原弘明

関西大学法学部教授。専攻は会社法・保険法。2008年司法試験合格(弁護士登録はしていま…

原弘明

関西大学法学部教授。専攻は会社法・保険法。2008年司法試験合格(弁護士登録はしていません)、2010年博士(法学)。2児の父です。noteではしばらく、法科大学院における司法試験合格のための教育について書いていくつもりです。

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司法試験合格に必要な能力

noteでは初投稿になります。回答にまとまった分量が必要なご質問をpeingで頂いたので、そのお答えをしたいと思います。 まとめて言うと学説の深い知識はいりません。必要な知識は、正確な条文知識と判例法理に尽きます。問題文中の事実から法的に重要な内容を取り出して条文・判例に従って処理する能力があれば十分です。 条文・判例ポテンヒット理論キャッチーなタイトルをつけることに意味はありませんし、以下の内容はおそらく有能な法科大学院・法学部教員や、予備校講師にとっては自明のことだと

    • 空気・文脈を読む(再考)

      ASD(AS)者には、日本社会は生きにくい。結論はそれ一択なのでしょうね。 空気を読むという文化 昔あったKYという言葉。使われなくなりましたが、恐らく空気を読むのは当たり前だから、KYという表現すら不要なのでしょうね。空気は読んで当然。できない人は無意識のうちに排除する。 僕はASDのため、空気や文脈を読むのが苦手です。厳密に言うと、全く気づかないという訳でもなく、定型の方がコンマ数秒で理解する空気や文脈を、30秒遅れで理解したりすることもあります。ただ、通常はそれでは

      • 非定型者の早期死亡について

        ASD者の平均寿命が定型者に比べて18年ほど低いことを示した、著名なカロリンスカ研究所の論文。スウェーデンの研究です。 他の先行研究も合わせると、ASD/ADHDの場合幼少期の事故死が多いことも引き下げ要因となっていると思われます。ただ、自死を含むあらゆる死因のオッズ比が高く、文字通り非定型者は命をすり減らしていきているとの印象を拭えないコホート研究です。 これを僕らは拱手傍観するほかないのか、運命として受け入れるのか、無意味に抵抗するのか。僕にはまだ答えは見えません。

        • 「適職」がもたらした大人の発達障害

          発達障害の職業適性非定型発達の人には、専門職がよいとよくいわれます。本人の裁量が大きく上下関係やコミュニティも希薄。ASDのこだわりやADHDの過集中を生かせるというわけです。今の非定型の人が幼少期に特性を発見できれば、職業選択として合理的といっていいと思いますし、多くの非定型の方はこのような職業とのマッチングができないからこそ、職業生活で苦労されています。 僕の場合一方で、発達障害者支援法ができる前に大学を卒業した僕の場合、大量の偶然がつながって今の職に到達することになり

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        司法試験合格に必要な能力

          ストラテラ服用の感触

          ADHD薬 現在、日本でADHDの薬として保険承認されているのは、コンサータ・ストラテラ・インチュニブの3種類です。子供向けにはビバンセも承認されています。 僕はADHDの診断に際しては主治医にすぐ認めてもらえたので、処方薬の検討に移りました。主治医の第一選択薬はストラテラで、僕もインチュニブは多動メインで困っている不注意には効きづらく、コンサータは薬の主成分から依存性に不安を感じていました。そこで、ストラテラを40mgから始めることとし、1カ月後に増量することとしました。

          ストラテラ服用の感触

          日内の気分変動と意欲の出し方

          はじめに しばらくの間、発達障害関係の内容はnoteに書きためておくことにしました。Xにこの内容が溢れるのは気が重くなる方もいらっしゃると思う一方で、同じ特性をお持ちの方の参考にはなるかもしれませんので。 日内の気分変動 うつ病の場合は朝方がもっともきつく、夕方にかけて徐々に気分が楽になる方が多いと認識しています。一方で、現状の僕は朝は比較的どうにかなるものの、夕方になるとかなり気分の落ち込みがあるように感じています。理由は判然としませんが、ADHDについてはストラテラで負

          日内の気分変動と意欲の出し方

          患者からみた緑内障治療・線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)その5【チューブシャント術編】

          最終手段の提案8月終わりの日。7月中旬から本格化した僕の緑内障手術は終わりが見えません。7月末はレクトミー後なんとか退院していましたが、8月末は病室で迎えることになり、気分は暗澹としていました。家では妻が子供ふたりのワンオペと仕事を必死にこなしています。なんとかしたいものの、この高眼圧・パラセンのループから抜け出せなければ退院もできません。 夕方の診察。担当医のI先生から、予想していなかった提案がありました。 「原さん、明日夕方、S(院長先生)の執刀で、アーメドバルブを挿入し

          患者からみた緑内障治療・線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)その5【チューブシャント術編】

          患者からみた緑内障治療・線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)その4【ブレブ再建ではなく2度目のロトミー編】

          ブレブ再建目的の入院 トラベクレクトミーから1か月。僕のうわまぶた耳側に作られた濾過胞(ブレブ)は、ほぼ閉鎖状態にありました。結膜の癒着が激しく、閉鎖を食い止めるために使用されるステロイドもレスポンダーのため使えない状態で、先日の結膜縫合の際に癒着部分のニードリング(針を用いて癒着をはがす処置)もあわせて行われたのですが、追いつきませんでした。レクトミーの効果を維持するためには、ブレブの再建が不可避でした。ブレブ維持の期間には個人差があるとはわかっていたものの、癒着しやすい体

          患者からみた緑内障治療・線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)その4【ブレブ再建ではなく2度目のロトミー編】

          患者からみた緑内障治療・線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)その3(苦闘編)

          レーザー抜糸後のステロイド高眼圧僕の術眼は、入院期間中に追加縫合を行ったため、退院時に7本の糸で縫われた状態でした。レクトミーの場合、術後2週間程度から、縫合糸をレーザーで抜糸してブレブからの漏出量を調整することについては、以前も記しました。このセオリーに従って、3回に渡り、通算5本のレーザー抜糸を行いました。 しかしながら、ここにきてステロイドレスポンダーに起因する高眼圧がシビアな動きをしてきました。これ以上レーザー抜糸を続けると、今度は濾過胞(ブレブ)の形状維持が厳しくな

          患者からみた緑内障治療・線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)その3(苦闘編)

          続・患者からみた緑内障治療・線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)【術後管理と術式選択】

          レーザー抜糸トラベクレクトミー(以下レクトミー)の術後管理に欠かせないのが、術後2週間頃から始まる抜糸です。濾過胞(ブレブ)を経由したバイパスからの房水流出量は個人差が大きいので、縫合糸をレーザーで切って調整します。過(剰)濾過になった場合は再縫合も行います。ブレブや濾過がどの程度の期間持つかも個人差があり、永久に維持できる人もいれば再手術を繰り返す方もいます。 僕の場合はステロイド高眼圧が出始めており、術後15日での術眼眼圧は既に18。病態が高眼圧か正常眼圧かにもよりますが

          続・患者からみた緑内障治療・線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)【術後管理と術式選択】

          患者からみた緑内障治療・線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)

          緑内障になりまして。40歳以上の有病率5%。回復概念がなく進行・悪化をくい止めるだけ。正常値でも進行する人が多い。多くの人は自覚症状がない。最悪の帰結は失明。 そのような厄介な病気が緑内障です。 僕は両眼0.03~0.05程度の強度近視(さしあたり裸眼0.1未満と思うとよさそうです)で、緑内障の高リスク群に当たります。術眼は別の眼の病気の手術後高眼圧が続き、これまで点眼、内服、線維柱体切開術(トラベクロトミー)、SLT(レーザー治療)などを受けましたが、方策がつきたため、今回

          患者からみた緑内障治療・線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)

          共著入門書『基礎から学ぶ商法』にこめた個人的な思い

          久しぶりのエントリになります。 5/20に有斐閣から、『基礎から学ぶ商法』というタイトルの商法入門書を出版します。大阪公立大学の小柿徳武教授、関西大学の伊藤吉洋教授、立命館大学の島田志帆教授との共著で、僕は株式会社の設立、商法総則・商行為法を分担執筆しています。企画から長い時間をかけて検討してきたものですが、ここでは個人的な思いをまとめておきたいと思います(他の3名の共著者とすりあわせをした内容ではないことをご了解下さい)。 共著者の陣容が固まった時点で、概ね僕が商法総則・

          共著入門書『基礎から学ぶ商法』にこめた個人的な思い

          質問箱を休止するにあたって

          ※その後、最終的に2021年10月4日付けでPeing質問箱から退会しました。今後は勉強等に関するご質問は、Twitterでは@ツイかDMでお伺いすることとします。 質問箱お休みしますコロナ禍にあって、特にキャンパスライフを享受できない学生さん向けに始めたPeing質問箱。ほとんど大喜利状態のものも多くありましたが、重複したものを除く程度で99%の回答率で15,000以上の質問に答えてきました。ただ、ご覧頂いたような投げかけが立て続けになされたため、一旦休止することとしまし

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          前期を振り返って、または、授業のコンセプトについて

          ようやく終わりがみえてきた法科大学院の授業は、ご存じの通り15回+定期試験がマストです。今年度担当した2年次会社法演習、3年次会社法発展講義とも14回目が終了し、ようやく終わりが見えてきました。2年次会社法演習は来年度も担当しますが、3年次会社法発展講義は今年度限りの担当なので、(再登板がない限り)今回の受講生が最初で最後の方ということになります。一方で2年次会社法演習は、後期にさらに2クラスを、また来年度も継続して担当するので、このタイミングで授業のコンセプトについて振り返

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          研究者の働き方(研究教育学内行政育児介護家事)

          少し前の質問箱で、このIto先生のツイートにいいねを押したところ、研究者というのはワークライフバランスのとれた職業なのではないか、というご質問を頂きました。いつもとは少し違った方向性ですが、これらについて簡単に私見をまとめておきます。 教員は授業・研究をしているだけではない数十年前の大学教員のイメージとしては、気が向かなければ休講連発、教室では好きなことを喋り、研究業績はあるのかないのかわからない、という状況の方が少なからずいたというのは、否定しがたい事実です。 もっとも

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          司法試験・予備試験会社法学習用の本

          本にも色々ありまして。このようなご質問を頂きました。7科目+選択科目をバランス良く勉強する必要がある司法試験・予備試験では、どの程度深く学ぶか、その度合いを迷われる方も多いと思います。さし当たり受験生向けは日本評論社の『新基本法コンメンタール会社法1~3』かなあと思いますが、今回はコンメも含めて、司法試験・予備試験の会社法学習での本の使い方について考えてみたいと思います。 最終的な目標は「歩くプチコンメンタール」以前から申し上げてきたように、僕自身は予備校さんのギリギリ合格

          司法試験・予備試験会社法学習用の本