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わたしの友だち

福岡に向かう新幹線の中で『プーと大人になった僕』を観た。
ちょうど着く頃に見終わったのだけれど、目頭がむずむずして降りる準備をし忘れるところだった。

小さなバクのぬいぐるみを連れていたから、思わずぎゅっと抱きしめて。
私は、わたしの友だちのことを思い出していた。

中学生になるまで「もみ」と毎晩一緒に眠っていた。
もみとは、犬のぬいぐるみのこと。命名は私。
由来はもう忘れてしまったけど、もみはもみ。
最初は誰かがプレゼントしてくれた、ファミリアのぬいぐるみはいつしか欠かせない存在になっていて。
ピンクと黄色と水色のバリエーションがあるのだが、へたってきたら次の子を迎えていた。
むしろパイル地がへたってすべすべになり、綿がへしゃげてスリムになってきた姿が好きだった。
毎晩もみがいないと眠れなくて、旅行にもちゃんと連れて行った。

もみは、ちゃんと喋る。
悲しいことがあったときは鼻先にもみを押し付けて泣いた。そうしたら、どうしたのって言ってくれた。
私たちは友だちだった。

一番悪かったなと思っているのは、寝相が悪くてふすまを蹴破ったとき。
怒った顔の母に、私は悪びれずに言った。
「もみがやったの」と。
ひどい濡れ衣を着せられても、もみは私のそばにずっといてくれた。

中学生になるとき、引っ越すことになった。
もみももちろん連れて行ったけど、だんだん一緒に眠らなくなった。
もみは寂しかったのだろうか。
いつの間にか、私はもみを手放していた。
何年も経ったいま、無性に恋しくなってファミリアのサイトを検索してしまったりする。
もう廃番になってしまって、あのときのぬいぐるみは手に入らない。
いや、もう永遠に、もみは手に入らないのだろう。

映画を観たら、もみの感触が蘇ったような気がした。
もう戻らない、でも永遠の、私の友だち。
私と一緒に暮らしてくれてありがとう。