生じる。

 今回制作したモバイルハウスも1人の参加者の手に渡り、今はその人と共にに新しい暮らしが生み出されていることだろう。
 体験色強めのWSではあったものの、誰かの手に渡るということを心にとめながら制作したことは参加者全てにとって、単なる遊びのDIYを超えた何かがあったと思うし、だからこそ上の言葉がでてきたんじゃないかなと思うのだ。

少なくとも僕は単なる制作体験以上のモノを得ることができた。

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(完成したモバイルハウス)


まとめ - 参加前に掲げた目的を果たせたか -

参加前の目的をどれくらい実現できたか振り返る

〇モバイルハウスの制作方法を学べたか(★★★★☆)
 充分に学べた!と同時に住宅設計の色んな技法を取り入れたら、もっとよいものがつくれそうだなとも感じた。
今回一度基本となる制作方法を体験できたからこその気づき。
継手とかの技法を使って今度は自分で作ってみたい....という思いがフツフツと湧き上がっている。

〇憧れが身近になったか(★★★★★)
 憧れだったモバイルハウスを制作しただけではなく、実際にモバイルハウスで生活している人、旅人的暮らしをしている人達と知り合ったことで、自分が思い描いていた生活が夢物語ではなかったんだと知ることができた。
とにかく参加者含め出会った人が素敵すぎた....!!こんな風になりたいなというモデルができたのが良かった!!

〇旅する暮らしの実現に一歩近づけたか(★★★★★)
 WSを通じて「旅する暮らし」を実現させるための大変さを身に染みて感じたし、乗り越えなければならない障壁もたくさんあることを知れた。けれどもやっぱり自分はそれを乗り越えてでもそういう生活を渇望してると実感できたことが一番の収穫だったように思う。

〇総評(★★★★★)
 参加してよかった!いつか自分のモバイルハウスを制作したい!!


最後に、WSを主催してくれた方々、共に制作した参加者の皆様、島でお世話になった方々ありがとうございました!!!


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