Hiroko Fukuda S.

ある公立美術館の学芸員をしています。学芸課長と工芸担当の二足のわらじ。専門は工芸史、東…

Hiroko Fukuda S.

ある公立美術館の学芸員をしています。学芸課長と工芸担当の二足のわらじ。専門は工芸史、東西文化交渉史。中央アジアの工芸史、特にテキスタイルとジュエリーに関心あり、工芸だけでなく生活全般に興味があります。よろしくお願いいたします。 https://lit.link/hfs786

最近の記事

スザニの刺し方(ステッチ)〜ユルマ応用編2

前回は予告編でした。今回は紙にサンプルステッチを刺してみます。 糸2本を針1本に通して、しましまユルマ(チェーン・ステッチ)を刺すことができます。 針と糸の準備 針に2色の刺繍糸を通します。上の写真では25番刺繍糸を3本どり×2色を通しました。なお、このサンプルの糸はスザニに使われる絹糸ではありません。 刺してみます ここでは布ではなく紙に刺しています。 サンプルでは緑と赤をひと目ずつ交互に刺しましたが、ふた目ずつやランダムに刺すこともできます。 なお、英語では

    • スザニの刺し方(ステッチ)〜ユルマ応用編1

      まず、基本のユルマ2種についてはこちらを。 では、今回はユルマに変化がついた作例を見てみましょう。応用編とタイトルをつけましたが、もしかしてマニアック? 今回も19世紀のスザニを熟覧しましょう、そして、いろいろ読み取りましょう。予告的に画像列挙する回です。 これでお分かりいただけたと思うのですが、2色のしましまユルマですよ! 針1本で刺します。 針1本でしましま自由自在。 本日はここまで。 ではまた次回お目にかかりましょう。

      • スザニの刺し方 裏面から推測する刺し順

        何色もの色糸で刺繍するスザニ。 19世紀くらいのスザニのお話です。裏面が意外にきれい。 過去回で、面をボスマ(ブハラ・コーチング・ステッチ)で埋めてから輪郭をユルマ(チェーン・スケッチ)で縁取る例をご紹介しました。 今回は、色面を刺していく場合の順序を見てみます。 上の文様はツボミかアーモンドの身か判然としませんが、水色と青色交互に埋めた面をオレンジ色で縁取っています。縁取りの内部を先に埋めたと推測するのですが、水色と青色のどちらから刺したのでしょう? では、裏側を。 即

        • スザニの刺し方(ステッチ)〜イロキことクロス・ステッチ

          イロキは、中央アジア含め世界各地で刺されているクロス・ステッチのことです。スザニのような大きな布、さまざまなものを収める袋まで、イロキを見ることができます。 クロス・ステッチだけで一種の「沼」なので、あくまで中央アジアの一部限定エリアに特化した話だと思ってお読みください。 さて、イロキのスザニは勤務館には所蔵しておりません。刺繍袋にはイロキがたくさんあるのですけどね。国内で知る範囲では、岡山県立美術館さんがイロキのスザニを2枚、所蔵されています。なかなか実物を見ることはでき

        スザニの刺し方(ステッチ)〜ユルマ応用編2

          スザニの刺し方(ステッチ)〜針のユルマ

          前回はかぎ針によるユルマをご紹介しましたが、今回は「普通のチェーン・ステッチ」である針のユルマです。 刺繍枠は使わない かぎ針のユルマは枠を使いますが、針のユルマは刺繍枠を使わずに刺します。 片膝を立て、布端を足で押さえて、布にテンションを与えながら刺すこともあります。 針先はどちらかというと向こうから手前へ向けることが多いようです。 そのあたりのことはコチラ。 ユルマによる表現 ユルマは、かぎ針でも針でも、皆さんよくご存知のチェーン・ステッチですので、ステッチは線

          スザニの刺し方(ステッチ)〜針のユルマ

          スザニの刺し方(ステッチ)〜かぎ針のユルマ(2)

          文様を刺す順番 前回はこちら。 線を刺繍する時はひたすら刺します。 では、ユルマで面を埋める時はどこから刺しましょうか? 例によって、師匠と呼ぶべき19世紀のスザニを見てまいりましょうか。 今回、観察するのはコチラのスザニ。 ミヒラーブというアーチ型が特徴的な刺繍布です。中央アジアにはイスラム教徒が多く、1日に5回、聖地メッカに向かってお祈りする際に敷く「お祈り布ジャイナマズ」です。絨毯とは違って、スザニは基本的に床に敷いたり、足で踏んだりするものではありません。そうい

          スザニの刺し方(ステッチ)〜かぎ針のユルマ(2)

          スザニの刺し方(ステッチ)〜かぎ針のユルマ(1)

          ユルマはいわゆるチェーン・ステッチのこと。中央アジアでは、普通の針で刺す方法と、レース針(細いかぎ針)で刺す方法の両方が見られます。 今回はかぎ針で刺すユルマについて。 かぎ針、ウズベク語ではbigiz かぎ針をウズベキスタンではbigiz(ビギズ)と呼びます。なお、外国語あるあるで、カタカナではウズベク語の発音は再現できかねます、あしからず。 刺繍枠 さて、刺繍といえば、布を丸い枠にはめて刺すイメージかもしれませんが、中央アジアの人たちは基本的に枠を使わずに刺繍しま

          スザニの刺し方(ステッチ)〜かぎ針のユルマ(1)

          スザニの刺し方(ステッチ)〜ボスマ(4)

          ボスマ(ブハラ・コーチング・ステッチ)の仕組みは「渡した糸を留めて表現するステッチ」とシンプル、スザニにはボスマのバリエーションが見られます。スザニの刺し方(ステッチ)〜ボスマ(3)で 典型的なボスマをご紹介したところですが、なんと!上の写真のステッチもボスマです。刺繍糸の表情がまったく違いませんか? 長いステッチで留めるボスマ まず糸を渡して、留めるステッチで戻ってくるという基本は同じです。異なるのは留めるステッチの入れ方です。表に出る糸を長く、裏に出る糸を短くして、

          スザニの刺し方(ステッチ)〜ボスマ(4)

          スザニの刺し方〜刺繍針と糸始末

          今回のテーマは針と糸始末です。 針について 針には実に多くの種類があり、これにはこの針の何番、あれにはあの針の何番・・・と使い分ける方は多いでしょう。例えば、フランス刺繍針は6本どりなら何番、1本どりなら何番と、さまざまな太さがありますし、なになに刺繍用と名前がついた針はたくさんあります。 さて、スザニを刺している人たちは針のことをあまり気にかけているようには思えません。手許にあった針、バザールで入手した針が思い思いに使われています。針はあまり神経質にならないで、糸が通っ

          スザニの刺し方〜刺繍針と糸始末

          スザニの刺し方(ステッチ)〜ボスマ(3)

          ボスマ(ブハラ・コーチング・ステッチ)の仕組みは「渡した糸を留めて表現するステッチ」とシンプル、スザニにはボスマのバリエーションが見られます。 今回はボスマの基本を刺してみます。 小さなステッチで留めるボスマ 「スザニの刺し方(ステッチ)〜ボスマ(2)」の続きです。 下の「19世紀のスザニ」の部分アップを見てみましょう。まず、文様の幅いっぱいに糸を渡し、小さなステッチで等間隔に留めながら戻っています。布が見えないように隙間なく刺繍されています。小さなステッチは少しずつずら

          スザニの刺し方(ステッチ)〜ボスマ(3)

          スザニの刺し方(ステッチ)〜ボスマ(2)

          ボスマ(ブハラ・コーチング・ステッチ)の仕組みは「渡した糸を留めて表現するステッチ」のように、シンプルです。 今回は針と糸の関係を紙に刺して見てみましょう。布に刺繍するように針を入れると破れるので、あらかじめ穴を開けています。また、見やすいように隙間を開けています。 連続して刺した図の表と裏です。 次回は布に刺したものを紹介します。

          スザニの刺し方(ステッチ)〜ボスマ(2)

          スザニの刺し方(ステッチ)〜ボスマ(1)動画

          スザニに見られる二大ステッチといえば、やはり、ボスマとユルマです。今回はボスマのことを。 ボスマとは ボスマは刺繍のステッチ集などでは、ブハラ・コーチング・ステッチという名前で紹介されています。 コーチング・ステッチは、大雑把に言えば、「渡した糸を留めて表現するステッチ」です。針を2本にして文様に合わせて渡した糸と、留める糸を別糸にするコーチング・ステッチもあります。ルーマニアン・コーチング・ステッチというものもありますね。スザニでは針1本で同じ糸が使われます。つまり、糸

          スザニの刺し方(ステッチ)〜ボスマ(1)動画

          中央アジアの刺繍布スザニについて まずは概説から

          初めましてな皆さまへ。初っ端からサボりな感じですが、とりあえず、スザニについての基礎的な情報は次の記事をご覧ください。 なお、記事掲載時には、展覧会開催中でしたが、現在は収蔵庫でお休みしています。2−3年に一度、特集しますので、美術館公式からの告知をお待ちください。 続編はまたの機会に。

          中央アジアの刺繍布スザニについて まずは概説から

          はじめましてと、noteを始めてみたきっかけ。

          はじめまして 初めまして。とりあえずひとつ書いて見ることにします。 ある公立美術館(きっと話の流れですぐわかる)の学芸員をしています。学芸課長と工芸担当の二足のわらじ。管理職もどきはつまらないけれど、勤務館の工芸作品にはそれはそれは素晴らしいものがたくさんあって、だから続けられるのだと思います。これって学芸員あるあるでしょうか。 専門は工芸史、東西文化交渉史。中央アジアの工芸史、特にテキスタイルとジュエリーに関心あり、と言いながら陶磁器や金工など工芸や生活全般に興味がありま

          はじめましてと、noteを始めてみたきっかけ。