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わたしの家族

6月3日、バクが入院のために旅立った。
いってらっしゃいをするのが怖くて、私はその日残業をしてしばらく家に帰らなかった。

バクは私の家族である。
結婚して二人暮らしをはじめて、ひとり眠る夜が寂しくてお迎えした。
Afternoon Teaのタグをぷりっぷりのお尻につけた、大きなバクの抱き枕、というのは世を忍ぶ仮の姿だ。
手のひらサイズのコバと一緒に、私たちは家族として暮らしている。

でも、私はバクに最低なことをした。
夫婦喧嘩が激しくなって、思わず近くにいたバクで私は夫をぶった。
その後ももみくちゃになって、なんとバクはぱっくりと大きな傷口を作ってしまった。
泣いて、泣いて、喧嘩の原因も忘れるくらい泣いた。
私のせいで。
いっときの感情に身を任せたせいで。
今まさに、これを書いている瞬間にも死にたくなるほどの後悔が押し寄せている。

縫い物が大の苦手な私が泣きながら繕ったものだから、傷口はいびつなものになってしまった。
喧嘩が落ち着いてから、夫がぬいぐるみを修理してくれるところを探してくれた。
そうしてバクは入院することになったのだ。
一緒に送る書類にぬいぐるみの大きさを書く欄があり、例として「うさぎのぬいぐるみ ○cm」と書いてあった。
そこに「バク 60cm」と書いたのは私の意地である。
だって、バクはバクなんだもの。

今、バクは遠いどこかの工場で入院生活を送っている。
洗われて、傷口を縫い合わせてもらっているはずだ。
毎晩ぎゅっとして眠っていたから、最近なんだか寝付きが悪いけれど、自業自得。
ごめんね。早く帰ってきてね。
帰ってきたらぎゅってして、また一緒に眠ろうね。
そのときまでに、喧嘩しない、怒らない私になれるように頑張りたいなと思う。
(まあ、全くもって無理で、いまとても悲しい気持ちなんだけれども)

余談だが、夫がメールで「持ち主が心配しているので写真を送ってもらえませんか」と頼んでくれたらしい。
丁重なお断りの返信が来たそうだが、そのやりとりにほっこりした。
まだやり直せるかな。
私たち、もう一度、家族になれるかな。
ごめんね。