ナンパ芸術家
さざなみが寄せるビーチに差し込む、強烈な太陽の光。
サングラス越しに標準を定める男。
ターゲットになった女性は確実に仕留められる。
今日も、いつものように。
「ハーイ!」
「ハーイ、サンオイルなら用無しよ」
「まだ何も言ってないじゃないか。きみ、どの星から来たの?」
「星?」
「きみ、宇宙人なんだろ。こんな美しいひと地球にはいないよ。」
「ちょっと、私今本を読まんでるんだけど。冗談なら独り言にしてあげるわ」
「冗談じゃないよ!本気でそう思ったんだ!」
女性は笑った。
「ずいぶん調子がいいのね。そうやって、女を引っかけてばかりいるんでしょ」
「まいったなぁ。俺ってそんなふうに見える?」
「そんなふうにしか見えないわ。」
女性は手元の本に目をやろうとするが、男に阻まれる。
「きみ、仕事は何してるの?モデル?インフルエンサー?」
「ただの歯科衛生士よ」
「うそだろ!?歯医者にきみがいたら、毎日でも通って、穴が開くほど僕の歯を見つめてほしいなぁ」
「あなたの歯なら実際に穴が空いてるかもね。虫歯だらけで。そう言うあなたは何やってるの?当てていい?キャバレーのボーイでしょ」
「芸術家さ。」
「えっ?」
「芸術家。実はきみに頼みたいことがあって声をかけたんだ。あまりにも美しいから、俺のミューズになってよ」
この言葉をかけられたものは、なぜか催眠術のように男に惹きつけられてしまう。
男について行き、女性は後を歩く。
街に出て、路地を入り、地下への階段を下り、湿っぽいドアを開ける。
知らない男にこんな場所に連れて行かれると、警戒するのが普通だが、彼女は何度も来たことがあるかのような足取りで歩く。
実際に催眠術をかけられているのかもしれない。
「ここが僕のアパートさ。」
ガチャ。
彼女が部屋に入ってすぐ、男は鍵を閉めた。
部屋の中にはタブローや絵描き道具は一切見受けられず、生活道具さえもない。
部屋の真ん中にただポツンとソファが置かれているだけだった。
「じゃあ、さっそくそこに服を脱いで、横になってもらおうか。」
彼女はそれが当たり前かのように服を脱ぎ、ソファに横たわった。
男はズボンの後ろポケットから何やら取り出した。
「じゃあ始めるね。あっ、言うの忘れてたんだけど、芸術家って言っても、俺、彫刻家なんだ。」
彼女の純白な肌から、絵の具のような赤が滲み出てきた。
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