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『〈卵王子〉カイルロッドの苦難』

冴木忍/富士見ファンタジア文庫/全9巻(小説)

1992年から1995年にかけて刊行。わたしが読んだのは完結後の多分1996年。挿し絵に惹かれて1巻を買って読み、即座に全巻揃えて一気に読んだ。

城塞都市ルナンの王子カイルロッドは卵で産まれた。
卵を産んだショックで母は死に、嫁の来手もないが、周囲に愛されのんきに育ち、幸せに暮らしている。
ところがある日ルナンの人々が石になってしまう。
人々を元に戻すため、カイルロッドは旅に出る。


みたいな話。
もう少し説明すると。
カイルロッドはルナンを石に変えた張本人を倒すために旅をし、さまざまな人と出会いふれあい、つらく悲しい別れも経験する。成長もするが、のんきでちょっと間抜けな普通の青年のまま物語は進んでいく。
しかしカイルロッドには本人の知らない宿命があった。

もうこの宿命がつらい。
カイルロッドが背負っている宿命を知っている人々は、なんでこの子じゃなきゃだめなんだと苦悩する。普通の人生を送らせてやりたいと思う。
思ってもカイルロッドにしか頼れない、カイルロッドに背負わせざるを得ないつらさ。
わたしも何度も読んで知ってるからつらい。何度読んでもつらい。

以前、昔好きだった物のほとんどが嫌になり、本もかなりの数を捨てた時期がある(最近じわじわ後悔している。じわこうだ)。
しかしそんな時にも卵王子は捨てなかった。
理由は「絵が好きだから資料として」。一体なんの資料なのかは分からないが、本当に捨てなくて良かった。

いちばん好きな装画(遠いな)。ほぼ「りぼん」の絵しか知らなかったわたしにとって、木漏れ日とはいえ女の子の顔がまだらになっているのは衝撃だった。描いたのは田中久仁彦氏。中の絵もこれまたかっこいい。

まさに「隠れた名作」。隠れてなかったらすみません。でも埋もれてしまってるとは思う。

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