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『自生の夢』

飛浩隆とび ひろたか/河出文庫(小説)

SFです。
すごくフレンドリー(SF)な人々に見守られながら、立派なSF者になるべく第一歩を踏み出したところ。
すっかり長くなってしまった感想を、温かい目でご覧ください。

海の指

灰洋うみと呼ばれる謎の流体で覆われた地球。
灰洋に触れた物質は分解され灰洋の一部になる。
生き残っている人々はある方法で灰洋の中から、灰洋に溶けた物を取り戻して生活している。
灰洋に触れて分解されるのは人も例外ではなく、物を取り戻せるなら……というところで、ぞくっとした。やるの?やんのか?やっちゃうのか?と。
SFは血も涙もないとか散々言ってきたけど、怖い愛と強い愛の話でした。

夜読み終えて、まだ読む時間はあったけど次の話に行く気になれなかった。
普段使わない筋肉を使って筋肉痛になっちゃったから動けない、みたいな感じ。
でもこの刺激が心地よかったです。
映画、映像っぽいなと思ったら、漫画の原案として依頼されたものだそう。漫画も読んでみたい。

星窓 remixed version

青年(少年)が旅行をキャンセルして暇になった夏休みに不思議な額を買い、姉としか言いようのない存在と酒を飲む話。
ふんわりとした青春小説SF風味。私がSFと聞いてイメージしてたのは、戦うやつか、ファンタジーっぽいけどその根源にあるのは科学技術や宇宙空間で見つかった何かみたいな、つまりこういうの。
未来の話っぽいけど、贈り物をする時はリボンを結ぶ文化は残っているみたいで、そういうのいいなと思った。

#銀の匙

〝Cassy〟という、人の思考や感情を自動的に文字にして記録するハイテク技術の開発者の四歳の息子が、それを使いこなしてて怖いなと思ったら、生まれたばかりの妹にもそれをつけるというもっと恐ろしいオチ。
こういうの、赤ちゃんの頃の写真すら少ない第二子としては羨ましいというかウラメシイというか。でも物心つく前から、自分の考えてる事を記録されてるっていうのはやっぱり嫌かなーと思う。物心ついてからでも嫌だ。

曠野にて

『#銀の匙』で生まれた子が五歳にしてCassyを使いこなし、ふたつ上の男子を「言葉」でボコボコにする話。いや容赦ない。
子供(赤ん坊)の考えてる事が分かるの最高っつってCassyの技術にすぐ飛びつく親(世間)も怖いなあ。子供がいたらそう思うのかな。バウリンガルとかも私は別にいらないと思ったのだけど。
カルメ焼きとか中華饅頭という、分かる単語が出てくるとホッとするし、そういうのを出してくるこの人(飛さん)、センスいいなと思った。

言葉が重要な連作なんだなとこの辺で気づく。

自生の夢

天才詩人アリス・ウォンが謎の存在〈忌字禍イマジカ〉に倒れた。その怪物を滅ぼすために、七十三人を言葉の力で殺害した稀代の殺人者がいま召還される

裏表紙のあらすじ

表題作にして今までで一番長い話。あらすじもすごく面白そうだし、実際面白かったけど、正直なところSF初心者にはちと難しかった。自分の想像力の足らなさがうらめしい。でもアリスと間宮潤堂はすごく魅力的。最後の一行に「わぁ」って思った。「わぁ!」(驚)でも「うわぁ…」(引)でもない、静かな「わぁ」。ニヤリとす。

野生の詩藻 La Poésie sauvage

フランス語かぶれなので仏題がついてるの嬉しい。
『#銀の匙』のお兄ちゃんと『曠野にて』でボコられた子が力を合わせて敵を捕獲する作戦に就く。ヒゲヅラになっててびっくり。よその子の成長は早いね。
サポートメンバー(?)達が喜んでるのが楽しそうで、この作戦に、出来ることなら私も参加したかったと思った。足手まといかな。
もっと長編にして冒頭のキャンプのシーンが長くてもいいよ。豆とソーセージとパンがおいしそう。著者はあまり気に入ってない様子。

はるかな響き

なんと説明すればいいか分からない。でもなんか面白いとは思ってる。「言葉」ではなく「音」や「音楽」が重要。
作ってるサラダとかラタトゥイユとかがおいしそうで、そういえばずっと出てくる食べ物がおいしそうだったなと思った。どんなに技術が発達しても、やはり人間は食べないと生きていけないからだと受け取りました。

最後に!

途中から飯ものの感想みたいになってしまったけど、ほぼ初SF、面白かった。こんなん好きに決まってる。
昨年初めてレザークラフトをやって「なぜ今までやらなかったのか!天職だ!」と思った時ぐらい、楽しかった。

伴名練はんなれんさんの解説もボリュームがあり、分からないこと知らないことが分かってとても良かった。
それでも分からないこと知らないことはまだたくさんあるので、もっとSFを楽しむために色々読んだり、映画を見たくなった。
挙げられている作品のことごとく、題名や、有名なすごい作品だということは知ってるから、なんで読んで/見ておかなかったんだと、余計にもどかしいのです。自分のバカバカおたんちーんって感じ。
伊藤計劃さんにまつわる話が良く、この「作品で報いる」みたいなの、いいなぁ。いい意味で殴り合ってるよなぁ。このあと河原に寝転んで「へへ…やるじゃねえか」「お前もな」みたいなことをやりそうだ。
伊藤計劃さんは(今もって名前の読み方が分かりませんが)、以前にアニメを見たことがありますよ。劇場作品かな?テレビで。作品紹介にやたらすごいみたいなことが書いてあって、ホンマかいなと思いながら、好きな声優が出てたか何かの邪な気持ちで見たんだと記憶している。
内容は覚えてないけど「なんかすごい気がする、けっ」て思った。これからは素直な気持ちで読みますね。

ちゃんと食べよう

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