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カトリック神父「小児性的虐待」を実名告発する(2/3)〜“バチカンの悪夢”は日本でもあった!

 2019年4月7日、日本カトリック司教協議会会長の高見三明・長崎大司教が、全国の教会で起きた小児性的虐待の実態調査に乗り出すと表明しました。
 これまで米国、アイルランド、フランス、ドイツなど世界各国で相次いで被害が明るみに出る中、日本では“対岸の火事”と受け止められてきました。
 ところが2月発売の文藝春秋3月号に筆者が発表した実名告発レポートをきっかけに、日本のカトリック教会に行動を求める内外の声に背中を押されて動き出したのです。今回公開するnoteでは、おさらいの意味も込めて、発端となった文藝春秋掲載のレポートを3回に分けて掲出しておきます。

13人の日本人が……

 実は、アイルランドで作成された前出の「マーフィー報告」に、日本におけるペドフェリア被害の手がかりが残されている。

 実名を挙げられた46人の加害者の一人、1936年生まれの聖コロンバン会士パトリック・マグワイヤは40年間で数百人の子供を食い物にした。英国とアイルランドにおける数十人への虐待の罪で投獄されたが、これとは別に日本での犯行を自供しているにも関わらず、責任は問われていない。
 1961年から74年までの大半を日本で過ごしたマグワイヤは、東京、横浜、福岡教区内で聖職に就いた。ここで合計13人、とりわけ熊本(福岡教区)では10人に虐待をしたと白状している。

 マーフィー報告によると、日本での犯罪が途切れるのは、不適切な行為を目撃したシスターが教区長の平田三郎司教(当時)に告げたからだ。聖コロンバン会日本管区の上長は、「週刊誌に知れたら教会の名を貶めることになる」と憂う平田司教から急ぎ日本を離れるよう促されたと、母国宛てに手紙を書いている。
 その指示通り発覚からわずか1週間後にマグワイヤは出国し、母国で犯行を再開し、逮捕されるまで20年以上も繰り返した。つまり、日本の高位聖職者も隠蔽に加担していたことを報告は示唆しているのだ。
この記述について日本では、唯一ジャパンタイムズ(2012年10月2日付)が取り上げたが、英字紙だったせいか、ほとんどの信徒は知らないままである。

 被害者はどうしているのか。司教協議会で性的虐待問題に携わるシスター石川治子(聖心侍女修道会)に訊くと静か答えた。

「小児性愛の被害者は、被害を受けた後に時間が経ち大人になってから『あれは虐待を受けていたのだ』と気づくことが少なくありません。
事件があった1960年代から70年代は、今よりも欧米人宣教師への憧れが強かった時期です。神父が親切にしてくだされば喜ばしいという心理を持つ人も多くいらした」

 そこにつけ込んだマグワイヤ神父は、相手の数を今でも覚えている。

「ジャパンタイムズの記事が出た際、聖コロンバン会の日本管区長が改めて『被害者が名乗り出れば謝罪と賠償をしたい』と申し出られたが、手を挙げた方はいらっしゃらなかった。少なくとも、修道会からの発表はありません。当時の被害者は今、40歳か50歳。もしかしたら、心当たりをお持ちの方もいるはずです」

 被害を自覚しても、性犯罪には2次被害のリスクもある。当事者が名乗り出るのは簡単なことではないのである。

孤独な少年に神父は近づいた

 そんな中、日本で声を上げた被害者の一人が、冒頭の竹中勝美である。

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