アリアとアンダンテ

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「あれ」
翌朝、セルバートの宿の一室で銃の手入れをしていたハイクは、手入れ用の油差しの中を覗き込んでいた。
「油が切れそうだ」
容器の中では、底の方にわずかに溜まった茶色の油が、部屋の明かりを弾いて細々と光っているだけだった。確か、弾の予備も少なかったはずだ。王都に戻ったら武器屋に行かないとな、というハイクの独り言に、大鷲の狭い額の羽毛が三寸ほど中央に寄った。あまり表情が出ない相棒がこういった仕草をする場合、それは、たいへんに不安である、という意味になる。
「あの店に行くのか」
「嫌そうだな」
「だって、なあ。あそこの夫婦、揃ってわたしをじろじろ見回してくるだろう。前など、分解して中を見てみたいから貸してくれ、ときた」
「大目に見てやれよ。旧時代の品で今も現役の拳銃なんて、滅多に市場に出回ってないからな。武器屋の血が騒ぐんだろ」
「血が喋るのか?」
「どうしようもなく興奮するって意味だ。そんなに心配しなくとも、今回もちゃんと断ってやるって」
ほら、終わったぞ。ハイクは磨き終わった銃をガンベルトに戻し、布巾と油差しを片付けた。この銃には、ハイクが大鷲の魂を受け入れた時に、その古い器だった骨が変容し、銃の形を取ったという逸話がある。ハイクと大鷲、そしてその場に居合わせた友人だけが知っている話だ。つまりこの銃はハイクにとっても最早自分の身体の一部のような存在なのだから、そう易々と人に貸したりはしない。嫌がる大鷲を宥めすかしているうちに朝食の時間になったので、ハイクは長髪を普段の高さで結び直し、部屋を出て、一階の食堂に降りた。豆のスープとパン、焼いた卵を胃に収めると、一泊分の宿代を払い、上着を羽織って宿を出た。

     *

目立った遅れもなく、飛行船は時刻通りに運航し、ハイクを王都アッキピテルへと運んだ。馴染み深い赤煉瓦の街並みを見ていると、自然とハイクの気も引き締まり、背筋も伸びてくるようだった。
“黄昏に抗う鷹の爪”と評される王都アッキピテルは、名前のとおり、その中央に國王の城を抱いた歴史ある城塞都市である。発着場を下りたハイクは、都市を囲っている高い壁の外周を回って北の城門から都に入り、雑踏に混じって、南北を貫く大通りへと向かった。すれ違う人々の中にはギルド員や行商人も大勢居るが、同じくらい、甲冑を着込んだ騎士や、宮仕えの役人の姿も多い。そのまま通りを南方面へと流し、城前の広場を横切って裏路地に入ると、すぐに小ぢんまりとした店が目に留まった。ここが、ハイクが馴染みにしている武器屋である。
今日は、妻のサンドラのほうが店に立っていた。夫婦で店を切り盛りし、武器の売り買いだけでなく、簡単な修理ならどんな武器でも一通り引き受けてくれる。狭い壁や棚だけでなく、床に置かれた樽にまで溢れんばかりに詰め込まれた、剣に手甲、弓、杖の数々を引っくり返さないようにしながら進んでいくと、ちょうど店の奥の工房から、サンドラが中古の剣が詰まった樽を運びこんできたところだった。目鼻立ちのくっきりとした顔で、ブロンドの髪を横で束ね、涼しそうな麻のシャツの袖を大きく捲っている。
「おや、まあ、ハイクじゃないか!」
目が合うと、サンドラは顔全体に大きく笑みを浮かべた。よお、サンドラ、とハイクは笑みを返したが、大鷲はそわそわと居心地が悪そうに羽を動かしている。
「しばらく顔も見せないで、今度はどこをほっつき歩いてたんだい?」
「ゼーブルのあたりを色々とね」
「ゼーブル? へえ、あのへんにも遺跡があるのかい」
「むしろ遺跡だらけだったな。俺達みたいな金なしのハンターにとっちゃあ、御の字だけど」
「たんまり稼いできたってわけかい。なら、ここできっちり落としていってもらわなくちゃね」
「うわ、勘弁してくれよ」
わざと大業に驚いたふりをすると、サンドラは明るく力強い声で笑った。ハイクの倍の太さはありそうな腕で軽々と樽を下ろし、腰布で額の汗をぬぐうと、大股でカウンターに歩み寄り、どん、と両手をつく。
「さて、冗談は置いといて、今日はどうする?」
同じく反対側からカウンターに近づいて、ハイクは答えた。
「弾をくれ。五十を三箱ずつ。あと、手入れ油も」
「はいよ、いつものやつでいいんだね?」
ああ、とハイクが頷くと、サンドラは再び奥に引っ込み、色の違う二種類の紙の箱を持って戻って来た。緑の箱には通常の弾が、青みがかった箱の方には麻痺弾が入っている。油と一緒に紙袋に入れてもらい、支払いを済ませて袋を受け取ろうとすると、しかしサンドラは、手にした袋を、すい、と自分のほうに引いた。
……来た。ハイクと大鷲は、来たる攻撃に身構えた。
「……で、今日こそはそいつを見せておくれよ、いいだろう?」
サンドラはハイクのガンベルトに熱い視線を送った。大鷲が苦手なのはこの視線である。自分も鷲だというのに、獲物を捕らえる猛禽類のごときサンドラの目が苦手だというのだから、おかしな話だ。しまいには微かにかたかたと震え始めた哀れな銃を一瞥し、ハイクは苦笑して正直に言った。
「こいつが嫌がってる」
「なんだい、それも借り物の力かい?」
じろ、と迫力のある鳶色の目がハイクを睨む。ハイクの言葉を信じていないようだ。喋る銃などこれ以外に存在しないのだから、無理もない。にこやかに笑ったまま、ハイクは話を逸らした。
「ほら、もういいだろ。それより、こいつを見てくれないか」
ガンベルトに手をやり、銃の隣に差していたナイフを、鞘ごとカウンターの上に置く。それでもサンドラは銃から目線を離さなかったが、ハイクが咳払いをして、ずい、とナイフを押し出すと、とうとう諦めたようにナイフを受け取り、鞘から抜いて、店の灯りに照らし刀身を改めた。銃のように特別な物ではないが、誰の目にも、長く使い古したものだと一目で分かる。まだハンターを始めたばかりの頃に、この店で買った品だ。魔獣の体は、血と筋肉ではなく “紅水晶(くれないすいしょう)”という真っ赤な水晶でできているため、戦いを重ねるほど武器も劣化し、特に刃物は、砥いでも元通りにならないことも多い。
「ずいぶん使い込んだね。刃こぼれだらけだ。そろそろ替え時じゃないのかい」
「良さそうなのがあるか?」
「ちょうど仕入れたところさ。待ってな、何本か見繕ってあげるよ」
サンドラは背後の棚に歩み寄ると、平たい長方形の箱をいくつか選び出し、ハイクの前に並べた。ハイクの物と同じくらいの刃渡りの、戦闘にも肉を裁くのにも使えるナイフだ。ハイクは箱を一つずつ開けると、一本ずつ品物を手に持って、重さを確かめた。どれも似たような具合だったが、最後の一本だけわずかに軽い。今度は本当に借り物の力を使ってみると、國で一番の工房都市で造られた品だと分かった。
「スクイラル製?」
「分かるかい? 気に入ったんなら、そいつにする?」
「いくらだ?」
「金貨十枚」
最上級の依頼の報酬と同額だ。ハイクは目を丸くして、再び大袈裟に驚いたふりをした。
「おっと、忘れてた。俺が居ない間に、宮廷御用達に格上げされてたんだったな。どうりで店にも気品が溢れてるわけだ」
「あたしがさっきの冗談の続きを言ってると思ってるんなら、残念だけど違うよ。今じゃどこだってこれくらいの値段さ。武器が高騰してるんだから」
「それもそうか」
ハイクは、からかうような表情をすっと引っこめ、冷めた目で窓の外を見た。以前よりも武器を携帯している者の数が明らかに多い。職種を問わず、だ。
「近ごろ魔獣が増えてるからな」
「ああ。それも、かなり異常な増え方をしてるって噂じゃないか」
ちょっとおっかないくらいだよ。そう言って、サンドラは頭を振った。
「それで儲けてるあたしらみたいなのが言う台詞じゃないかもしれないけどさ。魔獣なんて奴らは、早いとこ、騎士様にきれいさっぱり退治して貰いたいもんだよね。で、どうするんだい、ナイフのほうは。買っていくのかい」
「そんなに持ってるように見えるか?」
「ふふ、見えないね。だが……そうさね、あんたが半日ほど銃を貸してくれるんなら、ここから金貨三枚分、まけてやってもいいよ」
まだ攻撃は終わっていなかったらしい。怖いくらいににっこりと笑って、サンドラはハイクを見た。破格の提案だ。これにはハイクも揺らいだ。だまったまま銃に視線を落とす。
「ハイク、わたしを売る気か」
信じられない、と言いたそうな様子で、大鷲が抗議した。獣医に見せる直前の犬猫のようだ、という感想は、そこまで的外れなものでもあるまい。ナイフを器用に手の中で一回転させると、ハイクはサンドラとまったく同じ笑顔を浮かべ、にこやかに言った。
「もう一枚分安くしてくれるんなら、いいぜ。それから」
ハイクはナイフの刃先で、カウンターの隅の桶に山積みになっていた砥石を示した。
「そっちの砥石もつけてくれ」
結果としてハイクは、金貨六枚で新品のナイフと数個の砥石を手に入れ、店を出た。もっともサンドラは、ハイクが銃を渡した途端、「ああ、綺麗な銃だねえ。本当に綺麗だ」と、うっとりと銃を眺めたまま動かなくなってしまったので、ハイクが居なくなったことにも気付いていないかもしれない。大鷲との当初の約束を破ってしまった手前、ハイクは大人しく謝罪した。
「悪かったって。もうしないから」
「ああ、悪いぞ。とても、悪い。ばらばらにされて、元に戻らなかったら、どうする」
大鷲は威嚇するようにかちかちと嘴を鳴らし、体を小刻みに揺すった。店を出てからというもの、ずっとこの調子だ。大通りに戻り、そびえる王城を背に再び南の方角へと向かう。ハイクのねぐらはその先にある。
「うう、また銃身を撫でられた。他人に骨を触られるというのはひどく落ち着かん」
大鷲は、ハイクの中で身をよじり、ばさばさと翼を動かして暴れた。あまりに大きく羽ばたくので、こちらまで眩暈がする。よろけて人にぶつかりそうになるのを慌ててかわし、やめろ、まっすぐ歩けないだろ、とハイクは小声で文句を言った。大鷲はハイクを困らせたことでいくらか満足したようだ。ハイクの何倍も生きているはずなのに、時折ハイクよりもずっと年下の子どものようだと感じるのは、こうした瞬間だった。
「銃のほうは、まあ、あれだけど、おまえ自身には影響はないんだろう。具合が悪くなったとか」
「うん、問題なく飛べるよ。今日もいい天気だな」
ハイクは空を見上げた。この國において、晴天は至極稀である。
「曇ってる。そろそろ雨期も近いしな」
「おまえの魂の話だ」
「なんだ、そっちか」
昔からこの國では、人の魂は二種類の“イシ”によって形作られている、と言われることがある。外殻たる器を、石、つまり鉱石や宝石が形作り、その内側に、人としての意志が宿っているのだ、と。そして、その二つは個人の性質によって全く異なる様相を呈している、と。幽霊と同じで、信じる者もいれば信じない者もいるが、ただの伝承というわけではない。國の各地、各時代の手記や文献に似たような記述が度々出てくるし、ハイクの魂に住まう大鷲も、そう証言している。
「おまえの話じゃ確か、俺のは鋼玉と」
「青空だ。そうとも。だからこそ、こうしてわたしが移り住めたのだからな」
南の城門が見えてきた。狭い脇道に逸れ、住宅街へ入る。たちまちぐっと通行人の数が減り、両脇の背の高い家々が光を遮るので、辺りは急に薄暗くなった。そのまま大通りの喧噪とは逆方向に裏路地を進んでいくと、やがて道の先から明るい光が漏れはじめ、その先のひらけたところには、簡単な田畑と果樹園が並ぶ地帯がある。それを越えて、あぜ道に切り替わった一本道を進んでいくと、城壁のすぐそば、小さな雑木林が、曇天の下で鈍く木立を光らせながら静かに佇んでいた。
この雑木林のほとりに隠れているのが、“蟻の巣”へ潜るための階段だ。王都の南端と城下町とを繋いでいる、打ち捨てられた大昔の地下通路のことだ。その細く入り組んだ形状から、かつては人が暮らす地底都市だった、という話もあれば、水道橋の管理に使われた、という話もあるが、魔獣もおらず安全であるので、地元の住民が近道として利用することもある。“蟻の巣”というあだ名もそうした住民の間で徐々に広まっていったものだ。この“蟻の巣”にある一室を、ハイクは自分の住居として間借りしている、という訳である。
地下通路は、度々人通りがあることもあり、主要な道には水晶灯が取り付けられているので、常にぼんやりとした橙の灯かりが満ちている。途中にはいくつもの暗い横道がぽっかりと口を空けており、ハイクはそうした横道の一つにすべり込んだ。更に何度か交差路を曲がっていくと、葡萄の房のように小部屋が連なる一角に突き当たる。
最も奥の木戸を開けた。中に入り、壁掛けランプを付けると、ハイクは息をつき、荷物を下ろして上着を脱いだ。
椅子、テーブル、ランプ。少し固いベッド。残りをすべて本棚で埋めたこの小さな地下室が、ハイクのねぐらだった。

     *

荷解きを終え、準備をするか、と言って立ち上がった時に、ちょうど正午となった。木桶を持って一旦部屋を出、房の突き当たりにある小川から澄んだ地下水を汲んでくる。薬缶に移して湯を沸かしている間に、紅茶の茶葉と硝子のポット、マグを二つ用意し、砂糖の瓶を隣に置いた。大鷲は早くも、「そろそろじゃないか」と言って、サンドラの時とはまた別の意味で落ち着かない様子だ。薬缶が蒸気を吐き出しはじめた頃合いを見計らって携帯炉の火を止め、湯をポットに移した。先に入れておいた茶葉から濃い茶色が溶けだし、豊かな香りが立ちのぼって、狭い部屋の隅々まで染みていく。
ポットの中でくるくると回る茶葉を見ながら、ハイクは部屋に一脚しかない椅子に深々と座った。あとは待っていればよい。とんでもなく古いはずのその椅子は、音を一つも立てることなくハイクの重みを受け止めた。かなりの間留守にしていたから、この感触も久しぶりだ。
月に一度の午後、この日は必ず、ハイクはこの部屋に戻って来て、茶を淹れているのだと決めている。しばらくそうして体を休めていると、遠くの方から、とことこと小さな足音が聞こえてくる。二回、ノックの音。ハイクは立ち上がり、部屋の扉を開いた。
「あら、いい香りね」
戸口にはかわいらしい少女が立っていた。ハイクが思い描いたのと同じ赤毛が、背中でさらさらと揺れている。快活そうな、その実とても快活な彼女は、今日もお使いの帰りのようで、頬を紅潮させ、小さな手にはしっかりと茶色の紙袋が握られていた。中身はおそらく沢山の色の糸だろう。彼女の家は織物屋だった。
「ようこそ、アリア。久しぶりだな」
ハイクを見上げて、アリアは朗らかに笑った。
「こんにちは、ハイク」

深い紺の布の張られた、一人がけの重たい黒檀の椅子。それがハイクのいつもの位置だった。狭い部屋だからこそ、そういう基準になるようなところはきちんとしておかなければ気が済まなかった。この部屋の中で一番値打ちがあるものはと聞かれたら、この椅子だと答えるだろう。もちろん、自分にとって、という意味だ。物の価値とは、そういうところで決まるのだと思っている。
ハイクはアリアを中に招き入れ、座っていた椅子を譲った。二つのマグに紅茶を注いで、砂糖を二杯ずつ入れ、一つを渡す。いい香りね、ともう一度言って、アリアはマグを嬉しそうに受け取った。もう一方のマグを片手に、少女と向かい合う形で、ハイクもベッドに腰掛ける。
「いつ帰って来たの?」
スプーンで砂糖を溶かしながら、アリアは尋ねた。自分もスプーンで紅茶を混ぜつつ、今日着いたばかりだ、と答える。
「東の遺跡をあちこち巡ってたんだ。面白い奴らにも会えたし、いい旅だったよ」
「会えた……会えた? それだけ?」
アリアのほっそりとした眉が、きゅ、とつり上がった。その下にある二重の目に、咎める色が浮かぶ。ハイクとしては、それなりに濃厚だった冒険のあらましを話したかったのだが、アリアが気にしたのはハイクの言葉尻の方だった。
「今度は、ちゃんと商品になるような物を持って帰って来たんでしょうね。なる、というか、する気のあるものを?」
「心配しなくても、そこに置いてあるよ」
そう言われると思って、ちゃんと用意していた。ハイクは机の上を指差した。木製の机の上には、時計塔でルーミに譲って貰った手記が乗っている。アリアはまだ十歳になるかならないかという年齢だったが、すでにその目には、サンドラを髣髴とさせるような迫力が見え隠れするようになっていた。商売人の子というのはそういうものなのだろうか。じ、と見定めるような視線を向けてくる少女に手記を手渡しながら、「遥か古の、時の観測者の手記ですよ」と付け加えて片目をつむると、余計にアリアの眉がつり上がった。信用がない。だって、ねえ、と呆れたように溜め息を吐いて、アリアは椅子の肘掛けをとんとんと指で叩いた。
「あの時のこと覚えてる? 私、とっても驚いたのよ。だってあなたったら、気まぐれみたいに仕事に出掛けて行ったと思ったら、この椅子だけ背負って帰ってきたんだもの」
そんなこともあったなと苦笑を漏らす。そう、確かにあの時、アリアはとても驚いた様子だった。ハイクとしては、ちょうどその頃ハンター内で話題になり始めていた遺跡に、下見がてらに足を運んだだけのことだ。結局そこには、黄昏に関する情報は無かった。だが、とてもハイク一人では運びきれないほどの金品と、当時まだ座る場所すらなかった部屋にぴったりな椅子があり、ゆえに、ハイクは後者を選んだ。椅子の方が魅力的だと感じたのである。
「それに、あの時だってちゃんと中の地図は作ってきたぞ。後続の奴らが楽になるように」
笑うと、アリアは少女らしくない深々とした溜め息をついた。
「そういう話をしているんじゃないのよ」
手厳しい。「でも、いい椅子だろ」とにやりと笑うと、これ以上言って聞かせても意味がないと思ったのか、あなたってひとは本当に、とぼやきながら、アリアは手持ち無沙汰に、褪せた表紙の手記を開いた。
「この日記、ぜんぜん読めないわ。これも古代語なの?」
ぱらぱらと捲る本の頁は、定規で引いたようなぴしりとした字で埋められている。何度も開かれた気配はあるのに、一つの折り目もついておらず、書き手が相当な几帳面で、生真面目な人物だったのだろうというのが紙面からも滲み出ていた。ひたむきな機械技師の字だ。
難しい顔をして頁を捲っていたアリアが、突然あっ、と声を上げた。無邪気な子どもの声だった。
「これ、もしかして楽譜じゃない?」
興奮を抑えきれないといった様子で開いた頁をハイクに見せる。現在のものと異なる部分も見られたが、アリアの見立て通り、確かにそれは歌の譜面だった。やっぱり見つけたかと、ハイクは胸の内でほほ笑む。歳の離れた彼女と気の合う友人となった一番の理由はここにある。アリアは歌が好きだった。
「どんな曲か分かる?」
「もちろん」
期待には応えねばなるまい。ハイクは少女から本を受け取り、音を確かめながら曲の一節を口ずさんだ。もう一回、とねだられて、今度はもう一度、先程よりも抑揚を付けて、最初から最後まで。アレグロではなくアンダンテと読んだのは正しかったようだ。それは流れる歴史を追い、船を漕ぐ者の歌だった。
歌い終えると、アリアはほう、と溜め息をついた。
「ねえ、私、この歌が好きよ。それに、あなたが歌うと、なんだか部屋が暖かくなるみたいなんだもの」
呟いて、アリアは紅茶のマグを傾けた。ふと、その表情が暗くなる。大人びた性格のアリアだが、この顔だけは、元来の性格によるものではなく、また、庇護されるべき子どもが浮かべていい表情でもない。数年前、彼女の父親が病にかかってからというもの、アリアはこういう顔をすることが増えていた。
「ずっとこの部屋に居られたらよかったのに」
アリアの家の織物屋は、サンドラの店と同様、両親が夫婦二人で始めた店だった。笑顔が絶えず、互いに互いを労わることができる家族。そうした印象を受けたことを覚えている。
何かがおかしくなり始めたのは、アリアの父親が、熱病による後遺症で、体の左半分の自由を失ってからだ。織物屋を一人で背負わなければならなくなったアリアの母親は、懸命に店を切り盛りし、アリアを育て、夫を看ていたが、去年の暮れのあたりから、次第にその危うい綱渡りにぐらつきが見え始めた。彼女は日を追うごとに自分の感情を抑えられなくなっていった。アリアもまた懸命に母を助けたが、アリアが店を引き受けられる年齢に達するよりも先に、母親が限界を迎えてしまった。彼女の口から家族への励ましの言葉は減り、代わりに彼らへの不満や、自分の境遇を嘆く言葉が増えた。日常的に癇癪を起こし、ひどい日には、その怒りがアリアへ向くこともあったようだ。母親はアリアを打ち、それを見た父は母を打った。アリアが定期的なお使いの帰りにハイクの元にやって来るようになったのには、そうした家から逃れ、一時的に心を落ち着けるためという意味合いもある。
普段なら夕方近くまで居るにもかかわらず、アリアは一刻と経たないうちに帰り支度を始めた。もう行くのか、と聞けば、母親が心配なのだという。
「今朝は具合が悪そうだったから。きっと今頃、お父さんを困らせてるわ」
アリアは糸の包みをしっかりと胸に抱え、立ち上がって扉に向かった。小さな背中だ。アリアの最後の砦が家ではなくこんな地下室だという事実に、苦いものがこみ上げる。
「紅茶、おいしかったわ。またすぐに来てもいい?」
「ああ。次の依頼が見つかるまでは王都に居るつもりだから、何かあったら、遠慮なく来てくれ。何もなくても、来てくれ」
「うん。ありがとう」
アリアは弱々しくほほ笑むと、早足で部屋を出ていこうとする。

具体的に何かがあった、という訳ではない。
ただ、予感だけがあった。嫌な予感だ。

「おっと、そうだった。武器屋に銃を取りに行くんだ。せっかくだから送っていくよ」
半日の約束にはまだかなりの時間があったが、ハイクは咄嗟にそう言うと、両手に皮手袋を嵌め、上着とガンベルトを引っ掴んでアリアに並んだ。アリアは少し驚いたようだったが、再びあの弱々しい顔で、ハイクを見上げた。
「ありがとう」
鋭い子どもだ。子どもだからこそ、大人達の隠し事には敏感になるのかもしれない。

    *

結局そのあと、アリアはふた月のあいだに四度、ハイクの元を訪れた。ハイクはそのたびにアリアを家まで送り、アリアはハイクが見送りを申し出るたびに「ありがとう」とほほ笑んだが、彼女の顔には、次第に疲れと苦悶が濃く現れるようになっていった。
母親の状態についてアリアは何も言わなかった。それでも、アリアの家がどうなっているのかは、その顔を見れば手に取るように分かる。翌月、五回目の茶会で、ハイクは古典を読み聞かせていたが、ふと本から顔を上げると、アリアは青い椅子に体を預け、丸くなって静かな寝息を立てていた。ハイクは立ち上がり、ベッドの毛布を持って来て、わずかに上下する体を包んだ。夕方になってようやく、アリアはゆっくりと目を開けた。短すぎる休息だ。それでも、夜になる前には、アリアは父親が待つ織物屋へと帰っていく。アリアが居ても母は荒れるが、居なければもっとひどいことになる。アリアはそれを知っていて、そしてハイクはそんなアリアを知っていたので、無理に止めはしなかった。
帰り道、いつものように並んで地下通路を歩いていると、アリアが俯いたまま呟いた。「お父さんが言ってたわ。お母さんは病気なんだって。でも、私とお父さんがちゃんとついていてあげれば、きっと良くなるだろうって。でもね、私、ときどき思ってしまうの。お母さんの病気は、もう治らないんじゃないかって。だけどそれって、私の勘違いよね。ねえ、ハイクもそう思うでしょ」
そこで初めて、アリアはハイクを見上げた。縋るような視線。ハイクは弱々しく垂れ下がったアリアの手を力強く握って、励ますように言った。
「おまえの母さんは今、自分の中の病気と戦ってるんだ。だから、母さんは病気なんかに負けないんだって、そう信じてやれ」
「信じる? お母さんを?」
「そうだ」
ハイクは頷いた。アリアの母親の中にあるのは、おそらく病ではなく、黄昏だ。父親も薄らとは分かっていて、しかしアリアの前でその言葉を使うのは躊躇われたのだろう。ハイクは左手で、アリアの右手を握り直した。
「それが、母さんの力になる。だから信じてやれ。おまえが好きな、優しくて明るい母さんを」

ハイクとアリアは蟻の巣を通り抜け、王都の隣にある、城下町シュペルリングへ向かった。地下道の城下町側の出口は、商店街のすぐ近くにある。アリアの店もある商店街だ。もうじき夕餉に差し掛かろうという時間帯、通りは野菜やパンの袋を手にした買い物客で賑わっていた。手を繋いだまま、賑わいの中を進んでいく。織物屋の建物が見えてくる。扉には営業中の札が掛かってはいるが、店の中は薄暗く、客で賑わっている気配もない。
大鷲が顔を上げたのはその時だ。
嫌に鋭く冷たい声で、大鷲は鳴いた。
「ハイク、黄昏のにおいがする。腐った血のにおいだ」
数秒後。織物屋の中から、男の悲鳴が聞こえた。物がひっくり返る派手な音、そして間を置かずに、遠吠えにも似たおぞましい叫びが通りに響く。買い物客は足を止め、しかし何が起こったのかまでは理解しきれずに、不思議そうに辺りを見回している。
ハイクの全身に、雷に打たれたような緊張が走った。
「いいか、アリア、ここから動くな」
ハイクは手を離し、アリアを振り向いてほとんど叫ぶように言った。アリアがきょとんとした顔で頷くのを確認して、走り出す。
狭い室内で銃は不利だ。ナイフの柄に手をかける。ようやく織物屋を振り向き始めた通行人のあいだを猛烈な速さで駆け抜け、その勢いのままドアを蹴破ると、ハイクは店の中に飛び込んだ。
禍々しい気配と血の臭気が満ちていた。全身に悪寒が走る。
店は一変していた。商品の布束が床に散乱し、棚は倒れ、黄の壁紙は鋭い爪に切り裂かれて、無残に破けている。その壁にへばりつくようにして、小太りの男がへたりこんでいた。アリアの父親だ。側には横倒しの車椅子がある。アリアの父は強張った顔で店の対面を凝視し、そしてその目線の先に、それが立っていた。
踵が上がった犬のような足。ぼろきれ同然のスカート。両腕に生えた鎌にも似た刃。全身がまだらに黒く、髪が長い。
見た瞬間にハイクは悟った。彼女はもう人ではない。魂を黄昏に食い殺されてしまった。こちら側に戻ってこられる段階はとうに超えている。
魔獣と化したアリアの母親は、白目をむき、奇妙に引きつった高笑いを上げながら、今にもアリアの父親に襲いかかろうとしていた。ハイクは右手でナイフを抜いた。逆の手で足元に転がっていた植木鉢の土を掴み、父親と魔獣の間に転がり込む。父親に向かって叫んだ。
「伏せろ!」
ハイクは土を魔獣の目に投げつけた。ぎゃっという短い悲鳴。魔獣は片腕で目を覆い、もう片方の腕を闇雲に振り回す。ハイクは床板を蹴り、腕の下をかいくぐって魔獣の背後に回り込んだ。
気づいた魔獣が振り返り、腕を振りかざす。しかし、ほんの一瞬だけハイクのほうが速かった。長い髪のすき間から、ぎらついた白目がのぞく。刹那、ハイクは、炎の中の母を思い出した。だが、あの時のように足がすくむこともなければ、逃げ出すこともない。おそらくハイクはその瞬間、その場の誰よりも冷酷で非情だった。鋭くナイフを構える。振り下ろされた敵の腕をすり抜け、懐に踏み込むと同時に借り物の力を使う。浮かぶ刃の軌跡。
首だけ狙えばいい。ハイクは見えた通りにナイフを閃かせた。
一閃。ハイクのナイフは、魔獣の頸動脈を見事に断ち切った。ハイクの顔のすぐ横には、相手の鎌があった。一瞬の沈黙。魔獣の首の側面に、巨大な血飛沫の華が咲く。しかしそれは血ではなく、血のように赤い水晶だった。
ゆっくりと、魔獣の体が傾いていく。何かが軋むような耳障りな音と共に、魔獣の体が頭から紅水晶へと転じ、その水晶は金色の砂となって、完全に床に落ちるよりも先に、跡形もなくその場から消失した。

沈黙だけが残った。耳に痛いほどの沈黙だ。ハイクも、アリアの父親も、肩で息をしていた。それでも、その呼吸音すら圧し潰すほど、重く苦しい静寂が店を覆っていた。
騎士を呼べ。通りで誰かが叫ぶ声が聞こえるまで、静寂は続いた。

     *

幸い、車椅子は無事だった。ハイクがアリアの父を連れて外に出ると、巡回中だったと思われる数人の騎士が、町人に先導されて通りの向こうから駆けつけてくるところだった。ぽつりと頬に冷たい雫が当たる。雨が降り始めていた。
「お父さん!」
アリアの声だ。その声で、ハイクはぼんやりとしていた頭を急いで現実に引き戻した。
その時になって初めて、ハイクは店の周りに人だかりができていることに気付いた。アリアは糸の包みを持ったまま、戸惑った様子で父親の元に走り寄ってくる。父親は右手でしっかりと娘を抱きしめた。そうすることで、自分が黄昏に呑まれるのを避けようとしているようにも見えた。
「お父さん、何があったの? お母さんは?」
父に抱かれたまま、自分がなぜそうされているのか分からないとでも言いたげな顔で、アリアは店の中を見つめていた。滅茶苦茶になった店の中央に、母親が今朝まで着ていたスカートの残骸だけが落ちている。父が何も言えないでいると、アリアはハイクを見つめ、同じ問いを繰り返した。
「ねえ、ハイク。お母さんは?」
ハイクは息を呑んだ。アリアの目は、ひどく澄んでいた。透明で、静かで、どこまでも沈んでいけそうな、淡い緑色をしていた。十歳の子どもの目。逸らしたくてもそれを許さない目。悲しいことがあったのだと、本能で感じ取っている目だ。底のない湖面のような、乾燥しきった砂漠の砂のような色をしている。
アリアの父も何も言えなかったが、ハイクはそれとはまた別の意味で、言葉を失ってしまった。アリアの純粋な瞳の前では、何を言っても醜い言い訳にしかならなかった。ハイクはアリアの母を殺し、アリアの父親の妻を殺した。それだけが正しい現実として目の前に横たわり、分厚い透明な壁となって、ハイクと親子を隔てていた。父親は、うわ言のように同じ質問ばかりを繰り返すアリアに、言い聞かせるように呟いた。
「ハイクは私達を守ってくれたんだ」
「そうなの? 何から?」
「魔獣、から」
父親の声は震えていた。ハイクからすれば、いっそこの場できつく詰られていたほうが楽だった。鎧の足音が石畳を打ち、ハイクはのろのろと顔を上げた。人の波を分けてくる騎士達の、先頭を切ってこちらに走ってくる男の顔に、見覚えがある。青いマントを背になびかせたその騎士は、後ろに付いていた部下達に素早く指示を飛ばし、店の周りを囲わせ、混乱している人々を誘導させた。道中彼らを先導した町人の話と、玄関先に居るハイク達、そして店の中の惨状で、おおよその察しがついたらしい。騎士は固い顔でじっと親子を見つめ、それからハイクに向き直り、静かに言った。
「何があったのか教えてくれるかい、ハイク」
騎士は、名をフィデリオといった。明るい茶髪と深い青の目を持つ、ハイクの古い友人だ。ハイクは未だに呆然としている親子の元をそっと離れ、頷いた。雨足が強まっていた。
「その代わり、あの二人を頼む」
「ああ、分かってる」
フィデリオの青い目は、言外に「きみがやったんだな」と問いかけていた。無言で肯定を返す。どこか気遣うような友の視線は、ハイクが事件に関するいきさつを語っているあいだ、ハイクから逸れることはなかった。

     *

その日の夜も、翌日も、冷たい雨が街を冷やした。アリアの母親の葬儀は、街の騎士達や付き合いのあった近所の住人の手を借りながら粛々と行われ、遺体のないがらんどうの棺が、街はずれの墓地の、真新しい墓石の下に埋められた。
アリアの父は気丈だった。そして、アリアもまた、決して涙を見せなかった。アリアはただじっと、遠くへ飛んでいく渡り鳥の群れを見るようにして、棺に土が被せられていく様子を見下ろしているだけだった。
すべての葬儀が終わったあと、アリアは一度だけハイクを見て、か細い声でたった一言、明日も行っていい、とだけ聞いた。
ハイクは頷いた。それ以外に、一体何ができただろう。

翌日の昼過ぎ。再びハイクの部屋の戸口に現れたアリアは、もうあの透明な目をしてはいなかった。
アリアは理解していた。自分の母親がどうなったのか、あの滅茶苦茶になった織物屋で何が起こったのか、そして、その母親と対峙したハイクが、彼女に何をしたのか。その上でアリアは、再びこの部屋にやって来ることを選んだのだ。
なんのために来たのか? 簡単なことだ。
透明な目をやめたアリアの両目からは、音もなく大粒の涙が流れ落ちていた。
ハイクは、だまってその場に膝を付いた。たちまちアリアの顔がくしゃくしゃになっていく。涙が流れるたび、新しい涙が目尻に溜まり、溢れ、丸い頬に筋をつくる。ハイクがゆっくりと腕を広げると、アリアはすがりつくようにして、ハイクに抱きついた。ハイクが回した両腕の中で、アリアは懸命に堪えていたが、次第にひきつった嗚咽が大きくなり、しゃくりあげる声は、狭い通路の石壁に吸い込まれていく。
「わた、私のせい、かしら。私が、もっとちゃんと助けてあげられていたら、お母さんは、魔獣にならなくてもよかったの?」
「おまえは悪くない」
ハイクは腕に力を込めた。アリアの体は驚くほど細く、薄く、そして熱かった。一体この小さな体のどこにそんな熱があるのかと思うほどだった。
「おまえは悪くない。おまえの母さんも、父さんも、悪くない。おまえの母さんは親切で優しい人だった。それは俺も、街の皆も、でもって、おまえの父さんやおまえが、一番よく知ってる。これから先だって、ずっと変わらない、そうだろう」
アリアが落ち着くまで、ずっとそうして、小さな背中をさすっていた。そのあとでハイクはアリアを部屋に入れ、いつもの青い椅子に座らせ、少し待ってな、と言って湯を沸かし、紅茶を用意した。喉が渇いていたのか、アリアは鼻をすすって、まだ涙の溜まった目で、素直にマグを受け取った。

二人でだまって、普段通りに熱い紅茶を飲んだ。子どもの狭い世界の中では、何もかもが変わってしまうのと、一つでも変わらない物があるのとで、心の持ちかたは大きく違う。アリアのマグが空になったのを見計らって、新しい紅茶を淹れようとハイクが立ち上がると、ぽつりとアリアが口を開いた。その頃には、涙の名残はあれど、アリアはいつものアリアだった。強い、強い子どもだ。
「お父さんが言ってたんだけれど、お店、しばらくしたらまたやり直すんだって。まずはいっしょに働いてくれる人を探すって言ってたわ」
「そうか、楽しみだな。新しい店が開いたら顔を出すよ」
「うん、そうしてね。新しい服をしつらえてあげるから。うんと格好良くしてあげるわ」
アリアといいサンドラといい、女性の商売人のしたたかさに年齢は関係ないらしい。だが、ときどき王都に帰ってきた時に、馴染みの店で冗談のように高い品物を売りつけられるというのも、そこまで悪いこととも思えない。
「またすぐに発つんでしょう」
「またすぐに帰ってくるさ」
返すと、あなたってひとは本当に、と決まりごとのように囁いて、アリアは笑った。幼い瞳が、わずかな寂しさを湛えて揺れている。
「次の月も、その次も、戻って来てちょうだいね。あなたほど沢山の歌を知っている人は私の周りにはいないんだから、次もちゃんとここに居て、歌を教えてくれないと嫌よ。でないと私、あなたの部屋も、この椅子だって、ぜーんぶ取っちゃうんだから」
悪戯っぽく笑うアリアのことだ。ハイクが戻って来なかったら、きっと本当にそうしてしまうに違いない。そいつは参るな、と軽く頬を掻いて、ご機嫌取りとばかりに、ハイクはアリアのカップに熱い紅茶を注いだ。
砂糖は二杯。お茶うけは、遺跡で拾った古い歌。そういう約束だ。





(アリアとアンダンテ)

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