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エンタープライズ企業とビジネスをするということ

帰りの飛行機も時間が長いのでw、帰りの飛行機ではエンタープライズ企業とのビジネスについて考えていることを記載していきます。
これはHow toのようなものではないので、参考程度にしていただけると嬉しいです。


ビジネス特性の違い

エンタープライズビジネスとコマーシャルビジネス(MM/SMB)は特性として全く異なるものです。The MODELにも記載がありますので詳しくはそちらを見ていただくと良いのですが、下記のような特性の違いがあります。

THE MODEL - P203より引用

特性が違うということは達成までのGame Planが異なり、Game Planが異なるということはKPIも異なってきます。
また、Game Plan、KPIが異なるのでマネジメントスタイルも変わっていなければいけなく、エンタープライズ・コマーシャル双方のマネジメントを同じ人が担当しているというのは、相当な器用な方でない限りは難しいので、マネジメントする人も変えていくのが良いと考えています。

日本国内の従業員規模別企業数(2023年版)を見てみると、

上記のような構成比になっており、
エンタープライズの定義を従業員数3,000名以上とすると、500~1,000社ほどのターゲット顧客になると思いますので、パイプラインのフェーズがどの程度進捗していっているのか「率」を重視して1社1社に対してのアカウントマネジメントをしていき、狙ったタイミングや規模感での導入を実行していかなければなりません。また、新規契約で売上の大部分を構成するのではなく、既存のお客様からのLTVを最大化させることが安定した目標達成に欠かせないため、契約をオープニングしてからお客様に深く広く入り込んでいくことがより重要となります。いきなり全てが全社導入のような規模で決まると良いのですが、再現性が低い一発当たるかどうか勝負になってしまうので、新規契約でターゲット(予算)の30%・追加契約でターゲット(予算)の70%を作っていくなど担当テリトリーや商品特性によって比率は変わりますが、上手くMIXして数字を組み立てることが理想的です。

一方コマーシャルでは30名〜1,000名と定義したとしても150,000社ほど企業数となるのでのエンタープライズの100倍以上の数があります。
この時はパイプラインの「件数」を重視していく方が安定した目標達成に繋がりやすいです。狙った企業を受注できるのは理想ですが、ビジネスの変化が大きいことや経営者の鶴の一声も存在する領域なので、A社が難しくなった場合に他のB社/C社/D社でリカバリーをして目標予算を達成させていくために、件数の確保が安定した目標達成に欠かせません。一部で、現在はコマーシャルマーケットだが、お客様の成長スピードがものすごく早いために数年でコマーシャルからエンタープライズに切り替わる企業もあるので、コマーシャルというだけで判断するということではなくて、「ここは伸びる!」と確信を持っている(営業としては自分が支援して伸ばすのだ!という気概も欲しい)企業に関しては、コマーシャルでありながらエンタープライズの考え方も必要になるケースはありますので、その企業のビジネスについて深く知るということはエンタープライズだろうとコマーシャルだろうと必要になってきます。

エンタープライズ企業へのアプローチ

エンタープライズ企業に対してアプローチを行う際に、500~1,000社ほどであればターゲットリストを作って、手紙と電話で〜というのは、すぐ取り組めることなので実施すべきですが、半年以上かけて自社がエンタープライズ企業と取引できる企業だという信頼を作ることも重要です。
不信-不要-不適-不急のフレームワークの不信の解消を営業担当やインサイドセールス担当だけで実施するのではなく、会社として取り組まなければいけません。
会社として取り組む際には「外部からの評価」「実績」そして「人」が少なくとも必要な要素になると考えています。
・外部からの評価:海外だとGartner社のMagic QuadrantG2Crowdなど、国内だと最近はITreviewなどがありますので、時間がかかっても対外的に評価される取り組みを続けなければいけません。
・実績:導入企業数もさることながら、導入しているお客様のロゴが与える影響も非常に大きいです。例えば大手金融系のロゴがあると「セキュリティに関しては安心そう」や、先進的な取り組みでベンチマークされている企業様のロゴがあると「次はこのシステムの流れがくるのか」など、自社がどういったお客様に選んでいただいているのかを示すものとなります。
・人:評価や実績を書きたいけど、今の段階ではなかなか書けないということもあると思いますが、その場合でも「人」については書くことができます。
どういったバックグラウンドを持った人がこの会社で働いているかを伝えることで、お客様に対して安心して任せられそうと印象を持ってもらうことが可能です。ここでは色々な会社から採用していますというダイバーシティ感を伝える必要はなく、この領域やお客様の今の悩みに対して解決できるプロフェッショナルがいるかどうかが重要なのでプロジェクトに関わるメンバーの顔写真、バックグラウンド、キャリア上の強みを記載しておくのが良いと考えています。
細かいですが、キャリア上の強みやバックグラウンドに関して全てのお客様やイベント登壇の際に一律の文言になっているケースをたまに見かけます。
ここの一文は提案している企業様や課題に最適なものか、イベント登壇であればそのイベント参加者が興味を惹きそうな文言になっているかを「お客様ごと・イベントごと」で変えるべきだと思っている(というかマナー)ので、是非取り組んでみて欲しいと思います。
「人」の要素ではそのほかに担当者も重要ですので、先方のスタイルや動きに合わせていく(スーツ原則の会社にTシャツで行かないということや、複数部門の方が参加するMTGで議論が広がった場合には議事録を送付しておくなど)のも当然ですが重要です。

エンタープライズ企業へのセリング

アプローチを整えていきながらも時間は有限なので並行してセリングも進めていきます。
セリングの最初のステップであるSQL(Sales Qualified Lead)獲得ですが、
コマーシャル企業では商談に関与する人数も多くはないため、決裁者・意思決定権者のSQLかどうかで勝率が大きく変わります。
一方でエンタープライズ企業では商談への関与人数が縦と横で大きく広がります。
縦というところでは「選定の窓口担当者」「選定部門の上席」「役員」と、少なくとも現場-部門-経営と3階層の課題をヒアリングしていく必要があります。
規模が大きいだけに経営と現場で課題の優先順位が異なるということは往々にして起こり得ます。経営としては重要だが現場としては目の前にもっと緊急の課題があるというように重要度×緊急度のマトリクスで課題を並べた際に経営と現場で場所がズレるということです。
その課題をヒアリングの末、整理して結びつけるということがエンタープライズ企業向けの提案のベースになると考えています。
横というところでは、「選定部門」と「利用部門」「情報システム部門」「法務部門」「購買部門」とさまざまな要件ヒアリングが発生していきます。
そのため、エンタープライズ企業へのセリングでは、かっちりと固定する必要はないのですが「チーム制」を組んで対応していくことが必要になると考えています。

それぞれの企業ごとでチーム編成は異なってきますが、チームに必要な役割としては、
・セールス:商談を前に進める、課題を深堀りしていく、関連部門の紹介依頼などで相関図を作り込んでいく。
・ソリューション:エンタープライズ企業向けになるとシンプルな機能だけではなくAPIを用いての連携や、ソリューションを組み合わせた複合提案になることも多いので、これまでの課題をシステム構成(仕様と構成図)に落とし込んでいく。
・システム:自社のセキュリティやお客様から依頼のあるクラウドチェックシートなどの回答をセールス/ソリューションとすり合わせて回答を作っていく。
・カスタマーサクセス:導入後のプロジェクト推進を円滑にするため契約前のセリングの段階からお客様の窓口の方とコミュニケーションを開始すると同時に、導入後の不安解消や適切な進め方についてアドバイスをするために参加していく。
・マネジメント:エンタープライズ企業での導入となると、セールス個人では判断できない会社での意思決定が必要になることも発生します。その際に、お客様事情をどこまで理解しているかによって意思決定の精度が変わってきますので、全ての打ち合わせへの参加は難しいと思いますが月に1度は参加して、お客様の要望の意図を正しく理解して両社にとって納得感のある意思決定をしていく。
があると法務関連のやり取りなどはスポットで対応していくことで、セリングするための最低限のチームとしては機能すると考えています。
その他は、これから市場を創っていくようなサービスの場合にはエヴァンジェリストのような方が、その市場についての未来を語るということも必要になりますし、このチームの中に「ユーザー企業様」に入っていただけると一層チームとしては強くなります。
自分たちでは伝えきれない良いところや改善ポイントを検討中のお客様にユーザー企業様から話をしていただくことほど効果的なことはないと思っていますので、そういった意味でも契約締結後はカスタマーサクセスチームよろしく!ではなく、営業も一緒になってユーザー企業様の成功に向けて活動をすべきだと強く感じています。
また、すぐにこのようなチームが組めないとしても以下の資料は準備しておき、自社内での検討やすり合わせで時間がかかってしまうことは極力防いでいくことを目指します。
・不信突破コンテンツ:第三者評価、実績、事例
・NDA(機密保持契約書)のテンプレ / 先方準備の場合には譲歩できる範囲
・エンタープライズ向け価格テーブル(ボリュームディスカウントを実施する場合)
・セキュリティポリシーの回答例
・導入後の支援体制(プロジェクト相関図)
・拠点展開向けの簡易操作マニュアル(システム利用人数が格段に多いので、ユーザーが見てわかりやすいpdfや動画など)
・システム利用におけるFAQ(よくある問い合わせなどを事前に説明)
などを準備しておくことで、お客様から不安が出てくる前に先回りしてお客様に安心を提供できるようになります。

エンタープライズ企業へのサクセス

実は、ここが一番書きたかったテーマになります。
昨今エンタープライズセールスに関する記事を拝見することが多くなってきたなと感じているのですが、エンタープライズサクセスに関する記事を目にすることが少ないので、セールスも重要ですが(セールスがうまくいかないとサクセスする対象が存在しないので)、ビジネス特性の違いの章でも軽く触れましたがエンタープライズ企業は契約後の活動次第でLTVが大きく異なるので個人的にはエンタープライズ企業とのビジネスを成功させる一番のポイントがエンタープライズサクセスだと考えています。
エンタープライズサクセスでは、下記の8つを押さえられているか・押さえるのに適した体制やシステムになっているかを確認していきます。

①〜⑦を押さえた上での追加提案の実施

①システムの利用状況:正しくシステムを使って効果を出せているか

②システムへの投資対効果:①で出せている効果は先方の投資金額に対して適切か

③自社との接点(人):現場-部門-経営と定期的な接点を持てており、担当者が変わって連絡先がなくなるということや、導入目的や使い方も振り出しに戻らないための接点作りができているか
→ここができていないと担当者の異動や変更によって活用状況が大きく異なります。ベストは引き継ぎの際に新しい担当の方が、その方の上席や役員の方から「新しく任せるxxは会社にとって重要だからね」と一声添えられた状況で引き継ぎがスタートすることです。
ここの接点をしっかりと繋いでおかないと異動が多いことや、活用に際して複数部門との調整をしなくてはいけないエンタープライズにおいては命取りになってくるので、システム活用もさることながら、しっかりと会社-会社の取引関係になるように縦横の接点を作っておくことが重要です。

④自社との接点(活動):自社の既存顧客向けセミナーやイベント、CSメルマガの閲覧など自社の活動に対して好意的か(参加率やリンククリック率などで把握)
③の接点を増やしていくために既存顧客向けのイベントやコンテンツでは、経営-部門-現場の3階層それぞれに向けたコンテンツを準備することや経営層同士で情報交換の場を定期的に作るなどして③と④が交互に行き来しているのが理想的な状態です。

⑤自社に対する評価:①〜④をベースにしながら、担当者・部門長・経営層の方々は自社に対して満足しているのか
→①〜④ではできる限り定量的なデータを取得していきつつ、⑤ではそれぞれの口から出た定性的な意見を聞いていき、定量的にはもう一歩トライできる可能性があるけれども定性的には満足ということや、定量的には十分なのに定性的にはもう少し頑張れるという定量と定性で発生するGapの要因を正しく把握するために抑えておく。

⑥顧客の現状:売上や利益の成長率や予算の達成率など追加の投資ができる状況なのか、コストを抑えなければいけないのか状況なのか
→中期経営計画や決算資料などから推察を加えて常時、顧客の現状を理解しておく。

⑦顧客の現状の課題:システム活用における課題や、経営課題、企業として優先度の上がった課題、直近社内で話題になっていること(経営層がよく口にしていること)は何か

⑧追加のポテンシャル:自社で解決できる課題の中での提案余地(別部門への提案や別商材の提案など)

大枠をこのように押さえていくのですが、それぞれの役割に落とし込むと、
システムで解決:①
(カスタマー)サクセス管轄:②③⑤
(カスタマー)マーケティング管轄:④
(カスタマー)セールス管轄:⑥⑦⑧
となってくると思いますので、カスタマーサクセスはカスタマーサクセス部門の人だけが実施するものではなく、それぞれの部門が相互に補完しあってお客様のサクセスを支援する体制になっている必要があります。

カスタマーサクセス(部門名)ofカスタマーサクセス(顧客の成功というゴール)

わかりにくい見出しですが、部門としてのカスタマーサクセス(特にエンタープライズ)がそれぞれのフェーズで必要な力について考えているものを記載します。

・初期設定時:運用を考えて提案する力
→システムの初期設定で話題に上がりやすい権限設定やロール問題を解決しなければいけません。前提としてはシステム側で複雑な権限設定ができるようにしておくというのは必須ですが、昨今の働き方の多様化(副業メンバーや他部門の兼務、役割と役職の分離など)によって全てを解決することは難しいと思います。
その際に今の組織図と全く同じ形にこだわりすぎることによって、システムの力を100%発揮させることができないことや、複雑な運用を課してしまうことになる場合もあります。お客様のゴールから目線を逸さずに明確な理由とともに本システムでの最適な構成を考えて、目的達成のための運用設計を考えて提案する力が必要になります。

・オンボーディング時:優先順位を整理する力
→エンタープライズ企業になると、契約後もいろいろな部門の方とコミュニケーションをとりながら進めていかなければいけません。A部門ではxxxと言っているがB部門ではxxxと言っているということは起こりがちなので、毎回の打ち合わせ内容はプロジェクトに参加する全員に議事録として送付しながら、なぜこの設定になっているかをしっかりと共有しながら進める必要があります。

システム仕様検討の認識ずれを無くすシート(イメージ)

例は社員の契約状態の違いをイメージして記載しましたが、本社と支店で運用が異なるケースでは本社主導で運用統一するのか、それとも支店には一定の範囲だけ自由を認めるのかなど、お客様によって意思決定の基準が異なることがあります。そこを丁寧に「貴社としての優先順位・守るべきもの・判断を任せてもいいもの」が何かを落とし込んでいきベストなルールを決めていく必要があります。

・運用〜活用時:関係者を巻き込んで動かす力
→設定関連が終わった後には、システム設計者・システム利用者を巻き込んで活用に向けた取り組みをしていきます。契約して終わり、設定して終わりではなくて、ここからがスタートなので、しっかりと設計者にはシステムの定期的なメンテナンス(設定変更やマスタ管理、運用ルールの見直し)とデータ活用(システムに蓄積されるデータをどの頻度で・どの観点で確認して改善を回す)、システム利用者にはシステムへのデータ登録漏れ0やデータ活用(自分が登録したデータがどのように経営や自身の業務に活かされるか)を伝えていきながら「活きているシステム」を作り上げることが必要です。
どうしてもある程度の期間が経過してしまうとシステムの見直しもされず、古い設定のまま運用を続けていて不具合が発生することや、システムへのデータ登録に漏れが多くなり活用できるデータが蓄積されていないなどが起こりがちのため、定常的に見直し・活用が入り込んでくる仕掛けと仕掛けだけで動かない場合には、お客様のやる気に火をつける情熱的な提案が必要になります。
仕掛け×情熱がカスタマーサクセス・お客様双方で回ってくると「活きているシステム」として、お客様の成功 →自社の追加提案にも好循環を与えてくれるため自社の成功に繋がってきます。

エンタープライズサクセスには顧客成功への執念、プロダクトの知見、他ユーザー様の活用事例の理解の他に、ここで触れたようなコンサル的な課題整理・解決力と、営業的な提案力必要になってきます。
コンサルタント×トップセールスのような要件が必要になってくるというのがわかりますが、それほどエンタープライズサクセスの重要度と難易度は高いと考えています。
すぐにこのような方がいない場合には、エンタープライズサクセスのメンバーが課題整理をエンタープライズセールスのメンバーが前に進める役割でチーム制にしていくなどで対応できることも多いかとは思います。

個人的に思うところ(独り言)

最近は色々なTipsが簡単に読めて良いなと思っている一方で、それぞれの領域に特化されているTipsが目立つと思っています。
それぞれの領域に対する専門性が上がったことの証明だと思うので良い傾向だと思うものの、全体に対してのTipsも出てこないと組織内における部門ごとの最適化がより進んでいくと感じていて、もっと部門横断や一貫した取り組みのTipsが出てくると良いなと思っています。(あくまでも個人の希望です)
会社全体でお客様(リード〜既存顧客)に関する情報を、
マーケティング→カスタマーサクセスまで一気通貫で繋げていくことにより、お客様の成果を最大化する(自社のLTVを最大化する)ことが会社という組織で働く醍醐味だし、会社として最も馬力が出ている状態と言えると思っていて、個人では達成できないゴールに到達するための唯一の方法だと思っています。
会社で働く意義というのは、価値観の話なのでなんとも言えないですが、僕個人は「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければ皆で進め」というアフリカの諺の通りだと思っていて、一人・一集団ではなくて会社全体で方向性を同じにして遠くのゴール(=大きなビジョンの達成)に向かって、毎日を楽しんで過ごしていくことかなと思っています。

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