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スザニの刺し方(ステッチ)〜かぎ針のユルマ(2)


文様を刺す順番

前回はこちら。

線を刺繍する時はひたすら刺します。
では、ユルマで面を埋める時はどこから刺しましょうか?
例によって、師匠と呼ぶべき19世紀のスザニを見てまいりましょうか。

今回、観察するのはコチラのスザニ。
ミヒラーブというアーチ型が特徴的な刺繍布です。中央アジアにはイスラム教徒が多く、1日に5回、聖地メッカに向かってお祈りする際に敷く「お祈り布ジャイナマズ」です。絨毯とは違って、スザニは基本的に床に敷いたり、足で踏んだりするものではありません。そういうことをすればすぐに絹の刺繍が傷んでしまいます。
ジャイナマズは床面に置くとはいっても、身体をのせる部分には刺繍はありません。通常は人ひとり分のサイズですが、このジャイナマズはたいへん大きく、部分的に金糸も使われていたりするので、かなり上等な部類、ミュージアムピースと言えます。
前説はこれくらいにしまして、ディテールです。

19世紀のジャイナマズの部分

上のカラーのディテールを見ると、うねうねと行き来したり、渦巻いている様子がわかります。

外側から内側に向けてシンプルに埋めていくタイプ

まず、上部にある鋭角のある滴型(この形をどう表現するべきか…)部分のユルマ(チェーン・ステッチ)のスタート地点を見つけて、糸の動きを追って見ます。黄色の部分は赤線、灰色の部分は青線です。

外側から内側に向けてシンプルに埋めていくタイプ
19世紀のジャイナマズの部分

輪郭をとるようにひと回りして、内側をぐるぐると埋めていますね。文様を外側から内側に向けてシンプルに埋めていくタイプです。

折り返して埋めていくタイプ

次に、中〜下部の花びら部分を同じように考えます。

折り返して埋めていくタイプ(ただし3緑色の線の部分以外)
19世紀のジャイナマズの部分

まず、①の赤線のように、赤色の区画の輪郭をとり、その後、②のように折り返しながら左右対称に埋めていき、最後に残った③をぐるぐると埋めたように思われます。

では、次の画像を見てください。
刺し始め、糸と針の方向が見えてきませんか?
この葉っぱの黒の輪郭は、緑を刺した後で刺したと私は考えています。

19世紀のジャイナマズの部分

色面を埋めるにも刺し方、刺す方向を吟味することにより、単純な色面ではない花びらや葉っぱの姿を表現しています。奥が深いですね。

刺すときに気をつけるのは、ユルマの線に隙間が開かないように、ひとステッチの大きさが揃うように、糸を引っ張りすぎたり緩んだりせずに均一に刺すこと。
練習あるのみ。あのスピード感にまったく追いつきません。ひたすら練習あるのみ、ただし丁寧に、ひと針ひと針丁寧に絹糸を慈しんで。

*タイトル画像をテーマに合わせて変更しました。